【転職】6職種で検証「営業経験」は本当につぶしが効くのか

2021年8月25日(水)

「営業ノルマを追い続ける仕事はキツい」「いずれ売るモノをつくる側に回りたい」

多くの業界・企業で常に採用枠のある営業職だが、入社後、こんな悩みを持つ若手社員が一定数いる。

学歴不問なことが多く、営業成績に応じて年収(月給)が大きく変わるのが魅力とはいえ、体力的にもいつかは違う職種に......。そう考えるのは、営業パーソンにとって通過儀礼のようなものだ。

しかも近年は、営業職を続けるのに不安を抱かせるような変化も起きている。DX(デジタルトランスフォーメーション)によって、売るモノも売り方もデジタル化していることで、営業職の人口自体が減っているのだ。

下の記事によると、営業の職業人口は、2000年ごろをピークに年々減っている。特に、営業職の中でも高給取りだったMR(医療情報担当者)や金融・保険営業が、デジタル化のあおりを受けて就労人数を減らしているという。

【仕事の未来】今、あなたの仕事を取り囲む「5つの大変化」

人材サービス企業のミイダスによる調査では、2016年時点で営業職の71%が転職しても営業を選んでいたそうだ。しかし、営業の職業人口が減っていく流れに拍車がかかれば、同時に応募できる求人数も減っていく。

デジタル化の時代に即した営業関連職として、インサイドセールスやカスタマーサクセスの求人が増えている(参照記事)とはいえ、転職や異動で全く異なる職種にキャリアチェンジするのを考える人は増えそうだ。

では、未経験から異なる職種へ転身できる人は、どんな特徴があるのか。JobPicksのロールモデルで、営業職から異なる職業へ転身した人の経験談から、傾向を読み解いていく(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。

営業で身につく3つの汎用スキル

転職・異動の事例を紹介する前に、JobPicksのロールモデルの中で、法人営業(フィールドセールス)を経験した人たちが「次の仕事」に何を選んでいたのかをデータで見てみよう。

転身先となった上位5職種を多い順に並べると、次のような結果となった。

また、NewsPicksがキャリアSNS「YOUTRUST」の協力を得て調査した結果を見ても、法人営業(フィールドセールス)経験者が転身した職種の上位は

となっている(調査詳細は以下の記事にて)。

【追跡調査】職種別「キャリアパス」図鑑

この記事では、未経験から上記の職種に転職した営業経験者が多い理由として、下図のような汎用的なスキル=ポータブルスキルを応用しやすいからと分析している。

そこで、実際に営業から転身したロールモデルは、これらのスキルをどのように生かしているのかを具体的に見ていこう。

営業から事業企画への転職例を検証

最初は、前述した2つのデータ両方で名前が挙がった事業企画・事業開発への転身事例だ。

ファーストキャリアで法人営業(フィールドセールス)を経験したのち、事業企画・事業開発職に転じたNTTドコモの山本将裕さんは、仕事の苦労を次のように語る。

山本 将裕山本 将裕

面白みの部分の相反しますが、正解が無いことをやることです。 社内で

書いてあることのほぼ全てが、営業の仕事内容とさほど変わらない。また、営業の仕事で身につく「問題解決力」が、これらの苦労を払拭するのに役立つことも読み取れる。

NewsPicksで事業企画・事業開発を担当する内田友樹さんの経歴とコメントを見ても、問題解決力や「顧客の心理を推察する力」が重要になると分かる。

内田 友樹内田 友樹

戦略によってメンバーのベクトルが揃い、売上が上がっている時

何と言っても「事業が成長している」ことを感じられる時が最も楽しい。なので、成長し続けることはとても大事。 理由は当たり前だが、売上があがることはそれだけ「世の中に価値を提供していることの表れ」であるし、さらに売上があがれば組織も大きくなり、どんどんポジションを作ることができるため、多くのチャレンジを組織内に生み出すことができるため。 またただ単にがむしゃらに売上をあげるのではなく、描いた戦略に基づき、みんなが「束」になっている状態であることも大事である。戦略とは「何をやり、何を捨てるのか」を示したものなので、例えある顧客に売れなくてもそれがターゲット顧客でなければ失注で構わない(本来はそんな顧客に営業にいくこともしない方が良いが)。戦略を全員が意識しながら仕事をしている組織の雰囲気は最高である。

特に「戦略とは『何をやり、何を捨てるのか』を示したものなので、例えある顧客に売れなくてもそれがターゲット顧客でなければ失注で構わない」という考え方には、営業経験で身についたポータブルスキルが生かされていると推察される。

手掛ける事業の想定顧客を念頭に置きながら、少ないリソースでも可能な打ち手を考え抜くのが大切ということだろう。

営業からCxOへの転職例を検証

これは、究極的には企業経営にも応用できるやり方だ。

実際に、ジブラルタ生命保険で金融営業を経験したのち独立し、現在は営業アウトソーシングのSurpassでCOO(最高執行責任者)を務める青木想さんは、経営を支える立場でも営業経験が生きていると証言している。

青木 想青木 想

肩書はCOOですが、プレイヤーとして商談に行ったり、採用イベントの企画、採用面接、新規事業の立ち上げをしたりと、営業と経営を中心に会社のほとんどのことにかかわっています。 ──【決断】31歳で外資生保に転身。元リク経営企画の戦略的キャリア

【決断】31歳で外資生保に転身。元リク経営企画の戦略的キャリア

営業から人事への転職例を検証

では、事業企画や経営とは異なる役割のように思える人事の仕事が、営業経験者の「次のキャリア」に選ばれるケースが多いのはなぜか。

リクルートで求人営業を経験し、その後に不動産企業TOKYO BIG HOUSEの人事に転職した宮本久美子さんは、やりがいを感じる瞬間を「組織戦略が機能して事業目標が達成したとき」と述べている。

宮本 久美子宮本 久美子

組織戦略が機能して事業目標が達成したとき

企業ミッションの実現のために描いた事業戦略が、組織戦略もハマって達成

この話を換言すると、経営者や社員を「顧客」と考えて、“顧客ニーズ”を先読みし、問題を解決するための打ち手を提案・実行するということだ。

人材採用における応募者獲得〜社員育成までの仕組みづくりや、年収・給与形態を含む働き方改革につながる施策などを考えて、社内の課題を解決する戦略を売り込む仕事内容ともいえる。

この点で、サービスを提供する相手は違えど、営業で身につくポータブルスキルを存分に生かせる仕事のようだ。

営業から経営企画への転職例を検証

同じコーポレート職で、経営企画に従事しているエクサウィザーズの守屋智紀さんも、元営業として「多面的なステークホルダーをふまえた創造的調整」が仕事のカギになると述べる。

守屋 智紀守屋 智紀

多面的なステークホルダーをふまえた創造的調整

経営企画業務においては、自社顧客、取引先、従業員、残余利益の享受者と

社内外にいる利害関係者の心理を推察しながら課題を見いだし、解決策を提案していく仕事ゆえ、営業で身につく3つのポータブルスキル全てが必要となる。

守屋さんは、キャリアの途中で国内MBAを修了し、経営コンサルタントも経験しているため、営業経験「だけ」を応用しているわけではない。それでも、基礎となる力は営業時代に培ったものだと思われる。

営業からエンジニアやデザイナーへの未経験転職を検証

最後に紹介するのは、NewsPicksとキャリアSNS「YOUTRUST」の共同調査で浮かび上がった、ソフトウェアエンジニアへの未経験転職パターンだ。

下の記事にもあるように、社会人になってからプログラミングをはじめとするエンジニアリングスキルを習得するのは非常に難しい。

【経験談】未経験から「ITエンジニア」転職前に何を学ぶべきか

それでも、ITベンチャーのアトラエでソフトウェアエンジニアをするTagami Shogoさんのように、営業からの転身に成功しているロールモデルは存在する。

Tagami ShogoTagami Shogo

Tagamiさんのコメントを読むと、テクノロジーを駆使してユーザーの問題解決を行うプロセスで、営業経験で身につくポータブルスキルが生きている。

個人・チームで難しい問題を解決したとき

エンジニアは特にビジネス・技術両面で難しい問題に晒されることが多いと

ソフトウェアエンジニアと同様に専門技術が必要なUIデザイナーに転身したアトラエの新垣圭悟さんも、デザイン業務で用いる思考プロセスが営業的だ。

新垣 圭悟新垣 圭悟

画面を通じて、意図した価値を生み出した瞬間、それ以上の価値が生まれる瞬間

UI(User Interface)はそれだけでは効果を発揮しません。 ●サービスを通じてどんなビジョンを達成したいのか ●生み出したい体験(UX)をもとにどのようなデータを表示することが良いか ●表示するデータを意図した体験に落とし込むためにはどのような画面である必要があるか ●その画面が想定どおりの挙動で実装されているかどうか 画面そのものだけではない変数が多分にある職種だと思います。そのため、画面を通じて意図した価値を生み出せた瞬間は 「自分が設計した画面を通じて、チームで生み出したい価値を顧客に対して伝えられている」 瞬間だと思っているので非常にやりがいを感じます。加えて、サービスを使うユーザーに同時多発的に価値を届けられるので、営業などの職種と比較すると与える影響の広さという観点ではより価値を多くの人に届けられる職種だと思っています。 扱っているデータやゴールに絶対解がない領域ほどUIを設計することは難しくなるため、上記の難易度も上がってきます。 ■ 実体験から感じること 実際に僕が今携わっている ・wevoxというエンゲージメント解析サービス ・wevox values cardという価値観の相互理解を促すサービス は扱っている領域がエンゲージメントという技術的課題ではなく、絶対解を持たない適応課題を解決するサービスのためUIデザイナーとしては非常に難しいである一方、その適応課題をUIを通じて解決できたときは嬉しいし楽しいです。 wevoxはただのサーベイではなく、データを通じて組織やチームに共通認識を生み出して対話を生み出すコトが目的のサービスです。 そのためただ、データを表示するようなUIにしてしまうと解釈が難しくなり、対話が生まれにくくになってしまいます。だからこそ、数字ベースの事実を伝えながらも意味づけをするような体験を生み出す情報を載せるコトで対話を生み出すきっかけにしております。

営業の経験を通じて、顧客(ユーザー)が求めるソリューションの本質を考える習慣を身につけたからこそ、プロダクト開発の仕事に応用できたのだろう。

未経験から転職するのは無謀と思えるような仕事でも、営業経験を生かせるという好例だ。

Tagamiさんがソフトウェアエンジニアに転じた際の志望動機に書いているように、未経験者として人並み以上に勉強をする覚悟があるなら、第二新卒などの若いうちに思い切ったチャレンジをするのもアリかもしれない。

コードを書くのが楽しかったから

コードを書いたり、技術に触れたりするのが楽しい、あるいは辛いけどそれを乗り越えた結果達成感や満足感を得られたというのがエンジニアとしてのキャリアを志したキッカケでした。 単に「年収が高いから」「将来性があるから」という理由で選ぶだけでは、いずれ頭打ちがくる仕事だと思っています。周りの優秀なエンジニアの方々は仕事・プライベート関係なく技術に触れています。趣味の一部のような方が多いです。 また単にコードを書くだけでなく、そこから何かを生み出して、ユーザー価値に昇華させることができるのも魅力でした。 自分の判断、技術力次第でプロダクトの向こう側にいる人を喜ばせることができる、しかもそれは何百万人という規模にもなる。 そんな職種はエンジニアだけだと思い、法人営業という職種からジョブチェンジをし、今に至ります。

合わせて読む:【仕事の未来】2021年、営業に求められる「3つの力」

文・デザイン:伊藤健吾、バナーフォーマット作成:國弘朋佳