キャリアの達人3人に聞く「目標実現のための危機感づくり」

キャリアの達人3人に聞く「目標実現のための危機感づくり」

    2024年が始まってはや2週間が経とうとしています。ビジネスパーソンのみなさんは新年に設定した目標や抱負とうまく付き合えていますか。

    目標設定と実現を後押しする手軽なアウトプット術を学んだ前編に続き、後編では目標のさらなる実行性アップに向けたポイントについて、キャリア論が専門の「タナケン先生」こと法政大教授田中研之輔さん、登録者数27万人のビジネス系YouTuberハック大学ぺそさん、MIT(マサチューセッツ工科大学)でMBA留学経験のあるJobPicks野上英文編集長の3人に聞きました。

    ぺそさんと野上編集長は目標達成の一助となる「強制力」についてアドバイス。田中さんはリスキリングに取り組む企業に対して一つ提言があると言います。

    目次

    キャリアの達人3人に聞く「目標実現のための危機感づくり」

    定量化の落とし穴…目標は期限とセット

    いざ目標を立てるとなった時、「月に○冊の本を読む」「1日○時間資格試験の勉強をする」と具体的な数値を入れるビジネスパーソンは多いでしょう。たしかに数値目標は達成したか否かが明確で、進捗も管理しやすい利点があります。しかし、「仕事に追われず自分の時間を確保する」の著者で、YouTubeでキャリア戦略や仕事術を発信しているハック大学ぺそさんは「数や量での目標設定はそれ自体に価値があるわけではない」と強調します。

    ぺそ

    定量化は否定しませんが、例えば月5冊読書したことに安心してしまい、『読書によって何をしたいのか』という上位目的を見失っては意味がありません。そして、目的とセットで大切なのは期日。いつまでにやるのかを答えられない人は意外と多いです。大きい目標であればあるほど、1日サボった時の影響が小さくなり進捗が把握できなくなってしまいます。慣れるまでは長期の目標は立てず、目先のタスクの完成度を100%とか120%にするようなサイクルをぐるぐる回すのがおすすめです。

    また、目標達成に近づくためには、決めたことを一定期間継続して行える「習慣化」が欠かせません。ぺそさんはそこで重要なのは「やらないとやばいという危機感」と解説します。日常生活で習慣化されている歯磨きを例に挙げています。

    ぺそ

    歯磨きしている時に『なんで歯を磨いているんだろう』って理由を考える人はいませんよね。歯磨きが自然にできるのは、虫歯や口臭を防ぎたいとか、歯に何か挟まっていたら失礼だなとかデメリットを意識しているからなんですよ。中には歯を白く見せたいという気持ちもあると思いますが、人間は『こうなりたい』よりも、『それは絶対に避けたい』という力の方が強く働く。つまり、危機感ドリブンで『絶対に嫌な未来』の解像度を高くすれば(習慣化に向かって)動き出せます。

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    他人の目をいれて自分以外と約束をする

    やるぞと決めて計画を立てたものの、何かと理由をつけてやらない…。やり始めたが長続きしない…。こうした経験は誰しもあるのではないでしょうか。目標倒れに終わらないための簡単な方法として、これまで20年近く記者・編集者として世界各国のビジネスパーソンを取材してきたJobPicksの野上英文編集長は「他人の目をいれる」ことを勧めます。

    野上編集長が目標を表明している場は、3年前から続けているという勉強会。3カ月に1度のキャリアと学習戦略の設計を目的とした会で、メンバーは戦略コンサルタント、大手自動車メーカー中堅幹部、商社の営業リーダーと野上編集長の計4人です。それぞれの目標の共有や進捗の報告を基に、互いにフィードバックしながら行動修正をしているそうです。

    野上

    中長期的な目標とそのためのアクション、結果を共有しながら、『この目標は達成できた』『これができなかったから、優先順位を下げてもいいのでは』などと言い合うことで、目標達成に向かっています。目標や計画は『やらない』で終わるのが一番良くないですから、他人との約束で強制力を持たせることが重要です。人は自分との約束を簡単に反故にするものですから。

    この点について、先ほどのぺそさんも同じように周囲への表明が目標を達成に導くと考えています。

    ぺそ

    同僚や上司に対して『やります』と宣言するのはかなり有効です。例えば、任されたプロジェクトでダラダラ取り組むと完成まで1カ月かかる資料作成があるとします。スピードアップをしたいなら、まず1週間後に上司の予定を押さえたり、『2週間後までにブラッシュアップします』と上司に宣言したりすれば、やらないと恥ずかしい状況が生まれます。できないと思われたくない、という自分のプライドを目標の実践にうまく使うといいです。

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    社員のリスキリングは就業時間内で

    ビジネスの状況が激しく変化するなか、1年の目標としてリスキリングやリスキリングを通じたキャリアアップを掲げているビジネスパーソンも多いでしょう。最近では大企業などがeラーニングやオンライン学習ツールを導入して学びの場を提供する動きが加速しています。キャリアデザインに詳しい法政大教授田中研之輔さんはこうした流れを歓迎しつつ、個人の働く力を最大化させ、持続的な成長を支えるためにはさらなる企業側の意識改革が必要と訴えます。

    田中

    ビジネスパーソンがなぜ忙しいと感じるのでしょうか。その理由の一つは、業務時間外にリスキリングしなきゃと思っているからです。もし経営者のみなさんが自社の成長を担う人材を本当に大切にしたいのなら、eラーニングを法人契約して終わるのではなく、業務時間内の30分でも1時間でもいいのでみんなでリスキリングする時間を取っていただきたいです。

    一方で、ビジネスパーソンも主体的にキャリア形成していくための時間を確保していくべきだと提案します。業務時間内にチーム単位でスケジュールを共有し、自己投資型の時間をブロックしておくのもおすすめです。

    田中さん自身は、新しい発想を得るための書店巡り時間を毎週必ず確保しています。このほかにも前編で紹介した「社会関係資本」を増やしていくためのルーティンとして、FacebookとLinkedInに毎朝投稿し、「本業並みに」テニスに没頭する時間をとっているそうです。

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    野上編集長によるぺそさんのインタビューと田中さんを講師に迎えたJobPicksのウェビナーの一部は、Podcast番組「定時までに帰れるラジオ」(#テイジラジオ)からお聞きいただけます。

    (企画・編集:竹本拓也、デザイン:高木菜々子)