あらゆる業界にテクノロジーが浸透し、ビジネスモデルが大胆に変化していく現代。ビジネス環境の変化に伴い、私たちの働き方も変化しつつある。
そうした変化の激しい時代においては、日々、新しい職種が誕生している。その一つが、事業戦略・経営戦略の実現をサポートしていく「HRBP(Human resources business partner)」だ。
欧米ではすでに多くの企業が取り入れており、日本でも外資系企業を中心に広がりを見せるHRBPは、時代の変化に対応した“戦略人事”として注目を集めている。
50以上の事業を持ち、AIから一次産業まで多角的な経営を展開するDMM.comで働く大嶋悠也(おおしま ゆうや)さんは、「専門性を発揮しながら各職業のプロを束ねるHRBPは、非常に市場価値が高い仕事です」と語る。
市場に新たに登場した注目職種を探る連載「フューチャーワーク探検隊」の第1弾は、大嶋さんのキャリアに焦点を当てながら、これからさらにニーズが高まるであろうHRBPについて探っていく。
—— 大嶋さんが担当する「HRBP」とは、どのような職種なのですか?
定義は一様ではありませんが、私の中では「事業部とバックオフィスの間に立ち、相互の関係を円滑に調整する仕事」だと思っています。
変化が激しい現代においては、新規事業が生まれたり、その一方で事業を畳んだり、組織も急激に変化するものです。
経営戦略が変わることも日常茶飯事で、その度に組織が多角化し、調整が難しくなります。HRBPは、そうした変化の激しい組織で力を発揮する職種です。
そもそも「HRBP」とは、「Human resources business partner」の略称。経営層や事業部門のパートナーとして、人と組織の面から働きかけやサポートを行い、成果を創出する人事のプロフェッショナルのことを言います。
企業の成長を支える根本は、人です。
人事と聞くと、裏方の色が強いように感じるかもしれません。しかし、イノベーションや付加価値を生み出す人材の確保・育成に従事し、事業の変化を見据えて人材ポートフォリオを構築して、経営戦略と適合する人材戦略の実行をしていくのが「HRBP」です。
いわば、経営に直結する人的資源活用のプロフェッショナルですから、表に出ることはなくても非常に重要なポジションだと考えています。
—— 専門性が問われる、非常に重要な職種なのですね。HRBPを目指すには、やはり人事からキャリアをスタートすべきですか?
いえ、そんなことはありません。
HRBPが担当する領域は、いわゆる人事の職域とは異なります。人の側面から経営をサポートするのがミッションなので、そこには労務管理やPMI(ポスト・マージャー・インテグレーションの略で、組織の吸収合併時に統合効果を最大化する業務)など多様な役割が含まれます。
経営の知識も必要になりますし、マネジメントや事業への理解も求められますから、幅広い経験があることのほうが重要です。人事以外の職務経験があることが、強みになる機会も少なくありません。
実際、私も新卒では経理を担当していましたし、人事の経験はそこまで長くありません。それでも、HRBPとしての職務を全うできていると思います。
—— 大嶋さんは現在に至るまで、どのような経歴をたどってきたのですか?
もともと、営業職を志望していました。きっかけは、行政から予算をいただいてカフェを経営したことです。
就職活動と並行しながら、地方自治体が主催する空き店舗活用を主題としたビジネスコンテストに参加したところ、自分のグループが提出した企画案が採択されたんです。「早速やってみてよ」とのことで、地域活性を目指したプロジェクトが発足しました。
とはいえ、過疎化が進む地方で、売り上げを立てることは簡単ではありません。行政からの支援があったとはいえ、当然のように販管費がかかります。売り上げを立てなければお給料も払えないので、飲食による売り上げ以外にも、商店街でのイベント企画や関連ビジネスなどにも挑戦しながら経営に打ち込んでいました。
しかし、自分の実力のなさもあって、売り上げは一向に伸びなくて……。雇用していたパティシエにお給料を払えなくなってしまう事態に見舞われ、個人で借金をしたこともありました。
—— お金を稼ぐことの重要性を感じ、営業職を目指された?
内定をいただいた企業の中で、商品ありきの営業ではなく、個人のスキルや経験による営業力が最も身に付きそうだと感じたのが、当時急成長していたネオキャリアでした。
人材業界に興味を持っていたわけではありませんが、「稼ぐ力を身に付ける」べく、ファーストキャリアを選択しました。
学生にしては色濃い経験をしていたので、実際に働く前から“数字をつくれる人材”になろうと、息巻いていましたね。
しかし、ふたを開けてみれば、配属されたのは経理でした。150人の同期がいた中で、管理部門に配属されたのは、たったの7人です。
やりたいことが明確だったので、「どうして自分が?」と落ち込みました。働き始めて3日目には、退職することも考えました。
しかし、結果的には、この経験が今につながるターニングポイントになっています。