【卒業後分析】リクルート社員の働き方に見る「人材輩出」の秘密
2021年6月2日(水)
主な事業として人材採用や人材派遣の支援サービスを展開しているリクルート。1963年に江副浩正さんによって創立され、現在はリクルートグループ全体で国内外のさまざまなサービスを運営している。就活時に用いられる「SPI」を開発したのも同社だ。
そんなリクルートの特徴は、人材輩出企業としても有名なこと。
「元リク」という言葉を耳にしたことがある人も多いだろう。この言葉は、リクルートの卒業生がさまざまな場所で活躍し続けているからこそ存在している。
なぜ、リクルートのみならず社外の組織でも活躍できる人材が育つのか。
NewsPicksは昨年10月、これまで一切メディアに語られることのなかった独自の組織運営術を、リクルートホールディングスの役員3人に聞いた。
【独占】リクルート、60年秘伝の「ロール型」組織を初公開この記事を読むと、リクルートの人材輩出力には「個人のWill(やりたいこと)と組織の期待を徹底的にすり合わせる」カルチャーが関係していると考えられる。
各部署の上司が今期達成したい事業戦略をメンバーに伝え、個人の「Will」「Can(できること)」とすり合わせた上で「Must(やるべきこと)」に落とし込むのがリクルート流だ。
実際にリクルートホールディングス執行役員・野口孝広さんはこう語っている。
「まず上司は自分たちの部署は今期は何の事業のどの部分にフォーカスするのか、その戦略を伝え、当人の『Will』や自己成長のイメージと合うか、その仕事を行うためにはどんな支援が必要かなどを確認します。そのすり合わせがうまくいかなければ、時間を延長し、何度でも行います」 ——【独占】リクルート、60年秘伝の「ロール型」組織を初公開
では、共有した事業戦略と、個人のWill・Can・Mustのすり合わせは、どのように行っているのか?
その答えが、下の「Will Can Mustシート」である。

このように、リクルートでは個人のWillと、仕事で問われるCanとMustの連動が強く問われる。だからこそ、どの職種でも当事者意識や起業家精神が養われ、外に出ても活躍できる人材が育つのだろう。
こうした環境で育った「元リク」たちは、リクルートを退職後、どのようなキャリアを歩んでいるのか。
JobPicksに登録しているロールモデルの経歴から、退職後のキャリアをまとめる(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。
リクルート社員のネクストキャリアは、事業企画・事業開発のプロフェッショナルとして他事業会社でその能力を発揮するパターンが多い。
事業企画・事業開発のノウハウは、求められる素養が多いこともあり比較的ポータブルなスキルなので、他事業会社でも活躍できるようだ。
高越温子さんは、新卒でリクルートに入社後、法人営業(フィールドセールス)からキャリアをスタートさせた。
営業企画・営業推進、事業企画・事業開発へのジョブチェンジを経験し、2018年にリクルートを退職。フリーランスを経て、現在はnoteで「note pro」の事業開発を担当している。
高越さんは事業企画・事業開発に向いている人・向いていない人として、「先の見えない状況を楽しながら、先頭を走れる人」と回答している。
事業開発は、社内でまだ誰もやったことがないことや、答えがわからないことに対して向き合う場面が多くあります。 そんな状況でも、変化を楽しみながら前を見ることができるか、リーダーシップを発揮して周囲を巻き込みながら仕事を進めることができるかが、とても大切な資質だと思います。 反対に、業務内容や進む道筋がきちんと決まっていることを着実に進めることが得意なタイプの方にとっては、ストレスのある仕事かもしれません。
事業企画・事業開発は、目標から手段まで、全てのことを自ら模索し決めていく必要がある。そのため、ガイドを受けることが少ない職業だ。
また、自身だけで完結する仕事が少なく、社内外の多くのメンバーを巻き込んで成果を出すのを求められる。
自ら仮説を設定しながら自走し、その行動を軸に周囲の協力を得ていく習慣は、「Will Can Mustシート」で身についたものといえるだろう。
前途の通り、リクルートは人材採用や人材派遣の支援を主力事業に据えている会社である。それもあって、人事として事業会社に転職し、採用をサポートする側から実践する側に転身する人も多い。
各種求人ソリューションの営業経験や、人材紹介におけるエージェントとしての経験が生きるのだろう。
安藤春香さんは、新卒でリクルートに入社後、リクルートジョブズで約4年間、法人営業(フィールドセールス)を経験した後、ゲームコンテンツやECサイトなどを開発・運営する総合IT企業エイチームに人事として転職している(現在はジョブチェンジし、広報・PRを担当)。
安藤さんは、人事のやりがいとして「自社の魅力を伝える役割」と回答している。
採用であれば、採用候補者に自社の魅力が伝わり、共感してもらうことは純粋に嬉しいです。採用の仕事は、「人を採用する仕事」ではなく、企業の魅力や特徴・強みを採用候補者に伝えるエバンジェリストだと考えています。 また、採用候補者の人生の選択肢のタイミングに立ち会えたことは緊張感がありながらも光栄に思えま
多くの担当企業の魅力を伝える仕事を通じて、人事・採用に必要な知識を身につけ、次は自分自身が実践する。スキルマッチ(Can)だけを考えれば当然のように思えるが、そこにWillがあったからこそ実現できた転身とも考えられる。
人材輩出企業と名高いリクルートは、退職後に起業するメンバーも多い。
採用ページには「起業家精神」とコピーを掲げ、新規事業提案制度「Ring」では834件が起案されるなど(2020年度実績)、事業づくりに高い関心を持つメンバーが集まっているのが背景にある。
横田響子さんは、新卒でリクルートに入社後、法人営業(フィールドセールス)や事業企画・事業開発、営業企画・営業推進など複数の職種を経験してリクルートを退社。その後は広報・PRのフリーランスを経てコラボラボを創業し、起業家・CEO(最高経営責任者)としてのキャリアを歩んでいる。
横田さんは、「この職業のプロになるには」の質問に対する回答で、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉に触れている。
会社経営をする中、新たな価値の創造や社会への貢献に向け、マイペースに仕掛け続ける日々です。一人よりもチームだからこそ実現できることが多い。ということで以下3つ。 ・「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」 前職リクルート創業者の言葉です。仕事に対する姿勢はこの言葉に尽きます。 ・「要望しても期待するな」 創業からずっとブレストにつきあってもらっている中学からの親友にたびたび言われる言葉。 期待にこたえ続けることに慣れている古巣の仲間とは異なり、多様なバックグラウンドを持つビジネスパートナー、従業員、顧客と幅広く仕事をする機会がありいいチームをつくる秘訣、とのこと。(でも難しい) ・「ゆるゆると、しなやかに」 ”ゆるゆる”は創業期に時折訪問しご意見をいただいた東京大学の玄田先生がよく口にされ言葉。思い通りにならないことも多々あるが、ゆるゆると、そしてしなやかに。です。
これはリクルート創業者、江副浩正さんの言葉であり、リクルートの旧・社訓だ。
リクルート社内で長く言い伝えられ、公式な社訓ではなくなった現在でも、この言葉が彫刻されたプレートをデスクに掲げているメンバーがいるほど深く根付いているという。
横田さんの他にも、 CFO(最高財務責任者)として活躍するモノグサ細川慧介さんや、CHRO(最高人事責任者)として働くココナラ佐藤邦彦さんなど、経営人材として活躍しているロールモデルがいた。
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」の精神が刻み込まれた元リクたちは、その言葉の通り、さまざまな挑戦を重ねることで機会を創り出しているのだろう。

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文:小林将也、編集・デザイン:伊藤健吾、バナーフォーマット作成:國弘朋佳、バナー写真:iStock / Zephyr18