Amazon本社、ITメガベンチャー…テック企業を渡り歩く
初めに、僕が日本とアメリカでどのような環境で働いてきたのかを簡単にお話しさせてください。
僕は日本で大学院の修士課程まで修了し、新卒で外資系のコンサルティングファームに入社しました。その後、日系のメガベンチャーに転職し、東京本社で働いた後、サンフランシスコ支社へ転勤に。
サンフランシスコ支社には日本人も何人かいたものの、メンバーのほとんどは現地のアメリカ人でした。その後、Amazonシアトル本社と米スタートアップを経て、現在の米メガベンチャーに至ります。詳しくは、本気のアメリカ就職奮闘記「純ジャパの僕がアメリカ現地のAmazonに就職するまでの5ステップ」をご覧ください。
こんな感じで、基本的には日米のテック企業での経験となっていることをご認識くださいませ。
新卒も社会人経験者も同じ土俵で戦う
アメリカでは新卒一括採用というものは存在せず、(日本で言うところの)新卒であっても、社会人と同じポジションに応募して、同じプロセスで評価・採用されます。
当然そのポジションに必要な能力・経験を社会人と横並びで評価されるため、何の経験もない学生が採用に至るのは至難の業です。
そこでアメリカの大学生は、早い時期から企業等でインターンを積極的に行い、少しでも職歴を得ようとするわけです。
実際、そんな過程を経て入ってきた(日本で言うところの)新卒社員は既にかなり「出来上がって」いて、「この人すごい頼りになるなー」と思っていたら実はまだ1年目だった、みたいなことがちょいちょい起こります。
何かあればLinkedInを更新
日本人にとって転職はまだまだ非日常的なイベント。「よし、転職するぞ」と心に決めてから、履歴書を作って転職サイトに登録して…としますよね。
でも、アメリカ人にとっては転職は日常の一環です。
特に若手社員は職歴が短くてあまり書けることがない分、プロジェクトの終了や昇進など、何かあるとすぐにレジュメとLinkedInに反映します。
いつ転職エージェントや企業のリクルーターに見られてもいいように、常に準備を怠らないわけです。
日本では、同僚に転職活動をしているのを知られたくなくて、なかなかLinkedInの利用が進まないと聞きますが、アメリカではそんなことはありえません。
みんな、X(旧Twitter)に投稿するような感覚で、気軽に職歴の更新をしていますからね。
転職が多いのは優秀な証拠
日本だと転職回数が多すぎると「ジョブホッパー」と見なされ、転職の際に評価が悪くなるなどと聞きます。
「この人はたくさん転職しているから、せっかく採用してもどうせすぐに辞めてしまうのでは?」「これだけ転職を繰り返すなんて、何か問題があるのではないか?」と勘ぐられてしまうわけですね。
一方、アメリカでは真逆です。
多くのアメリカ人が2〜3年に1回は転職していますし、LinkedInを眺めていると転職後1年もたたずに次の会社に移っていることなどざらです。
たまにうっかり数年も同じ会社にいてしまうと、「こんなに同じ会社に長くいるなんて、あの人はどこからもオファーをもらえないくらい仕事ができないに違いない」などと陰口を叩かれてしまいます。
これは若手社員であっても同じこと。
前述のように若手社員は十分な職歴がないままに初めての就職活動を行うため、最初の就職で希望通りのポジションに就けることは稀です。
多くの若手社員は、最初のポジションで1〜2年の経験を積んだ後、その経験を引っ提げてより待遇の良いポジションに移っていきます。
同じ職種で一生を過ごす
日本人の典型的なキャリアパスは、新卒で入社し、新卒研修を経て配属先が決まり、その後さまざまな部署をローテーションして会社の仕組みを学びつつ社内人脈を広げ、1つの会社の中で昇進していく、というものだと思います。
営業から人事に行ったりシステム部門に行ったりと、異動の中で職種をまたぐことも珍しくないと聞きます。
一方、アメリカ人の典型的なキャリアパスはそれとは真逆。いったんある職種に就いたら、基本的には一生をその職種で過ごします。例えば最初に人事になったら、その人は一生人事の専門家としてキャリアを構築していくわけです。
実はこの流れは人生のかなり早期から始まっていて、アメリカの子どもたちは学校や家庭、親戚の集まりなどでことあるごとに「将来は何になりたいのか?そのためにはどうすればいいのか?」ということを執拗に聞かれるそうです。
そんなふうに小さい頃からキャリアの英才教育を受けて育つので、大学を選ぶときにも将来のキャリアを明確に見据えて選ぶのが普通なのだとか。
日本の「とりあえず入れそうな中で一番偏差値の高い大学に入る」みたいな姿勢とは大違いですね(僕のことです。反省してます)。
社会人進学はキャリアチェンジのパスポート
「アメリカは実力主義だから、学歴なんて関係なく実力で評価してもらえていいな〜」なんていう妄想をたまに聞くことがありますが、これは大間違い。
アメリカは日本以上にめちゃくちゃ学歴社会です。
例えば、ソフトウェアエンジニアになろうと思ったら、大学でコンピューターサイエンスを学んでいることが必須条件。文系出身でプログラミング未経験でもエンジニアになれてしまう日本とは大違いです。
前述のように、アメリカではいったん職種が決まれば、基本的には一生その職種の専門家としてキャリアを構築していきます。
では、もし途中で職種を変えたくなったらどうするのか?
多くのアメリカ人は、ここで大学もしくは大学院に入り直します。
非エンジニアがエンジニアになるためにコンピューターサイエンスの学部や院に入ったり、逆にエンジニアがジェネラルマネジャーになるためにMBAを取得したりするなどという話は、ちょいちょい耳にしますね。
昇進イコール管理職ではない
日本で「昇進」というと、部下を持つ管理職となって組織の上位の階層に上っていくことですが、アメリカでは必ずしもそうではありません。
アメリカでは、管理職として昇進する以外に個人プレーヤー(IC: Individual Contributor)として昇進するパスも用意されています。
このため、マネジャーよりも部下の方が給与が高いなんていうケースもちらほら。
特にエンジニアはこの傾向が強く、若手社員に話を聞くと「自分は管理職になりたいとは1ミリも考えていない。一生コードを書いていたい」という意見がかなり聞かれます。
とはいえ、30代も後半ぐらいになると「もうコードを書くのは疲れた。若手をサポートする側に回りたい」とか言い出す人も多いんですけどね。
日米の若手社員のキャリア観の違いについていろいろと述べてきました。
この中で共通して言えるのは、「アメリカ人は若い頃から自分のキャリアについて明確なビジョンを持ち、それを構築するために能動的に動いている」ということではないでしょうか。
これはそもそも、日本とアメリカでキャリア形成の仕組みが圧倒的に違うところから来ている差だと思います。
しかし近年、年功序列の崩壊やジョブ型雇用の採用など、日本のキャリア形成の仕組みがどんどんアメリカ型に近づいてきています。ぜひアメリカ人の若手社員のキャリア観を参考に、みなさんも自らのキャリアを積極的に切り開いていっていただければと思います。
(文:ゆう、デザイン:高木菜々子、編集:井上倫子)