JobPicks編集長がMITのMBAで、世界のCEOから学んだ目標設定術

JobPicks編集長がMITのMBAで、世界のCEOから学んだ目標設定術

    年が明けて気持ち新たに仕事に打ち込もうと意気込んでも、キャリアにおける「1年の目標」を立てることは難しいもの。できれば達成難易度が高すぎず、とはいえ低すぎない…“ちょうどいい目標”はどうすれば設定できるのでしょうか。

    そこで話を聞いたのは、20年近く様々なビジネスパーソンを取材し、自身もアメリカMBA留学経験を持つJobPicks編集長の野上英文。

    前半となる本記事では、野上自身のアメリカでの経験と海外の著名CEOたちから学んだ、1年の目標設定に必要なマインドを紹介します。(第1回/全2回)

    目次

    JP編集長がMITのMBAで、世界のCEOから学んだ目標設定術

    VUCA時代にこそ「1年スパンの目標」を立てよう

    JobPicks読者の中には「目標設定なんて、上司との面談だけで手いっぱいだよ…」と考える人もいるのではないでしょうか。しかし自分でキャリアの舵を取りたいのなら、会社に与えられた機会とは別に「主体的な1年のキャリア目標を設定する」ことをお勧めします。

    なぜ、1年の目標を自ら立てる必要があるのでしょうか。

    私自身の話をすると、日々を過ごしている中ではとても小さくても、1年という期間で振り返ると、「1年前の今頃と比べると大きく変化している」ことはとても多いと感じます。実際に私もこの数年は、1年スパンで留学や転職などの大きなキャリアの変化を経験しました。

    これらは決して、偶発的に起きたことではなく、留学も転職も私自身が目標を立てて実行したこと。ですから、私はそもそも「目標を立てること」自体に意味があると考えています。

    JP編集長がMITのMBAで、世界のCEOから学んだ目標設定術
    (写真:Samson/Unsplash)

    そして、目標を立てる上で強く感じるのが、1年という中長期的な視点でキャリアを考えることの大切さです。

    まずは「スパンが長すぎる目標はお勧めできない」という話から。

    私が参加したMIT(マサチューセッツ工科大学)ビジネススクールのMBAコースでは、アメリカをはじめ著名CEOが何人も講義を行うリーダーシップの授業がありました。半期受けた授業の総括の一つが、「変化の激しいVUCAの時代に、5年以上も先のキャリアや世の中を見通すことはできない」と語られていたことです。

    目まぐるしく変わる予測困難な社会の中で、10年、20年も先を見据えるのはあまり意味がないということです。

    一方で、1年であれば、どうでしょう? 例えば日本の人口減少や給与のトレンドなど、ある程度のマクロ環境の未来が予測できます。その未来に対して自分がどんなアクションを起こすのかを設計しやすいのではないでしょうか。

    アメリカで学んだ「キャリアオーナーシップ」の考え方

    次にそもそも、なぜ“自分の目標”を立てる必要があるのでしょうか。キーワードは「キャリアオーナーシップ」です。日本語では、「自分のキャリアを組織に預けすぎず、自ら舵を取ること」と説明できるでしょう。

    みなさんがもし会社員であれば、職場で1年や半期、四半期に一度、個人OKRや自己評価をしていると思います。ただ、会社での目標設定では、上司によって目指すものが異なったり、会社の都合一つでポジションが変わったりしてしまいますよね。

    私自身も新聞記者時代は、9回、国内外に転勤をしました。その度に新鮮さもあり、目標設定も目先のゴールに対しては有効だと思います。ただ、「自分でキャリアの舵を取る」という視点からは遠ざかってしまいます。

    世の中も会社・組織の都合も、どちらも不確実性。その中で労働市場に出た時のキャリア目標や達成したい自分の姿は、切り離して考えるべきですし、その姿を1年スパンで中長期的な視点で考える必要があると、MBA留学を通じて改めて感じました。

    中長期というと、2〜3年ではないか?という声も聞こえてきそうです。

    会社であれば3カ年計画といったスパンで、「この1年目は投資」「次の2年目に芽を育て」「3年目で花を開かせて大きく回収する」と戦略を立てることもあります。同じように2年、3年と個人目標を立てるのも悪くはないです。

    ただ、先々の目標を立てて実現させることに慣れていない、成功体験がないままにスコープを先に長くすると、目先の1年もおろそかになりかねません。このため、最初は最長で1年ぐらいからトライしてみましょう、というのが私のお勧めです。

    日本にいると会社に与えられた目標や上司に提出する自己評価などに目がいきがちですが、アメリカでは「自分主体で自分のキャリアの設計をする」ことはスタンダードな考え方でした。

    JP編集長がMITのMBAで、世界のCEOから学んだ目標設定術
    野上さんの留学時代のメモ。アメリカでは「お前が舵を取れ」が求められる

    私がMBA留学をして一番驚いたことでもありますが、アメリカではLinkedInなどを含めて自分の職務経歴書を常にブラッシュアップしている人がとても多いです。

    というのも、アメリカは「ジョブ型雇用」が、かねてからスタンダード。これは企業が用意した職務内容(=ジョブディスクリプション)に対して、必要とする能力や経験がある人を雇用する制度のことです。最近ではさらに、それぞれのジョブを満たすためのスキルでみる「スキル型雇用」も大手を中心に進んでいます。

    日本でジョブ型やスキル型がそのまま当てはまるわけではなく、日本型のメンバーシップ型も見直されている面があります。ただ、人材育成やスキルアップという面では、アメリカ型にならざるを得ない、と感じています。それはトヨタ自動車トップが数年前、「終身雇用の維持が難しい」と表明したことからも明らかな潮流です。

    日本では新卒で「人ありき」で採用してから職務を割り当てることが多いですが、アメリカで働くには「職務ありき」だからこそ、ビジネスパーソンたちは「自分は何ができるのか」を常に棚卸しとPRしていかなければなりません。

    自分は何ができるのか、何をやりたいのかを、毎日のように微妙にチューンアップしながらアップデートしていくのです。留学当時は、私もMIT所属のコーチのもとで1年間、ほぼ毎日、職務経歴書(CV)を更新するようにしていました。

    CVを書く際のポイントとして教わったのは、「過去と未来を半々程度でつなぐ」「職務経歴のハイライトも募集のジョブディスクリプションに寄せる」ということです。

    例えば仮に、私がWebマーケティングの領域に踏み出したい(未来)場合なら、過去でWebマーケティングに活かせそうな経験や実績を洗い出して、CVでハイライトを当て、そこから即戦力として活躍できる未来をPRする。

    こうした接続がなく、自分の現職や前職の経験をただ羅列していると、「この人はこの仕事に合う未来が描けない」と受け取った相手が判断する、というわけです。

    言われてみると当たり前なのですが、私はとても独りよがりなCVを書いていました。こういう実績を並べていれば、きっと評価をしてくれるだろう、と。

    そして過去と未来の結びつきに飛躍がありすぎる場合は、やはり書類落ちになってしまいます。アメリカではいま、AIがCVを一次審査する流れがあり、このチェックをMITが契約していた有料の「AIレジュメチェック」のサイトも併用して磨き直しました。

    今後、日本でジョブ型雇用が拡大する流れがありますから、主体的なキャリア設計の見通しやマインドとしての「キャリアオーナーシップ」を持っておくに越したことはないと思います。

    目標は6割程度達成できていればOK

    目標設定には、ここまでお話しした「主体的なキャリア設計」の視点に加えて、「0−100で考えない」マインドも重要です。

    これまで取材や留学を通して、世界中の著名CEOの話を聞いてきて感じるのは、「誰一人として、最初から完璧なマスタープランを持っていなかった」ということです。一方で彼らが行き当たりばったりなのかというと、もちろんそうではありません。

    北極星のように理想の未来の自分像を描いていて、そこに向かって達成できるのは6、7割程度、あとは軌跡修正をしながら変化に対応していく実態がありました。

    つまり目標は「0か100か」ではなく、遠くに置いた理想像に対して、変化に適応しながらしなやかに進んでいくもの。目標設定の半分も達成できないとしたら設定が間違っていると思うので、「60点ぐらいでいい」と思います。

    特に会社員であれば先にお伝えした通り、仕事は会社都合で変化するでしょうし、ポジションが変われば達成すべきことも変わるはずです。だからこそ食わず嫌いすることなく、変化適応力を持ちながら、「ある程度、自分の狙った方向性として進んで入ればOK」という意識が必要です。

    MBA留学中は世界40カ国からの130人あまりの同級生と一緒に過ごしました。私は私費で行っていたので費用を少しでも抑えようと「学生アパート」に住んでいたのですが、そこで南米やインドなどから借金をして学びに来ていた人たちと寝食をともにしながら彼らのキャリア観にも触れました。

    彼らは「1年後にアメリカで現地就職する」という北極星の目標を持ちつつ、「あとは走りながら考える」というぐらいの感覚で、文字通り荷物一つで来ていました。

    それら目標を叶えて今も働いている人たちが、LinkedInで「達成したこと」を日々、アップデートして投稿もしています。ただ、レイオフされて祖国に戻った人もいます。ここでお伝えしたいのはやはり「誰一人、思い描いた通りの進路ではない」のだけれども、方向性は、はずれていません。

    目標設定は必ずしも完璧なマスタープランではなくてもいい、というのは世界共通のマインドセットと実態だと思います。

    JP編集長がMITのMBAで、世界のCEOから学んだ目標設定術

    余談にはなりますが、以前インタビューをしたお笑いコンビ「さらば青春の光」のお二人が、自身らで年商数億円の会社を経営しながら「“俺らなんてこんなもんだろう”と思えるか」が大切だと話していました。高い目標を掲げながらも、少しでも進歩や実績があったことを喜べるかどうかは、持っておきたいマインドの一つだと感じましたね。

    中長期的な視点を持てば「山」は必ず動く

    私の過去を振り返ると、仕事に対して「こうなりたい」という憧れが強く、現実が追い付かないことは山ほどありました。短期間で結果が出ないことは今でもあります。ただ、くよくよせずに少しずつ前進する。そんな気持ちでやってきました。

    例えば、とても恥ずかしい振り返りですが、私は22歳の時に受けたTOEICの点数が400点以下でした。英字紙の出身の先輩に「どうすれば英語が上達しますか?」と、相談したら「無理じゃね?」と突き放されたこともあります。

    ただ、どうしてもあきらめたくなかった。36歳で企業派遣で一度目のアメリカ留学をしました。そして40歳を超える頃には私費でMBA留学をした、という経緯です。世界40カ国から集ったクラスメートと、ようやく何となく話ができるまでになりました。

    1年前には転職をして、今は複業も含めて「自分で自分のキャリアをある程度はコントロールできるようになってきたかな」と実感を少しずつ持てるようになりました。自身で主体的にキャリアを設計し、1年スパンで目標を立ててきたからこそ、だと感じます。

    JP編集長がMITのMBAで、世界のCEOから学んだ目標設定術
    MITのクラスルームで撮ったSFMBA22の集合写真 ©️Hidefumi Nogami

    短期的には難しいことでも、中長期的な視点でキャリアを見れば、必ず山は動く。JobPicks読者の皆さんにも「こうありたい、これがしたい」という大きな目標を遠慮せずに立てて、短期的に一喜一憂することなくキャリアをドライブしていただきたいと思います。

    次回の記事では、具体的な目標設定の実践方法についてお話しします。ぜひご一読ください。また、JobPicksではキャリアをサポートするイベントPodcast用意しています。

    (編集・文:井上倫子、デザイン:高木菜々子)