2024年を迎え、気持ちも新たに目標を立ててやる気に満ちているビジネスパーソンは多いはず。一方、年末になるとせっかくの誓いを忘れてしまったり、年初の出来事すら思い出せなかったりするのが「あるある」となっていませんか。
自分にフィットした目標を設定、達成するにはどのような準備やマインドセットが必要なのでしょう。JobPicks編集部ではキャリア論が専門の「タナケン先生」こと法政大教授田中研之輔さん、登録者数27万人のビジネス系YouTuberハック大学ぺそさん、アメリカMBA留学経験のあるJobPicks野上英文編集長の3人に話を聞きました。
正月に新年の誓いを立てた皆さんは自身の目標のセルフチェックに、まだ立てていない皆さんはこれからの目標設定時に役立ててみてください。
2023年9月、目標管理の実態に関する調査結果が発表されました(HR Brain調べ)。それによると、会社員の男女600人のうち約8割が「面談や提出日直前に”その場しのぎ”の目標設定をしたことがある」と回答。また、目標を常に意識している会社員が35.8%だったのに対し、「査定時期や面談時期のみ目標を意識する」「目標を意識していない、または覚えていない」と回答した会社員は全体の6割以上に。目標が名ばかりになっている実態が浮かび上がりました。
この結果に対し、YouTuberのハック大学ぺそさんは「そりゃそうだろうな、って感じです」とうなずき、次のように理由を示します。
そんなぺそさんが自身の日々の成長を実感できるツールとして3年間続けているのが「1年日記」です。書店には3年、5年、10年といったより長い期間の日記も並んでいますが、まずは1年日記をしっかりコンプリートすることを勧めています。
日記には基本的には失敗か成功したことを書くようにしています。長さは1行でいい。これが365日積み重なって1冊となり、ちょうど1年前の自分と比較することで成長や変化を如実に実感できるんです。こんなしょうもないことで悩んでいたとか、すごくハードルの高いことをやっていたとか。それを見返すだけでもモチベーションが上がります。
ポイントはハードルを高くしすぎないこと。ぺそさんは「翌日に前日のことを書くのはOK」「思い出す努力をしないと書けない状態になるとゲームオーバー」といったマイルールを設定しています。また、目標については大きなものである必要はなく、「今週の仕事を前回よりも早く終わらせる」など、短期のスパンで成功体験を得られるものを繰り返すのが自己肯定感アップにつながるとのことです。
組織にとらわれず自らの軸を持ち、柔軟にキャリア形成する「プロティアン・キャリア」を提唱する法政大教授の田中研之輔さん。ビジネスパーソンが目標を設定する一助として、自分の持つ「3つのキャリア資本」を可視化することを提案します。
1つ目は「ビジネス資本」。これは語学や法務の知識、プレゼンテーション、プログラミングなどの資格や職歴などの資本を指します。2つ目は「社会関係資本」。これは職場や友人関係、趣味や地域などの持続的なネットワークによる資本です。最後は貯蓄や株式、不動産などの「経済資本」です。この3つを自身のキャリア資本としてとらえ直すことによって、自身が社会や組織の変化に柔軟に対応できるかどうかを客観視できるようになるというわけです。
1つの業務を同じメンバーで長年続けると、ビジネス資本と社会関係資本は横ばいになる。新しいことへのチャレンジや新しいネットワークづくりによって資本を貯めていくことが重要です。憧れのロールモデルを見てみてください。彼らはきっといろんなフィールドを持っている。毎年ビジネス資本と社会関係をアップデートして、経済資本にもうまく転換しているはずです。これは能力や才能の問題ではなく、会社の経営戦略のように自分のキャリアを戦略的にデザインしているかどうかの違いなのです。
また、田中さんはキャリアの目標を設定する時までに「何がキャリアのブレーキになっているか」を見つけることも重要と指摘します。
今苦労していることや課題に感じていることを書き出してみてください。そうすれば、自分で改善できることとどうしても自分では解決できないことが出てくるはずです。後者については、今から組織や周囲の人にアプローチして交渉しつつ変えていくことが必要かもしれませんが、まずはブレーキの特定がすごく大事。ただ悩んでモヤモヤするよりも、健康診断と同じように自分のコンディションを定期的に可視化した方が戦略的なキャリアデザインができます。
では、自身が立てた目標と付き合っていく上でどのようなマインドセットが必要なのでしょうか。朝日新聞社でジャカルタ支局長など20年近く記者・編集者を務め、MIT(マサチューセッツ工科大学)のMBAに私費留学したJobPicksの野上英文編集長は、「0か100かで考えない」マインドの大切さを説きます。
野上編集長がこれまで世界中の著名CEOの話を聞いてきて気付いたのは、誰一人として完璧なマスタープランを持ち合わせていないということでした。これは、VUCA時代を生き抜く世界共通のマインドセットなのかもしれません。とはいえ、彼らが行き当たりばったりかというともちろんそうではありません。
彼らは北極星のように理想の未来の自分像を描いていて、そこに向かって達成できるのは6、7割程度、あとは軌跡修正をしながら変化に対応していくのです。つまり目標は『0か100か』ではなく、遠くに置いた理想像に対して、変化に適応しながらしなやかに進んでいくもの。特に会社員であれば、仕事は会社都合で変化するでしょうし、ポジションが変われば達成すべきことも変わるはずですよね。だからこそ食わず嫌いすることなく、変化適応力を持ちながら、『ある程度が方向性として合っていればOK』という意識が必要です。
1年単位の目標をまず立てることで、MBA留学や転職を次々と実現させてきた野上編集長。田中さんも年間2、3冊のビジネス書をコンスタントに出版していますが、「偶然そうなっているのではなく目標を先に決め、そこから逆算をしてタスクコントロールをしている」と強調します。
皆さんもこの1年で自身が何をしたいか、どうありたいかを決めて動き出してみませんか。
野上編集長によるハック大学ぺそさんのインタビューや田中さんを講師に迎えたJobPicksのウェビナーの一部は、Podcast番組「定時までに帰れるラジオ」(#テイジラジオ)からお聞きいただけます。
(企画・編集:竹本拓也、デザイン:高木菜々子)