広報とは「答えのない問いを探求する仕事」向いている人は?
2022年6月1日(水)
政策企画部門から社会人キャリアをスタートして、2年を過ぎた頃。「そろそろキャリアの軸がほしい」と考えたことがきっかけでした。
政策企画の仕事は、官公庁や業界団体といったステークホルダーとの関係を構築しながら、成長し続けるための事業環境を整備することです。
インターネット領域のサービス提供にあたっては、社会からの信頼獲得をはじめ、多くのステークホルダーとの連携が必要です。
私が在籍していたのは、そのために必要な役割を担う部門で、そこでは、ステークホルダーに向けた自社の取り組みの発信や、官民連携でのイベントの企画など、部署のさまざまな業務を経験しました。
おっしゃる通り、仕事はとても楽しく、世の中で新しい価値を創造していくための考え方を学びました。
それでもジョブチェンジを決意したのは、私には仕事で大きな成果を上げるための「強み」がなかったからです。
業務の特性上、政策企画部門には、明確な強みを持っている人が多く在籍しています。省庁出身というバックグラウンドを生かしている先輩や、弁護士資格を持っている先輩もいました。
いうなれば、百戦錬磨のビジネスパーソンが集う部署だったのです。
一方、私には、これといった強みがありませんでした。もし今後、業務スキルを磨いていったとしても、「それだけでは通用しなくなるタイミングがくるかもしれない」と感じてしまって。
明確な強みがあれば、もっと面白い仕事ができるはずだと思っていました。
強みがあれば、影響力が大きいプロジェクトに携わることもできるでしょうし、そこで発揮できる価値も増えていきますから。
では、いったいなにを自分の軸として育てようと考えたのか。私が選んだのは、「コミュニケーション」です。
政策企画の仕事をしていたとき、その仕事の基本は、コミュニケーションにあると感じました。
民間企業や省庁、業界団体等の関係者が課題解決に向けて取り組みを進めるうえでは、関係者の利害関係も踏まえながら、丁寧にコミュニケーションを重ねていくことが重要であると学びました。
当時の私には、コミュニケーションが「社会がより良い方向に向かうための手段」に思えたのです。
コミュニケーションを追求していけば、きっと社会にとって必要な価値を生み出していける——。その確信を持ってネクストキャリアを考えていたところ、広報という職業に出会いました。
「広報」を英語にすると、“Public Relations”になります。つまり、社会との関係性をつくるのが、広報の役割です。
関係構築の方法は多々ありますが、抽象的に言うならコミュニケーションだと思います。
当時は広報の仕事について詳細な理解があったわけではありません。でも、広報としてのキャリアを深めていけば、コミュニケーションを軸にしたキャリアがつくれるはずだと直感したのです。
まだ広報になって数年ですが、現在はコミュニケーションを通じて価値を生み出せていることにやりがいを感じていますし、当時の直感は正しかったと思います。
私なりの言葉で表現するなら、広報とは「コミュニケーションのコーディネーター」です。
広報は、自社の魅力をさまざまな角度から社会に発信することで、認知拡大・理解促進につとめ、ステークホルダーの期待感を醸成します。自社や自社サービス(プロダクト)のファンをつくっていくのも、広報の役割です。
自社の魅力を伝える相手は、顧客だけにとどまりません。投資家や取引先、生活者、社員の家族もステークホルダーであり、メディアを通じてそれらすべての方々に意義ある情報を届けていく必要があります。
伝える相手によって、伝えるべき内容は変化しますから、そこにはアレンジが必要です。そうした意味で、広報はコーディネーターだと思っています。
例えば、広報の業務には、プレスリリースの作成やメディアからのお問い合わせ対応があります。
それらはメディアの記者の方がカウンターパートになりますから、記者の方々がどのような情報を探しているのかを想像したうえで、それに合った内容を伝えられるようにアレンジする必要があります。報道価値がなければ、取り上げてもらえることはありませんから。
テレビや新聞、雑誌など、メディアによってもコーディネートの方法は変わります。短期的でも盛り上がるムーブメントをつくりたいのか、あるいは長期的な視点で話題にしてもらいたいのかによっても、訴求方法は変化しますよね。
取り上げていただくためには、事前準備も必要です。プレスリリースの作成だけでなく、メディアが報道しやすいよう意識した画像や映像素材を用意したり、時には記者発表会の準備をおこなったりすることもあります。
またその際は、ただメディアを意識するのではなく、その先にいる生活者の方に有益な情報を届けることを念頭に置かなければいけません。
広報活動は、自分たちが伝えたいことを齟齬なく伝えること、そして情報の受け手である皆さんにとっても有益であることの、双方を満たさなければ成立しないのです。
おっしゃる通りで、新規事業をローンチするときなどは、それをどのように届けるかを、各事業部と密に連携して広報戦略から考えます。
どのような背景で事業を立ち上げたのか、開発工程にはどのような苦労があったのか、それらをヒアリングしてストーリーをつくっていくのです。
こうして社内でのコミュニケーションを地道に重ねていると、やがて“会社やサービス(商品)にいちばん詳しい人”になれます。
すると、いわゆる“ネタ”が思いつくようになってきますし、戦略を立てる思考ができるようにもなってくるのです。
自分自身が誇れる会社で働いていることは、広報の役割を果たすうえで非常に重要だと考えています。思いがあれば、自然と「みなさんに知ってほしい」という気持ちが湧いてきますから。
私は広報職としての実務経験がない状態でZOZOに転職しましたが、振り返ってみると、書籍で学んだ知識よりも思いの強さが糧になっていた気がします。
「どんな企画を立てれば、ZOZOをもっと好きになってもらえるだろうか」「この一文をもう少しアレンジすれば、もっとZOZOらしさが伝わるのではないか」と細部にこだわり続けた経験が、広報としての私を大きく成長させてくれたからです。
広報は文章を書く機会も多いので、ライティングに長けているなど、テクニカルスキルを持っているとアドバンテージになります。
でも、広報の役割を果たすうえでの絶対条件ではありません。
それよりも重要なのが、自分の頭と心で考える力です。具体的にいえば、「コミュニケーションに対するプロ意識」と「想像力」が求められると思っています。
例えば、広報の仕事をしていると、メディアからお問い合わせいただく機会がよくあります。それに回答する広報の言葉は、そのままメディアに掲載される可能性もあるんですね。
そういう意味で、会社をもっと好きになってもらえるチャンスをものにするためにも、表現にはとても気を使います。
いうなれば、広報は会社の顔です。
自分を通して発信する以上、そこには責任が伴うため、プロ意識を持たなければいけません。経営陣含めた取材対応者に対して、取材時の服装についてアドバイスしたり、「誤解がないよう、こういう表現は避けたほうがよさそうです」といった提案をしたりすることもあります。
また、コミュニケーションは相手があってのものですから、想像力も重要です。
例えば、原稿を確認する際に、読み手に対して誤解を与えない表現かをチェックするのは広報の役割です。
このとき、私は自分の感覚をできる限り読者に寄せています。自分たちはいいと思っても、それを読んだ人がどう思うかは別の話だからです。
想像力をフルに働かせて、相手の気持ちになれば、ステークホルダーのみなさんと良好な関係性を築いていくことにつながる。私はそう信じています。
また、先回りして考える想像力も非常に大切です。
プレスリリースや記者発表会、インタビュー記事など、いわゆるアウトプットばかりに注目が集まりがちですが、そこに至るまでの業務は想像以上に地道な作業の積み重ねで……。
メディア関係者のみなさんはもちろん、社内調整にも時間を割くので、段取りをスムーズに進めるためにも、想像力を働かせる必要があるのです。
日頃から、Web記事やテレビ番組など、いろいろなコンテンツをチェックして情報収集するようにはしています。
「この切り口は、ZOZOでも活用できるな」「この記者さんは、ZOZOに興味を持ってくれそうだな」といったように、頭の中の引き出しを増やしていく感覚です。
プライベートの時間でも、そうしたことを考えるときがあります。日常から仕事のヒントを見つけられているのは、会社への愛があってこそです。
人を喜ばせることが好きだったり、自分が好きなものを社会に広めたいという考えを持っていたりする人は、広報として活躍するチャンスがあると思っています。
広報は、自分が介在することの付加価値を生み出しやすい職業です。プレスリリースひとつとっても、準備の段階からアウトプットまでの間に、自分のアイデアや気付きを反映させることができます。
つまり、会社の魅力をただ伝えるだけでなく、そこに自分らしい色を乗せ、さらにすてきなものにしていくチャンスがあるのです。
私がZOZOを大好きだというのもありますが、自分のアイデアを盛り込んだ仕事で誰かに喜んでもらえた瞬間は、「広報をやっていてよかった」と強く思います。
広報という仕事の面白さは、正解がないところにあると思っています。
時代の変化に応じて社会は変わっていきますし、社会の変化に応じて会社も変わっていきます。求められる動きが目まぐるしく変わるので、「これをやっておけば大丈夫」という模範解答がないのです。
いうなれば、答えのない問いに向き合っていく仕事です。それを大変だと感じる方もいるかもしれませんが、私は「自分自身を常にアップデートできる魅力的な仕事」だと思っています。
また、模範解答がないので、バックグラウンドがない未経験者でも、自分次第で価値を生んでいけるのも大きな魅力です。
私もまだまだ未熟で、偉そうなことを言える立場ではありませんが、広報が生み出せる価値を追求していく毎日が楽しくて仕方がありません。
「自分なりの色で付加価値を生み出し、積み重ねた価値で未来をつくっていく」という言葉に心が躍ったなら、ぜひ広報という仕事に挑戦してもらえたらと思います。
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取材・文:オバラ ミツフミ、デザイン:浅野春美、撮影:遠藤素子