ハーバードMBA。商社を去り、2年で3千万円の“自腹の道”へ

ハーバードMBA。商社を去り、2年で3千万円の“自腹の道”へ

リスキリングの一つとして注目されるMBA(経営学修士)。海外のビジネススクールに私費で留学している現役生にZoomで話を聞きました。

ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で2年間学び、5月に卒業する遠藤梨菜さんは、現地アメリカ就職で希望のポジションという「次の切符」をつかんだといいます。

商社のキャリアを自ら止めたのはなぜなのか? 難関試験を突破するコツは? そして「コスパ」に見合う自己投資なのでしょうか。インタビューをお届けします。(全3回)

目次

HBSは黄金の道か?

順調な商社キャリア、なぜ自ら中断?

――留学前からの歩みを教えてください。

Lina:イギリスとシンガポールで幼少期を過ごし、小学校から日本に戻りました。大学卒業時の就職活動では、帰国子女だったこともあり、海外で働ける仕事を希望しました。商社やメーカーを受け、ご縁をいただいて入社したのが総合商社です。

入社3年目で半年間、海外研修でマレーシアに滞在し、帰国後、取引先の自動車会社に出向しました。その後、インドネシアで配車などスーパーアプリを展開するGojek(ゴジェック)に出向し、現地に2年間駐在しました。

MBA合格に伴い、2年前に商社を退職して渡米しました。この5月に卒業し、アメリカのテック企業に現地就職してプロダクトマネジャーとして働く予定です。

HBSは黄金の道か?
JokoHarismoyo / iStock

――商社のキャリア半ばでMBA留学を選んだのは、なぜですか?

Lina:大きく3つあります。

1つは、もう一度留学したいという思いが強かったからです。慶應大学の在学中に1年間、オランダに交換留学したのですが、これがとても楽しかった思い出があります。

2つ目は、商社時代、周囲にロールモデルとなるMBAホルダーがいたことです。

商社で配属されたチームには社費でMBA留学した先輩がいました。また、出向先だったゴジェックは、創業者でありインドネシア最年少大臣(教育・文化相)のナディム・マカリム氏が、HBS(ハーバード・ビジネススクール)在学中に興した会社です。

社内にもHBSだけでなく、フランスのINSEAD(インシアード)など有名ビジネススクール修了生が多く、MBAホルダーの活躍を目の当たりにしたことが決め手になりました。

HBSは黄金の道か?
ゴジェック創業者のナディム・マカリム氏とLinaさん=提供

3つ目は、自分ならではの強みを確立したいと思ったからです。

商社の人材育成はジェネラリスト養成型で、数年ごとに部署やチーム、国を異動するのが一般的です。商社の若手なら誰もが直面する悩みかもしれませんが、「自分ならではの専門性を持った仕事に就きたい」と思うようになりました。

ゴジェックでは予算管理や営業計画の策定、組織開発を担当していましたが、社内のプロダクトマネジャーとやりとりする機会も多く、その経験を通じて、私もプロダクトマネジャーを目指すようになりました。市場により近いポジションで、プロダクトを生み出す仕事に関わりたいと思ったのがきっかけです。

HBSは黄金の道か?
マレーシア駐在の様子=提供

プロダクトマネジャーの求人にダイレクトに応募する方法もありましたが、先に挙げた2つの理由もあって留学したいという気持ちが強かったです。

MBA卒業後の進路として、テック業界のプロダクトマネジャーに就く事例も多いので、そのルートでチャレンジしてみようと思いました。

ハーバード・ビジネス・スクール
海外MBAでもトップクラスの名門HBS

難関のハーバードMBA、どう突破した?

――MBA留学の準備はどのように進めましたか?

Lina:試験対策には1年かけました。毎年1月にMBAの試験がありますが、受験を決意したのが2月頃だったので、そこから準備しました。

日本人が海外MBAに出願する場合、やはり英語が壁になることが多いと思います。例えばHBSでは、TOEFL120点満点中109点が合格基準ラインとなります。私の場合、帰国子女だったこともあり、英語はそれほど苦労しませんでした。GMATは5カ月ほどかけて勉強しました。推薦状は、ゴジェックと商社の上司にお願いしました。

HBSは黄金の道か?
インドネシア・ゴジェックのメンバーたちと=提供

――難関HBA。合格の決め手をどう自己分析していますか?

Lina:私の場合はレジュメ(履歴書)で、特にゴジェックでの職務経験がポイントだったと思います。

ゴジェックは、時価総額1兆円を超えるインドネシア初のユニコーン企業です。Uberのような配車サービスからスタートし、フードデリバリーや荷物の配送などの物流事業、決済事業を展開しています。

ハーバードに限らず、米国のビジネススクールでは、入学者のダイバーシティを重視します。人種や民族、性別はもちろん、「どのような仕事をしてきたか」というバックグラウンドも同様です。大学卒業後、数年間の実務経験を経て入学するのが一般的だからです。

HBSは黄金の道か?
ハーバード大学でナディム・マカリム氏(手前中央)を囲んで=提供

ユニークな職務経歴を持っていることは、一つの強みになります。私の場合、インドネシア初のユニコーン企業に数少ない外国人(日本人)として飛び込んだ経験が評価されたと思います。

――自らのウリがあった上でコツもありますか?

Lina:実績や経験をわかりやすく伝えることも大切です。

日本の総合商社は米国でも知られていますが、日本独特のビジネスモデルなので、やっていることが理解されづらい面があります。

一方、ゴジェックは米国のビジネススクール関係者に広く知られていますし、配車サービスからスタートしたUber(ウーバー)やLyft(リフト)とビジネスモデルが近いので、仕事内容をイメージしてもらいやすい。その点で有利だったと感じます。

HBSは黄金の道か?
Pgiam / iStock

2年間で3千万円の自己投資。高すぎない?

――高額な学費がかかります。私費留学ですよね?

Lina:はい。あまり考えたくないんですが、学費と生活費を合わせて、2年間で日本円で3千万円くらいじゃないでしょうか。

ただ、奨学金を利用している人もたくさんいます。HBSには、ニーズベースの奨学金制度があります。収入が一定水準を下回っている学生や、扶養家族がいる学生に対して、経済的な必要性に基づいて給付するものです。

ほかのビジネススクールでは、入学時の成績や経歴に基づいて奨学金を支給するのが一般的ですが、HBSでは、合格さえすればニーズベースで奨学金を受けられます。人によっては奨学金で全額まかなうこともあります。

私は独身で留学したので、扶養家族がいる人に比べると金額は少ないですが、一部は奨学金でまかなっていました。

学費は高額ですが、それでも来てよかったと思っています。ここで出会った人とのつながりや、その後のキャリアパスの出発点として、アメリカ現地就職の「門の前」に立てたからです。

HBSは黄金の道か?
Pgiam / iStock

■Linaさんに聞いたワンポイント・アドバイス

“アメリカのビジネススクールは、学生の多様性を重視する。自分ならではのユニークな経験や強みを「わかりやすく」伝えることが大事”


次回のインタビューVol.2は、「楽天の英語公用語化も議論した」。お楽しみに!

(取材・編集:野上英文、文:渡辺裕子、デザイン:高木菜々子)

この記事に関連する職業

経験談・年収・キャリアパス・将来性などのデータ・ロールモデルをこちらでご覧いただけます