勘違い1. アメリカ人は何でもストレートに話す
アメリカ人は、言いたいことは何でもストレートに話す。
みなさんは、こんな言説を聞いたことはありませんか?
渡米間もない頃の僕は、そんな話を心の底から真に受けていました。
アメリカ流のコミュニケーションを実践すべく、アメリカ人の同僚や部下と話すときは、いつもできる限りストレートに話すことを心がけていたのです。
彼らの仕事に改善すべき点があれば、遠慮なくストレートに伝える。言われた本人は少しびっくりした様子でしたが、「今までそんな風に指摘してくれる人はいなかったよ。どうもありがとう」と感謝され、まんざらでもなく思っていました。
しかし、在米生活が長くなり、アメリカ人上司からのフィードバックを受ける機会も多くなるにつれ、あることに気づきます。
「アメリカ人、全然ストレートに話さなくね?」と。
そうなんです。
アメリカ人は、特にネガティブなフィードバックをするときには、めちゃめちゃ遠回しに伝えてきます。
5個ぐらい褒めてくれた上で、最後にポロッと「あとはここを伸ばせればもう完璧だね」みたいに言うんです。
本当に伝えたいのは最後の1点だけなのに。
それが当たり前のアメリカにおいて、僕はたいそう嫌な上司だったことでしょう。今ではめちゃくちゃ反省しております…。
勘違い2. アメリカ人はみんなタフ
アメリカ人って、背は高いし筋肉ムキムキだし声はでかいしいつも陽気だし、みんな絶対にタフだよね?と感じることは多いです。
でも実は、意外と繊細だったりします。
まず、精神的にとても繊細。アメリカでは小さい頃からひたすら褒めて褒めて褒めまくって育てられることが多いからか、彼らは批判耐性が非常に低いです。
彼らの仕事の成果物に対して、日本の会社でよくやるように赤を入れまくると思いっきりへこんでしまうかへそを曲げてしまいます。
僕もアメリカに来たばかりの頃に、現地メンバーの成果物に対して日本でやっていたのと同じように、長い「要改善点リスト」を返したところ、ひどく落ち込まれてしまいました。
先にも述べましたが、アメリカ人にダメ出しするときには基本的に褒めまくって、どうしても直してほしいところだけ最後に言う、が鉄則です。
次に、実は肉体的にもけっこう繊細だったりします。
サンフランシスコにいた頃、僕のチームに筋肉ムキムキのいかにもなタフガイがいました。
彼が担当していたプロジェクトがちょうど忙しい時期に入り、彼も何日か残業が続いていたのですが(といっても1日2時間程度ですが)、ある日急に倒れてしまったのです。
これだけ聞くと彼がたまたまそういう体質だっただけかもと思うかもしれませんが、「実はアメリカ人、残業に弱い体説」は、複数の在米日本人から聞いています。
日本のちょっと忙しめの会社と同じような働き方をすると、1カ月ももたずにダウンしてしまう、と。
そうと知っていれば、チームとしてもう少しタスク量をコントロールしてあげれば良かったと後悔しています。
勘違い3. 英語ができればアメリカで就職できる
僕は、アメリカ就職について発信をしている関係で、X(旧Twitter)で日本の方からアメリカ就職についての相談をいただくことがあります。
よくいただくのが、「アメリカ就職にはどのくらいの英語力が必要ですか?」とか、「TOEIC ◯点なのですが、アメリカで就職できるでしょうか?」といったもの。
「英語ができればアメリカで就職できる」と思っている人は多いみたいですね。
これは「アメリカ就職したい日本人あるある」でもあるのですが、はっきり言って「英語さえできればアメリカで就職できる」なんていう甘い話はありません。
だって、英語ができる人なんて、アメリカには何億人もいますもん。
いくら英語ができるといってもネイティブほどではない外国人が、アメリカで仕事を得ようと思ったら、言葉のハンディを補って余りある、英語以外の強みが必要になります。
では、英語以外の強みをちゃんと持っている優秀な人であればアメリカで就職できるのかといえば、それだけではまだ足りません。
アメリカで就職するためには、その優秀さをきちんと相手に伝える必要があります。しかも、日本人が想像している以上に積極的に。
アメリカで就職活動を始めたばかりの頃、僕はこの点があまり分かっておらず、書類選考でたびたび落とされていました。
レジュメにはきちんとこれまでの経歴を分かりやすく書いてあったのですが、今思うと「自分の優秀さをアピールする」という観点が不十分だったように思います。
なんとか現状を打破すべく、プロのレジュメコンサルタントに依頼してレジュメをブラッシュアップしてもらったのですが、そこで出てきたのは読んでいて恥ずかしくなるほど自分の優秀さをこれでもかとアピールしたレジュメでした。
日本人的にはもう少し謙遜した方が良いんじゃないかと思ったのですが、そのレジュメを使いだしてから書類選考で落ちることはまず無くなったので、やはりアメリカではこのくらい積極的にアピールする必要があるみたいです。
勘違い4. 日本の常識はアメリカでも通用する
「日本の職場で当たり前のことは、アメリカでもきっと当たり前だろう」なんてことはありません。
実は、この勘違いが最もたちが悪いです。
「日本の常識はアメリカの非常識」といっても過言ではないくらい。
なぜかって、「常識」はみんなが当たり前と思っているから「常識」なので、それがあまりに当たり前すぎて、まさかそれが通用しない社会があるなんて想像できないからです。
例えば、締め切りは守らなければいけないものですよね?
僕はそれがあまりに当たり前過ぎて1ミリも疑わなかったんです。
しかし僕がアメリカに来てすぐの頃、チームメンバー全員にある簡単な作業をお願いしました。
「完成したらいついつまでにこのフォルダに入れておいてね」と。
みんな「OK」と言っていました。
しかし、ふたを開けてみると、チームメンバーの誰一人としてやっていないではないですか。
そこでチームメンバーとしっかり話してみると、これはどうやら「締め切り」に対する認識の違いが原因だということが分かりました。
日本では(少なくとも僕にとっては)、「締め切り」とは「守らなければならないもの」という認識でした。
しかし、どうやらアメリカでは「締め切り」(deadline)とは、「だいたいそれまでに終わらせようね」という「目安」でしかない、とのことだったのです。
それからは、僕は誰かに何かを依頼するときには、常にその締め切りがどの程度シリアスに守らなければならないものなのかを明確に伝えるようになりました。
そのおかげか、この件以降は大事な締め切りを守ってもらえないという事態は経験していません。
以上、「純ジャパがアメリカで働く」選択をする上で勘違いしがちなことでした。
さて、ここまで散々「アメリカ人は実はこう!」みたいなことを言っておいてなんですが、実は「典型的なアメリカ人」なんて存在しません。
アメリカはそもそも世界中からやって来たさまざまな人種のるつぼですし、同じ人種だからといって性格まで同じなはずはないですよね。
今回最もお伝えしたかったのは、「アメリカ人はこういう人たちという思い込みはいったん捨てた方がいいよ」ということ。
そして、「日本で当たり前だと思っていたことって、実は全然当たり前じゃないよ」ということでした。
異なるバックグラウンドの人と働けばどうしても軋轢は生じるもの。
そんなとき、安易に「あいつらが悪い!」と断ずるのではなく、対話を通してその原因を追求する姿勢を持てれば、アメリカに限らずどこででも働けるんじゃないかなと思います。
(文:ゆう、デザイン:高木菜々子、編集:井上倫子)