社会の第一線で活躍する人たちが、もしもう一度、キャリアのスタートラインに立ったなら?就活生や働き出して間もない人たちへのメッセージを紹介します。第7回は、NewsPicks編集長の佐藤留美さんです。
社会の第一線で活躍する人たちが、もしもう一度、キャリアのスタートラインに立ったなら?就活生や働き出して間もない人たちへのメッセージを紹介します。第7回は、NewsPicks編集長の佐藤留美さんです。
佐藤 留美(さとう・るみ)
NewsPicks事業 執行役員/NewsPicks編集長
青山学院大学文学部卒業後、人材関連会社勤務などを経て、2005年編集企画会社ブックシェルフ設立。「週刊東洋経済」「PRESIDENT (プレジデント)」「日経WOMAN」などに人事、人材、労働、キャリア関連の記事を多数執筆。最新刊に『仕事2.0』。『凄母』(東洋経済新報社)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)など著書多数。2014年7月からNewsPicks編集部に参画、2015年1月副編集長。2020年10月JobPicksを立ち上げ、編集長に就任。 2022年7月に執行役員、2023年10月より現職。
今回は、トピックスのオーナーとの間でリレー投稿として「私がもう一度、キャリアを踏み出すスタートラインに立ったなら」というお題をいただきました。
前回は、テクノロジーを駆使した新しい旅のスタイルを提供している「KabuK Style(カブク スタイル)」社長の砂田憲治さんの記事でした。私は、今回は主に自分の個性と強みを生かした仕事の見つけ方について書いてみたいと思います。
就職活動をされている学生の皆さんは、will, can, mustという言葉をご存じでしょうか?
will(やりたいこと)と、can(できること)と、must(やらねばいけないこと≒仕事として求められる業務内容)この3つの円が重なった仕事こそが適職であり、もっとも力を発揮できる分野だというキャリアの定説です。
毎年多くの就活生を取材し(その数は累計で200人は超えると思います)、日頃も数多くのインターン生と接していると、will(やりたいこと)が分からなくて思い悩む人がもっとも多い気がします。
結論から言うと、やりたいこと探しにあまり悩まないほうがいいと思います。
それよりは、can(得意なこと)は何かを振り返り、その得意を深ぼる、あるいは広げるほうが、悩みや不安が減るのではないでしょうか。
なぜなら、人が仕事をしてもっとも報われたと思うのは、誰かにその仕事を喜んでもらえ、貢献できたと実感できた時だからです。
翻って、どんなに努力しても成果がでず、結果、誰かに貢献した実感がない時は、無力感を感じ、自信を喪失してしまいがちです。
今、私が所属するNewsPicksのコミュニティチームにある理系のインターン男性がいます。彼は、1年前、もっと世の中の多様な仕事を見てみたいとNewsPicksにジョインしてきました。
当初は、記事の取材・原稿執筆を担当していて、それも楽しそうではあったのですが、将来的にその仕事に従事したいというほどではなさそうでした。
ところが、配属を変えて、NewsPicksに蓄積されたユーザーのデータを分析し、どうやったらNewsPicksのコメント欄がより活性化するかの施策を考える仕事を担当してもらったところ、本人の言葉を借りると「脳汁が出る」というほど時間の感覚を忘れて没頭。
熱中するだけあって、仕事の成果も凄まじく、新しい切り口のデータの取り方を次々に提案し実行してくれるなど、まさに水を得た魚。チームも、彼が土台を作ってくれた、データによる仮説→その実行→データによる振り返りというサイクルが回せるようになり大助かり、という実例があります。
このように、自分が得意で没頭したことが、人やサービスに生かされる──この快感こそが仕事の醍醐味なのではないでしょうか。
ちなみに彼は、NewsPicksのインターンを卒業した後は、データ分析を生かした大規模なプロジェクトのシミュレーションがやりたいと「やりたいこと」の解像度をあげています。
このように、まずはやりたいことはいったん無視して、得意なことに集中してみる、あるいは得意なことを広げてみると、より満足度の高い仕事に出会える確率があがるように思います。
今仮に、私が就職活動に挑むとしたら、先ほどのインターンの彼と同様に、自分の得意なこと、没頭できることは何かを探すと思います。
私の場合、残念ながらいわゆる秀才タイプではないため、得意なことが限られていました。
ちなみに強みを判断する方法としては、その分野の成績がよかった、あるいは人から褒められたことがある、などごくシンプルな手法を適用すれば良いと思います。
では、当時の得意なことを振り返ってみたいと思います。
(得意)
人の話を聞くこと
面白おかしく話すこと
宴席などを盛り上げること(少人数に限る)
文章を書くこと
企画すること
フットワーク(フィールドワーク)
人の悩みを聞いてアドバイスすること
直感を働かせること
メンタルが強い(ストレス耐性が高い)
正直、どう自分を盛っても、今も当時もこのくらいしか得意なことはなさそうです。
逆に不得意なことは、数学や論理的思考、事務処理、表計算、税務処理、空間認知など挙げればキリがありません。この不得意をしみじみと見つめても、気分がクサクサするだけなので、今も昔も不得意は無視。
徹底して “得意” を生かすことしか考えません。
次に、上記の少ない得意なことを生かす職業を考えるでしょう。
ぱっと思い浮かぶのは、人の話を聞いて、話して、文章を書いて、読者に貢献する「記者・編集者」という仕事です。
私が就職した25年以上前はそれしか浮かびませんでしたが、この世には、あまたの職業があると知った今の知識があったら
企業の人事
人事コンサルタント
臨床心理士(カウンセラー)
なども候補として浮上します。でも、臨床心理士は難関である院試と国家試験を突破せねばなりません。
私の不得意なこととして、ペーパーテストや学校生活(集団行動が苦手)という要素が確認できるため、これも選択肢から外れます。
コンサルも雰囲気的にあまり好きになれませんし、入社の前提条件となる論理的思考が苦手なのですから、歯が立たないでしょう。
そうなると、記者・編集者と企業人事の2択となります(得意なことが少ないだけに、選択肢が少ない)。
もし私が就職活動に挑むとしたら、まずはこの2つの職業を体験できるインターンを片っ端から受け、採用してくれた会社で必死に働いて、自分のできることを増やすと思います。
そして、試験が嫌いというか元々苦手なので、できればそのまま採用してくれるように働きかけるのではないでしょうか。
インターン直結の採用枠がなかったとしても、交渉次第で新たに制度ができるなんて事例はいくらでもありますから。
あるいはインターンを体験した後、やっぱりこの仕事は自分に向いていると確信したら、ダメ元で記者・編集者と企業人事の職種別採用を行っている会社を片っ端から受けると思います。
具体的に会社を選ぶ際は、これまた私が得意とする直感に従って選ぶと思います。
例えば、ガラッと扉をあけて足を踏み入れた瞬間、いやーな気配を感じる会社。OB/OG訪問で出てくる人出てくる人が好きになれない会社。よくもこんな嫌な聞き方ができるなと感心してしまうような面接官がいる会社。
こういう会社は、自分の価値観と合わないので、入っても適応できない、輝けないと、たとえその会社が一流だろうが将来性が高かろうが目もくれないでしょう。
そのくらい、会社を「選んで」も良いのではないでしょうか。企業と人材は、労働(価値)と給料の交換という意味において、本来対等であるべきなのですから。
私の場合、せっかく感じの良い採用担当者がいるのに、その上に威張った採用課長や人事部長がいて、ナイスな採用担当者が萎縮してしまっているような会社(実際、よくあるのですが……)は避けたいです。
具体的には、説明会などで部下をさん付けではなく呼び捨てにして、「おい、Zoomの画面、共有!」などと命令したり、インターン終了時の食事会で面白トークを強要したりする会社です。
上意下達カルチャーに抵抗がない──というようなタイプの方は、むしろそういった会社が向いている可能性がありますが、軍隊的カルチャーが徹頭徹尾合わない私のような人間は、心を病む危険があります。
まとめますと、私がもう一度就職活動をするとしたら
やりたいことを考えるとキリがないので、いったん捨てる
得意なこと(人から褒められること)は何かをリスト化する
周囲の社会人(親や兄弟、先生、親戚など)に聞いたりしてそれらが生かせそうな仕事は何かを探す
その職のインターン・アルバイトの募集に片っ端から応募する
必死でインターン(アルバイト)してみる
それと同時に、その職種の新卒募集に片っ端から応募する
会社を選ぶ時は、自分の価値観・直感に従う
最後に、自分の大事にしている価値観を知るには、自分の経験に基づいた感情に着目してみるとよいと思います。
それも「喜びを感じる時」「怒り(悲しみ)を感じる時」といった極端な感情に着目するのです。
例えば私が喜びを感じるのは
時間を忘れるほど集中できた時
何か作品(原稿、料理、裁縫など)を作る過程そのもの
それが人に喜ばれた時
人と深く分かり合えたと感じられた時
(上から目線ですが)人の成長に貢献できたと実感できた時
ありのままの自分でいられる時
冗談が言える雰囲気
などです。
反対に、私が怒り(悲しみ)を感じるのは
お体裁ばかりをつくろって中身がない
嘘をつかれる
本音と建前の使い分けが極端
創作の自由が認められない
自分の意見が言えない、周囲も言わない
人と分かり合えない
ギャグが言えない雰囲気
などです。
ですので、こうした喜びを多く感じられそうで、逆に怒り(悲しみ)を感じる機会が少なそうな仕事や職場を選びます。
要は好悪の感覚、快不快に素直になるのです。
働く時間は思ったより長く、ここの時間がハッピーでないと、人生そのものが暗くなりがちですから。
もっとも、それでも、初職や会社選びに失敗するかもしれません。しかし、今のこの人材流動化時代、最初の会社や職選びを間違えたとて、やり直しの機会はいくらでもあります。
ですから就活生の皆様には、あまり思い詰めないでと申し上げたい。
何より自分を大切に、就職活動していただけたらと願います。
私が次にバトンを渡すのは、NewsPicksCTO / CPOの文字卓郎さんです。ぜひそちらもお楽しみに!
(文:佐藤 留美、編集:JobPicks編集部)
このシリーズは、「NewsPicksトピックス」とのコラボ企画です。「やりたいこと探しは留保。キャリア記事を25年書いてきた私が、今就活するとしたら」(2023年3月7日配信)を編集しました。
佐藤留美さんはNewsPicksトピックスで「仕事の今と未来を語る部屋」を連載しています。ぜひチェックしてみてください。