玉石混交の情報があふれ、キャリアの選択肢が無限にあるようにも思える現代。20代のビジネスパーソン一人一人が「自分だけのキャリアの転機」をつかむためには、どのような思考やアクションが必要なのでしょうか?
そこで今回は、ベストセラー『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方』(KADOKAWA)の著者、八木仁平さんにインタビュー。“自己理解”のプロである八木さんに、自分だけの「良い転機」をつかむための方法について聞きました。
玉石混交の情報があふれ、キャリアの選択肢が無限にあるようにも思える現代。20代のビジネスパーソン一人一人が「自分だけのキャリアの転機」をつかむためには、どのような思考やアクションが必要なのでしょうか?
そこで今回は、ベストセラー『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方』(KADOKAWA)の著者、八木仁平さんにインタビュー。“自己理解”のプロである八木さんに、自分だけの「良い転機」をつかむための方法について聞きました。
──八木さん自身は現在「自己理解のプロ」として活躍されていますが、30代の今振り返るとご自身は20代でどのような転機がありましたか。
八木:私は大学卒業後にブロガーとして独立して、当時は月100万円以上の売上がありました。しかしいくらお金を稼いでも「仕事が楽しくない」と感じている自分に気付いたんです。
経営者の先輩からは「目標が低すぎるのかもしれないから、月商1,000万円を目指したら?」などとアドバイスをもらっていました。もちろんそれで楽になる人もいるはずですが、私自身はお金のために頑張ることが苦しくって。モヤモヤしながら仕事を続けていたら、軽いうつ状態になってしまいました。
それでも何か動き出さねばと、その時にオンラインで「コーチング」を受けたことが、私にとっては転機となりましたね。
コーチングとは、自分自身の考えや目標について、コーチとなる人と対話をすることで気付きを得たり自主的な行動が促されたりするもの。コーチングを受ける過程で、自分が世間で言われる「お金をたくさん稼げると良い」という価値観に流されて生きていたこと、そして自分自身について何も知らないことに気付きました。
逆に言うと、自分のことを深く理解すれば、本当にやりたいことや幸せの価値観がはっきり分かって、確実に良い人生になると思えたんです。その時の衝撃が、「自己理解」をテーマにした今の仕事につながっています。
──コーチングを受けて八木さん自身が「お金をたくさん稼ぐのは幸せ=思い込み」だと気付いたことが、キャリアチェンジのきっかけになったのですね。
八木:そうですね。周りを見ていると、人生が変わる、転機を迎えるきっかけには二つのパターンがあると思っていて。一つは私のようにうつ状態になったり、大切な人がいなくなったりと「絶望」を味わった時。そしてもう一つが、圧倒的な理想や希望に出会ったときです。私自身は、絶望した状態から希望を見いだしたことが、大きな転機になりました。
──20代のビジネスパーソンが、八木さんのように自分だけの「キャリアの転機」に気付くには、どうすれば良いと思いますか。
八木:「自分自身の価値観を明確にしておくこと」が重要だと思います。要は「自分が何をやりたいのか、何を大事にしているのか」を常日頃考えておくことですね。
自分の内側にある選択基準を磨かないと、他人の発言や、人からの誘いに左右されやすくなってしまいます。例えば広告を見たり人から勧められたりしたものに、本当は必要がなくても「チャンスだ」と勘違いして無駄なお金や時間を使ってしまうかもしれせん。
私がかつて「お金を稼ぐこと」という世間一般に価値があるとされているものに流されて仕事を選択していたように、後から「こんなはずじゃなかったのに」と後悔する人は多いでしょう。
──なるほど。八木さんはお仕事柄、さまざまな人の話を聞く機会も多いと思いますが、「自分の価値観が明確になっていない人」にはどんな共通点がありますか?
八木:「人を笑顔にする仕事がしたい」「誰かの人生を変えるきっかけを提供したい」など、人生や仕事の軸が抽象的で、ぼんやりしている人に多いですね。
もし「誰かの人生を変えるきっかけを提供したい」なら、その手段を具体的に決めなければなりません。服装や髪型、ダイエットによって外見から他人を変えたいのか、転職をサポートしたいのか、あるいはコーチングなどで考え方を変えるのか。「自分が何をしたいのか」が具体的になっていないと、他者の価値観によって行動は簡単にぶれてしまいます。
人は、自分で選んだことには本気で向き合えますが、周囲に流されて何となく決めたことに対しては本気になれないものです。うまくいかないときには「あの人に選んでもらったから」「親がこう言ったから」などと、つい他人の責任にしてしまうんですよね。
その結果、どんどん自分で選ぶ力がなくなって他責になる…という負のサイクルに陥ってしまう。ですからどんな選択においても「自分の価値観なのかどうか」は常に意識した方が良いと思いますよ。
──無意識に世間の価値観に従って選択をしてしまうことも多いと思います。他人の価値基準に流されているかどうか、見極めるにはどうすればいいでしょう。
八木:自分が「思考停止して頑張っている状態」に陥っていないかを、まずは考えてみてほしいですね。
特に20代のうちは、上司や先輩から言われた仕事をこなすことで精いっぱいになる人も多いでしょう。「石の上にも3年」「仕事なんだから、嫌でもやらなくちゃ」と思って、我慢しながら頑張っている人も少なくないはずです。
でもそれって、誰かの価値基準に合わせて、やりたくないことを頑張り続けているだけの場合も多いですよね。「皆やっているから」「これが若手の仕事だから」と、明確な理由もなく動くのは思考停止の状態。20代の貴重な時間の使い方としてもったいないと思います。
一方で、自分でやろうと決めたことや、自分が必要だと思って選択した業務などは自然とモチベーションが湧いてきますし、大変な仕事だとしても充実感があるはずです。
──とはいえ20代は「修業期間」として、ある程度の我慢は必要だと思う人は多いはずです。
八木:そういう人には「自分の気持ちが疲れていないか」を考えることをオススメします。自分が望んでモチベーション高く仕事をしている時って、身体的には疲れていても、気持ちまで落ち込んで疲弊することってあまりないですから。
仕事が終わった後に、イライラしてラーメンをどか食いしたくなるとか、何本もエナジードリンクを飲みたくなる、帰宅したらSNSやYouTubeをぼんやり眺める元気しか残っていない…といった場合は、相当我慢している状態だと思いますよ。
──八木さんが辛かった時期も「思考停止」して頑張っていたのでしょうか。
八木:そうですね。僕が収入で自分を評価していた頃は、まさに思考停止状態だったと思います。
人生の判断を他人の基準に委ねる「流される生き方」って、短期的には楽なんですよ。人から評価されることで、一時的な喜びや安心感を得ることもできますし。
一方で、自分で選ぶ人生は厳しいものです。「それが正解だよ」とは誰も言ってくれませんし、自分の内側にしか正解がないことを覚悟しなければならない。それって怖いし不安もありますが、私自身の経験を振り返っても、その先には本当の喜びがあると断言できます。
──他者の価値観に流されずに「自分で選ぶ人生」へと一歩踏み出すために、必要なことは何だと思いますか。
八木:自分が思考停止に陥っていると気付いたら、まずはその事象から「逃げる」ことですね。やりたくないことを頑張るのをやめて、その場所から逃げる。
もちろん「嫌なら自分の業務を放り出せ」という意味ではなくて、自分が辛くならないようにシフトチェンジできるような方法を考えることも含まれます。
その時に、今の仕事から逃げたいから、転職エージェントに自分に合った仕事を紹介してもらうとか、漠然とネット上の情報を漁るといった方法では、また別の誰かの価値観に人生を委ねることになってしまいます。
──思考を停止せず「自分の価値観」を考え続けることが必要だと。
八木:例えばYouTubeのトップページにアクセスすると、おすすめのリストが表示されますよね。その中から動画を選ぶのが受け身の人生だとしたら、「自分で選ぶ人生」は、真っ白なGoogleの検索窓に自分で考えた言葉を打ち込むことから始まります。
AIにレコメンドされた選択肢から人生を選ぶのではなく、自分自身と向き合い、本当に手に入れたいもの、やりたいことを見つけてから、その基準に合ったものを探すという順序です。
自分だけのキーワードを見つけるためには、日常の中で「楽しい」と感じる機会を増やすといいと思います。
私は昔からおもちゃが好きで、おもちゃ売り場に行くとわくわくするので、よく売り場に行って好きなものを選んで買っていました。このように、休日に自分の好きなものを買ってみる、昔から興味があったことをやってみるなど、プライベートなことで構わないので「自分の価値観に合った選択や行動」を増やすことが、自分で選ぶ練習になるはずです。
──自分だけのチャンスをつかむためには、まず自分が何を選びたいのか、その練習から始めるだけでも良いのですね。
八木:ええ。そして「自分で選択する」ことの重要性に気付いた読者の方には「不安を愛せ」と伝えたいです。
自分の本心からやりたいことを選ぼうとすると、短期的にはめちゃくちゃ不安なんですよ。うまくいく保証もないし、人から否定されるかもしれない。でもその不安こそが「こっちの道が正解だよ」というサインだと思います。
不安を愛した先には、本当の人生の喜びが待っています。自信を持って、そちらの道を選んでほしいですね。それが自分だけの転機となるはずです。
(文:高橋三保子、デザイン:高木菜々子、編集:井上倫子)