きょう3月1日は就活解禁の日。企業の採用説明会が認められ、2025年春に卒業予定の学生の就職活動が正式に始まります。
学生優位の「売り手市場」が続くなか、今年から企業によるインターンシップの直接採用が可能となりました。その影響で、複数企業から内定をもらっている学生も相次いでいます。
ただ、学生にも「新しい悩み」が生まれているようです。
3月1日時点で内定が出ていないと、すでに内定が出ているライバルとの差をこれまで以上に痛感して焦ってしまう。一方、すでに内定を獲得している学生は、“本命”ではない企業との関係に悩んだり、早すぎる内定によって価値観に揺れが生まれたり。そんな実態も見えてきました。
内定もらっていないと不安。内定もらっていても不安ーー。
真新しいリクルートスーツに身を包んだ就活生が胸に秘めた「2つの不安」はどれほどのものなのでしょうか。
JobPicks編集部は1日、約280社が参加するマイナビの合同説明会を取材し就活の最前線を探ります。
就活のイベントにおいて、業界研究や社風の理解に最重要とされるインターンシップ。実は2025年卒からインターンに関する定義が変わりました。企業は一定の条件を満たせば、学生の情報を採用活動に利用できるようになったのです。
これまでもインターンへ参加した学生が採用に有利になる状況がなかったわけではありません。しかしルール変更によって、明確なガイドラインのもとで採用に直結するインターン実施にお墨付きが付いた格好です。就活生の意識も変わりつつあり、3年夏に参加するインターンが「事実上の就活解禁」ととらえる学生も少なくありません。
ルール変更の影響は数字にも表れています。マイナビが2月下旬に発表した調査結果によると、25年卒のインターン参加率は85.7%で、調査開始(2012年)以来最高を記録しました。インターンの開始時期も早まっていて、3年生の6月にインターンへ参加した25年卒の割合は39.8%。24年卒の28.9%を10.9ポイントも上回っています。
就活の早期化が進むなか、内定数はどうなっているでしょうか。
就活情報サイトを運営する「ディスコ」によると、学生の約7割が2023年秋時点で「2社以上の内定」、そのうち4割超が「3社以上の内定」をもらっています。(詳しい記事はこちら)
企業にとっては、早い段階で内定を出すと学生から辞退されるリスクをはらんでいることを意味します。マイナビキャリアリサーチラボの東郷こずえ主任研究員は「企業は内定(内々定)を出してから、さらに関係強化に向けて活動する必要がある」と指摘します。
就活の早期化でこれまで以上に生まれるのが「内定の獲得時期」を巡る不安や焦りです。
関西の県立大学に通う女子学生は、就活のスタートに合わせて情報収集用のX(旧Twitter)アカウントを作りました。しかし、やがて結果がついてこない自分と周囲との比較に疲れ最終的には削除を決めました。(詳しい記事「就活生日記」はこちら)
「見知らぬ誰かと比較しても仕方ないですが、私と同じ『#25卒』(ハッシュタグ)の投稿を見ると、同い年なのに、なんでこんなに差があるんだろうと、劣等感を少し感じるようになりました。SNSをしていなければ知ることのなかった他人の情報です。ただ、そうだと頭で分かっていても、目に飛び込んでくる情報で焦りが募って、自己肯定感は下がるばかりでした」
情報戦の側面もある就活では、知らない情報はつい気になってしまうものです。「ある企業では一部の人を早期選考している」などという噂が日々流れ、就活のノウハウが次々と目に入ってきます。
そんな女子学生はある日の夜、「内定10社目ゲット!」という投稿を目にします。3月が就活解禁とはいえ、企業や業界によって選考開始のタイミングが異なっているのが実態です。そうは分かっていても、内定時期の早さと数の多さで「劣等感と焦り、不安が余計に大きくなった」と打ち明けます。
「内定」の2文字を聞くと、就活生の周囲は普通手放しに喜ぶことでしょう。しかし、早い段階に内定を勝ち取った学生の心中は穏やかではないようです。都内の私立大学に通う女子学生に不安の正体を聞きました。この学生が面接の最後に初めての内定を伝えられた瞬間、思わず飛び出したのは「えっ?」だったそうです。(詳しい記事「就活生日記」はこちら)
「早期選考の場合、承諾しないとそもそも選考に臨んで内定を取った意味がない。かと言って、就職するか分からないのに承諾するのは、企業を騙しているみたいで複雑なんです」
「企業を騙しているのではないか」という感覚に加え、内定までの過程で深く関わりを持ったリクルーターの顔を思い浮かべると「信頼を裏切るようで心苦しい」とも明かします。
とはいえ、早期で内定をもらったことで張り詰めた気持ちがほぐれ、冷静になれた部分もあったようです。それ自体はよかったのですが、就活を続ける自分を冷静に見つめるようになったことで別の問題が浮上します。
「例えるならば、今まで自分が『これらの企業のどこかに入れたらいいな』と思ってきたことに対して、別の自分が「果たして本当にそうなのか?」「もっとよく考えてみたら?」と問いかけてきたような感じです」
この学生はこの状態を「軸の揺らぎ」と表現します。内定承諾を巡る不安とキャリアへの迷い。同時にやってきた2つの悩みに、これからどう向き合っていくのでしょうか。
JobPicks編集部は3月1日の就活解禁に合わせ、3000人超の就活生が参加する合同説明会「マイナビEXPO」を取材し、学生たちの本音に迫ります。詳しいリポートは後日、JobPicksのポッドキャスト番組「定時までに帰れるラジオ」でもお届けします。
(企画:竹本拓也、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文、比嘉太一)