精神科医が教える「常にポジティブ」でいることの意外な弊害

精神科医が教える「常にポジティブ」でいることの意外な弊害

    忙しい毎日で、会社と家の往復ばかり。もう少しインプットしたいけど、スマホを見るとついSNSやゲームでダラダラ時間を溶かしてしまう……。

    ビジネスパーソンのみなさんが「定時までに帰れること」をサポートすべく、業務効率化やキャリアアップに役立つ新刊ビジネス書の著者をお招きして、今日からお仕事にちょっと役立つノウハウやTipsをインタビュー。ポッドキャスト番組「定時までに帰れるラジオ」の一部をダイジェスト版でお送りします。

    ゲストは『人生うまくいく人の感情リセット術』(三笠書房)の著者・樺沢紫苑さんです。

    目次

    樺沢紫苑さんプロフィール

    「私ってダメなの、それも私なの」が究極のポジティブ

    野上:3回目の今日は「人生をネガティブからポジティブに」というテーマでお送りしたいと思います。ネガティブな感情は誰もが抱くことだと思うんですが、これにはどんな悪影響があるのでしょうか?

    樺沢:ネガティブな気持ちや失敗したことにずっと注目してそればかり考えていると、気分が鬱々としてきます。そして自分の失敗体験なんかを繰り返し思い出したり話したりすることによって自己肯定感が下がっていきますね。「なんて自分はダメなんだろう」「なんで自分はできないんだろう」と。

    その結果、失敗するとまた自信をなくしてまた自己肯定感を下げる。「もう挑戦したくない」と、坂を転げ落ちるように、マイナスの方向に向かってしまいます。

    精神科医が教える「常にポジティブ」でいることの意外な弊害
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    野上:ネガティブな思い出や他者とのやり取りは、もし他人に吐き出すんだったら1回にした方がいい。3回以上やっちゃうと上書きされてよくないという話を以前お伺いしました。

    樺沢:他方、ネガティブな感情を否定するのもよくないんですよね。「私ってダメなの、それも私なの」が究極のポジティブ思考なんですよ。「ネガティブな私も私」っていうことです。ほとんどの人は「こんな私嫌いだからもう変えたい」「こんな私は大嫌い」をネガティブ思考と考えていますよね。なんですが、本来、自分の欠点はしょうがないじゃないですか。

    自分を責めて、チクチクいじめるから弱っていくわけです。「うまくいってない部分も認めてあげる」のが本当のポジティブな思考なんですね。このネガティブ/ポジティブ問題はとても重要だと勘違いされてるんですが、基本的にポジティブ思考にしない方がいいんですよ。

    ポジティブであり続ける弊害

    野上:「ポジティブ思考でいこう」なんて結構よく言われますけどそうじゃないんですね?

    樺沢:完全に間違いです。有名な話にアフリカに行った靴のセールスパーソンの話があります。昔、靴のセールスパーソンがアフリカに行きました。そしたら誰も靴を履いていなかったので、1人のセールスパーソンは「誰も靴を履いてないので靴は1足も売れません、ダメです」と電報しました。もう1人のセールスパーソンは「誰も靴を履いてません。これはすごく売れるに違いありません。もっとたくさん送ってください」と電報しました。前者をネガティブ思考、後者をポジティブ思考としていろいろな本で紹介されてるんですけど、これ完全に間違いなんですね。

    もしそういう状況になったときに、靴を大量に用意したところで「1回も履いたことない、こんなの要りません」と言われるかもしれません。とりあえず履いてもらって意見を聞くとか、1足だけ売ってみるとか、リサーチして情報を集めるとかじゃないですか?これが真のポジティブなんですね。

    なぜこんな間違いが起こるかというと、ポジティブという英語の意味を勘違いしてるんですね。ポジティブには2つ意味があって、1つは「前向き」「陽気」「明るいパリピ」みたいな意味。もう1つ、英語にはとても重要な意味があって、それが「肯定」です。ポジティブ心理学のポジティブって、こっちなんですよ、肯定心理学っていうふうに訳した方が正しいんですね。

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    だから最初に戻りますが、ダメな自分を肯定する、「意外といいんじゃない」「そういう弱い部分もあって当然じゃない」と思う。これが真のポジティブ心理学なんですね。無理して明るく振る舞うのは間違ってるんです。

    ポジティブという言葉をみなさんにわかるよう翻訳するなら、「ニュートラル」なんですね。中立的に見ること。なぜならば、過度な楽観は大きな失敗につながるから。だから先ほどの靴のセールスパーソンの話でいうと、売れるか売れないかわからないからちょっと調べてみよう、様子を見てみようが中立的ですよね。

    最初からダメだと決めるのではなく、最初から絶対うまくいくと決め付けるのでもなく、いろいろな情報を集めて冷静に判断するっていうのがニュートラルですね。

    へこんだ時こそアウトプット 人に話し感情を書き出そう

    野上:ニュートラルに整うということはこれまでの回で紹介いただいたような、きちんと睡眠を取って、少し運動する。友達と話して、お互いに癒し合うということですかね?

    樺沢:それらが足りていないと、必然的にネガティブ思考になるんですが、トレーニングとしてはやっぱりアウトプットです。感情を書き出してみることとか大切ですね。例えば仕事で失敗したときに、その仕事の経過を全部レポートのように細かく書き出してみる。そうすると自分が悪かった、上司との連絡ミスし、誰かが協力してくれなかった、いろんな要素が見えてくると思うんです。

    自分の頭の中だけで考えてくると、上司があのときはやってくれなかったから失敗したんだってところで終わってしまうんですね。自分も確認しなかったのが悪かったかもしれないし、他の人に手伝ってもらえばそこまでひどくならなかったかもしれない。アウトプットすることで客観的に見られます。書くだけでなく、話すアウトプットもいいですね。だから、へこんだ時には人に話すのもいいんです。

    (続く)

    フルバージョンは音声版で!

    この後はこんな話をしています。

    • ストレスはコントロールするもの

    • 継続の秘訣は、どの感情にフォーカスするか

    • 樺沢さんによく寄せられる質問への回答





    (文:鍬崎拓海、デザイン:高木菜々子、編集:山崎春奈)