広報・PR関係者の間でたびたび話題に上がる企業がある。
色鮮やかなバスボムやスキンケア商品を世界に展開する、英国生まれのコスメブランド「LUSH(ラッシュ)」だ。
注目を集めるのは、そのユニークなPR手法。多くの企業がSNS広告やメディア露出を通して認知を高めようとする中、LUSHは「広告枠を買う」ための予算取りを一切しないという。
その代わり、人権擁護や自然環境の保全など、企業の考えを伝えるエシカル(倫理的)なキャンペーンを展開することで、ハッピーでヘルシーな生活を応援するというブランドメッセージを伝え続けてきた。
昨年11月は、FacebookやInstagram、TikTokなどのSNSが恣意的に表示アルゴリズムを操作しているという理由で、過度に見続ける若者への悪影響を懸念して一部SNSアカウントの運用停止を発表(詳細は後述)。多くの反響を呼んだ。
PRの語源は「パブリック・リレーションズ」。社会の公器として、文字通りパブリック=公衆と真摯に向き合いながら、共感する顧客を増やしてきたのだ。
このような姿勢に引かれて、2014年からラッシュジャパンのPRを務めてきたのが小山大作(こやま だいさく)さん。世界中でファンをつくるLUSH流PRの秘訣を聞いた。
—— まずは、小山さんがPRの仕事に就いた経緯を教えてください。
もともとは映画業界に携わりたいと思っていました。PRに興味を持つようになったきっかけは、アメリカ留学中に見た禁煙啓蒙のCMで。
最初、女性の顔がアップで映って、いかに喫煙が体に悪い影響を与えるかを語り始めるんです。それがだんだんズームアウトしていくと、首に太い呼吸器がつながっていて……。
「もっと早くに分かっていたら、こんなことにならなかった」というメッセージで終わるんです。
—— 強烈なCMですね。
今でも鳥肌が立つくらい、こんな広告表現があるのかと感動しました。その他にもアメリカでいろいろと考え方が変わる機会があって、自然とマーケティングやコミュニケーションにのめり込んでいったのです。
そして帰国後、新卒でPR会社に入社して仕事のイロハを学び、2006年に化粧品ブランド・エスティ ローダーグループの「アヴェダ」へ転職しました。
ここで初めて、商品プロモーションの枠を超えて、企業が大切にしていることを伝えるコーポレートコミュニケーションも担当しまして。PRの仕事の意味を、すごく実感した期間でしたね。
3社目はスマホが広がっていった時期と重なっていて、日本におけるデジタルマーケティング業界そのものを発展させるためのPRを担当していました。いろいろな企業のデジタル施策を表彰する、アワードの企画運営などもやっていました。
—— さまざまな商品プロモーションから、コーポレートPR、デジタルマーケティングまで経験してきたのですね。
今並べて話してみると、すごくきれいなキャリアに聞こえるかもしれませんが、いろいろと悩んだ時期もありました。
働きながらずっと思っていたのは、自分が持つPRのスキルをどう使うのか。ただ仕事として給料をいただくだけではなく、社会に対してどう影響を与えられるか、影響を与えていきたいかを考えるようになっていったんです。
そこで、たまたまその時にラッシュジャパンの募集を見て、これだ、と。