ずぼらな編集長でも続く “ちょうどいい”キャリア1年目標の3ステップ

ずぼらな編集長でも続く “ちょうどいい”キャリア1年目標の3ステップ

    新年に張り切って「1年の目標」を掲げても、日々の仕事に追われて未達成に終わる…...。そんな反省を繰り返す人は少なくないはず。ではどうすれば「1年の目標」を実践できるのでしょうか。

    目標設定に必要なマインドを解説した前編の記事に続いて、これまで20年近く様々なビジネスパーソンに取材を実施してきたJobPicks編集長の野上英文にインタビュー。

    具体的な目標設定のフレームワークと、取材してきた著名ビジネスパーソンたちの目標設定術、さらには自らを「ずぼら」と打ち明ける野上が仲間を巻き込んで実践する「挫折しない仕組み」について聞きました。(第2回/全2回)

    目次

    JP編集長が指南 実践可能な“ちょうどいい”1年の目標の立て方

    「自分との約束」は簡単に反故してしまうもの

    前編の記事では、目標とは理想の未来像を「北極星」のように仮置きして、そこに向かって変化に適応しながら進んでいくものだとお話ししました。1年スパンならキャリアの山は動かせる一方で、5年〜10年先だと見通しづらい、とも。

    一方、目標を立てようとしても、頭の中がぐちゃぐちゃで良い内容がなかなか思いつかなかったり、計画を立ててみたものの実践できなかったりする人は多いでしょう。

    「実践できる目標」を設定するには、どうすればいいのか。最も簡単な方法は「他人の目をいれる」ことです。

    なぜなら人は自分との約束を簡単に反故するものだから。「今週中にこれをやるぞ」と自分の中だけで決意しても、何かと理由を付けて守れなかった経験は誰しもあるのではないでしょうか。

    私の場合は、ずぼらな性格なので自分を律するのが40歳を超えても苦手です。そこで、3年前からキャリアと学習計画を設計する勉強会を仲間うちで開催しています。

    これは4人のメンバーで3カ月に1度、主にオンラインで集まって、目標共有や進捗報告をして、お互いにフィードバックを返しつつ、行動の軌道修正を行うもの。メンバーは全員MBA卒という共通項がありますが、職種は戦略コンサルタント、大手自動車メーカー中堅幹部、そして商社の営業リーダーとバラバラです。

    中長期的な目標とそのためのアクション、結果を共有しながら「この目標は達成できた」「これができなかったから、優先順位を下げてもいいのでは」などと互いに言い合うことで、目標達成に向かっています。

    メンバーは全員が会社員で、会社に出している自己申告書もあります。ただ、この場で共有しているのは「会社や組織ありき」ではなく、あくまで自分主体のキャリア設計。3年続けていますが、1年スパンで振り返ると、それぞれが目標の6割ぐらいを達成できており、「上出来だよね」と励まし合っています。

    JP編集長が指南 実践可能な“ちょうどいい”1年の目標の立て方
    (Marvin Meyer/Unsplash)

    「実行できる目標」を立てる3ステップ

    取り入れている具体的なフレームワークについて紹介します。

    このフレームワークは、具体的な出来事と抽象的な概念で結果と目標をすり合わせながら、未来のアクションに落とし込むもの。以下の3つのステップで進めていきます。

    STEP1.過去1年の具体的な「実際に起きた出来事」、抽象的な「獲得したスキルのタグ」をリスト化

    まずは過去1年間の「具体的に起きた出来事」を5つ、それによって獲得したスキルを「タグ」のように抽象的なキーワードで5つ挙げていきます。

    例えば以下の表のように、部署で新規採用をした、海外企業との交渉を行ったなど、具体的な出来事を挙げるのです。

    それに対して何が得られたのかを、抽象度を上げたキーワードで「組織行動とリーダーシップ」や「異文化コミュニケーション」とタグ付けします。

    JP編集長が指南 実践可能な“ちょうどいい”1年の目標の立て方

    何もない状態から未来を見通すのは難しいものですから、このように過去の行動を振り返ることで、具体的なアクションと経験スキルのタグを定量的に測ることができます。

    すると目標を立てる時に、到底達成できないものを挙げることがなくなり、ある程度実現可能な理想の未来を描けるようになるのです。

    STEP2.抽象的な「獲得したいスキルのタグ」から、具体的な「実際の1年のアクション」に落とし込む

    STEP1で【具体→抽象】の流れで過去の振り返りが終わったら、その逆の【抽象→具体】の流れで未来に対してのアクションへと落とし込んでいきます。

    例えば「リーダーシップ」のタグが欲しいのならば「新規プロジェクトを立ち上げる」、「クリティカルシンキング」が欲しければ「セミナーを受講する」といったイメージですね。

    STEP3.3カ月ごとに「仲間と一緒に」見返してフィードバックをもらう

    最後のステップは軌道修正です。目標を立てる意味を実感しつつも、100%達成は無理でそれが自然だとも感じています。

    STEP2で立てた具体的なアクションに対して、3カ月から半年ごとに見返して、今の時点でできていること/できていないことを振り返ることで、短期的な次の一歩「ネクストアクション」が見えてきます。

    この時のポイントは、やはり他人の目をいれること。「これは計画通りできた」「ここは手を付けられていないけれど、後回しにしてOK」など、他者に公開してフィードバックをもらいながら進めると、目標の精度や実際の行動も変わってくるかと思います。

    軌道修正を繰り返す中で「このアクションはできなかったけれど、振り返ってみると今すぐにやる必要はなかったな」というものも出てきます。誰しも目標を100%達成することは難しいですから、それはそれで切り捨てて、自分が「本当にやりたいこと」に注力する方にシフトチェンジして構いません。

    JP編集長が指南 実践可能な“ちょうどいい”1年の目標の立て方

    このフレームワークにのっとって、例えば今、社会人4年目の人であれば、この3年間で具体的に起きたこと5つと、得られたスキルの抽象的なキーワード5つを、1年スパンで棚卸ししてリスト化してみてください。

    3年間を振り返った上で「今年得たいスキル5つ・具体的なアクション5つは何だろう」と考え進めると、高すぎず、低すぎない現実的な目標が見えてくるかと思います。

    その他にも、オプションとして「自己暗示」も意外と有効です。

    私はMBA留学をしたいMITの現地を訪ね、教室内で写真を撮って、「ここへ帰ってくるぞ」と日付つきで強烈に自己暗示をかけてイメージしました。すると実際に計画より1年早く、そこに戻ることができたのです。

    もしかすると、これまでの受験で皆さんも同じような経験をお持ちかもしれません。こうした古典的な手法もおすすめですよ。

    MITスローンマネジメントスクールの教室 ©️Hidefumi Nogami

    行動に強制力を持たせる「次回アポ作戦」

    私はこれまでさまざまなビジネスパーソンに取材をしてきましたが、多くの人たちが目標設定と実践の大切さを語っていました。

    例えば元トリンプジャパン社長の吉越浩一郎さんには十数年前から直接会って話をうかがってきましたが、彼が掲げた「デッドライン仕事術(就業時間も仕事も、すべて締め切りを設定する手法)」といった発想は、まさに短期的な目標設定と実践そのものです。

    直接取材をしたことはないのですが、GMOグループの代表・熊谷正寿さんは「夢手帳」として毎日目標を見返すことで、現実とのすり合わせをしていることでも有名です。かつて「夢に日付を書く、夢をビジュアル化する」という夢手帳の手法がはやりましたが、その先駆者が熊谷さんでした。

    また女性のエンパワーメントで活躍されてきたイー・ウーマン代表取締役社長の佐々木かをりさんは、目標を立てたうえで、30分単位でスケジュールを立てることを重視されています。直接お目にかかった際に紙の手帳を拝見しましたが、「美容院も必ず次回アポを入れている」と聞きました。プライベートも仕事も、スケジュールを“ブロック”して、タスクを実現しているのだと知りました。

    JP編集長が指南 実践可能な“ちょうどいい”1年の目標の立て方
    (Marissa Grootes/Unsplash)

    私自身も会議や取材があるたびに、必ず次のアポを入れてから終わる「次回アポ作戦」を新聞記者時代から実践しています。これは日々いろいろな仕事が降りかかるビジネスパーソンには特に有効な手段です。

    他人との約束事って拘束力が強いので、必ず実行に移せるんです。例えば自分で「TOEICのテキストを何ページ終わらせる」と決意してもなかなか実行に移せないものですが、他人との約束はそう簡単に破れないですし、時間の都合が悪くなってもリスケされて、少しずれても実行に移せますよね。

    目標や計画は「やらない」で終わるのが一番良くなく、積み重なると自己肯定感が下がりますから、他人との約束で強制力を持たせることが重要です。

    軌道修正を通して「本当にやりたいこと」が見えてくる

    主体的な目標の設定と実践は、キャリアオーナーシップの考え方においても非常に重要です。目標を軌道修正しながら実践を繰り返すと、自分が本当にやりたかったことが見えてきたり、何かを切り捨てたリソースをそこに割けるようになったりしますから、より一層自分のWill(自分がやりたいこと)に向き合えるはずです。

    そうして目標を1年、2年、3年と続けて実践すると、そこで得た経験やスキルは複利のように積み重なり、自信にもつながっていくでしょう。

    NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」にも出演したキャリアアドバイザーの森本千賀子さんと先日、JobPicksイベントでご一緒しました。森本さんも、キャリアのモヤモヤを晴らすには、職場と自宅以外の「サードプレイス」(第三の場所)を持つことが大事だと強調されていました。

    「他人の目」を通しながら、いかに自分のキャリアを磨いていくのか。自分の好きなサードプレイスのコミュニティーで出会える気の合う人と、お互いにフィードバックし合う場を設けてみてはいかがでしょうか。

    (編集・文:井上倫子、デザイン:高木菜々子)