2000年に起業してからは「2ちゃんねる」(現在は5ちゃんねる)の運営に携わり、「Blog of the Yeah! 2003」「アルファブロガー」を受賞するなど、ブロガーとしても世に知られるようになりました。
山本:27歳のときにイレギュラーズアンドパートナーズ社を立ち上げ、代表取締役社長に就任しました。以前と比べて、良い意味でも悪い意味でも「会う人のバラエティー」が広がったと感じていましたね。
ある種、争いや憎悪に対してお金を払えば解決できる人種ではなく、名誉や人間の機微に対して怒ってくる人種と接するようになったことが、自分にとってパラダイムシフトになったというか。まさに、インターネットの中で“社会の縮図”を見たように思います。
また、高校時代からパソコンに触れていたり、普段から日記をつけていたりしたこともあり、文章を書くのが得意だったんですよ。その延長線で始めたのがブロガーで、物書きは抵抗感なく始められました。言ってしまえば、自然と物書きにありついた感じですね。
日々の考えを再整理したり、問題提起した際に周りの意見を確かめたりといった目的で文章を書き続けた結果、賞をいただくなどの評価につながったと思っています。
起業家、投資家、ブロガーとマルチなキャリアを歩んできた山本さん。当初から理想のキャリアを思い描いていたのでしょうか。
山本:自分のキャリアをこうしようというようなロールモデルは全く考えてこなかったんです。自分は「ナンバースリータイプ」の人間なんですよ。必要に迫られたときに最善の選択肢を考えて、現場をつくっていく。要は「親方業」ですよね。これが自分の得意技だと思っています。
プロジェクトを組んだり、人をかき集めてきたりと、環境や条件を整えていくことに知恵を絞り、実現させていくのが自分のスタイルなんです。
あとは、分からないことをそのままにするのも嫌いなので、プロジェクトを進めるにしてもしっかりと事前調査を行い、コストベネフィットを考えた合理的な判断ができるようにしておく。仕事の成果を数値化できるように明確なKPIを立てることを心がけるようにしています。
最初にブロガーとして名をはせた山本さんですが、現在は投資業以外にも、政策関連の調査やデータ解析にも携わっています。個人としての執筆とはまた異なるスキルが求められそうですが、どのように向き合っていたのでしょうか。
山本:政策の仕事であれば、関係各所との交渉やコーディネートには自信を持っています。
利益相反の線引きを理解しつつ、先方の出方をうかがった上での最良な提案をベストなタイミングで差し出すことが求められるわけですが、「いい塩梅の距離感をつかむこと」がとても重要になってくる。
政治へのこだわりやコアバリューを見極め、どこに着地させるのか。先方と適宜連絡をとってタイミングを見計らい、付かず離れずの距離を意識しながら次第に詰めていき、頃合いがきたら助言を入れる。こうした振る舞いを念頭に置きながら、仕事に当たるようにしていますね。
プライベートとの両立で葛藤も「物事を客観的に捉えられた」
一方で、30代に入るとプライベートと仕事の両立に課題を抱えます。結婚し、現在は3児の父に。その間には介護も経験し、常に仕事だけに全力で打ち込めたというわけではなかったといいます。
山本:30代後半から子育てや父親の介護に時間を割いたりと、家庭にほとんどの労力を尽くしてきました。
子育てと介護というサンドイッチのなかで、40代は投資やコンサルを中心に事業をやってきたものの、どうしても起業家としてフルベットできないふがいなさを感じた時期もあります。
一時、住んでいるマンションの管理組合の仕事も務めていたんですが、「誰のために生きているんだ」と思う場面もあって。自分の思い通りにいったとは言い切れない40代ですが、物事を客観的に考えられたのはプラスだったなと。
大学の頃から計量政治学を学んでおり、政治と数学を組み合わせて何かできないかとずっと思っていました。
前編では仕事をする上で、「取材」「語学」「数学」の3つを大きなキーワードにしてきたと明かした山本さん。大々的に名前を出さずに活躍している業務も多く、今後はさらなる目標もあるといいます。
山本:現状、政府関連の社会調査などは、“黒子”として関わることが多く、この界隈ではベテランと言えると思います。
表の座に有識者として名を連ねるためには、今の修士ではなく博士号を取ることが必要なので、2024年は論文を発表し、准教授としての活動や政策の調査会に有識者の立場で参画したいと考えています。
終身雇用制に限界が見えつつある昨今では、YouTuberやブロガーなどで自由に表現活動することを生業にすることも珍しくなくなりました。
一方で、インターネット上の言論空間では自身の発信に対する誹謗中傷に悩む人も多いです。ネット著名人の先駆け的な存在の山本さんは、どのようなスタンスで向き合ってきたのでしょうか。
山本:昨今のSNS等でもよく見かける誹謗中傷ですが、仕事や起業など何か事を起こそうと思った際に、必ず外野からの反対意見が出てくるでしょう。その対策は簡単です。批判されたことを上書きし続ければいい。
「ネガティブなことを言われたから」と立ち止まらず、自分の決めた道を信じて前に進んでいく。このような心構えが大事だと思います。
加えて、何を価値基準におけばいいかつかみづらい時代では、生存戦略を意識した「ポジション取り」が肝になると考えています。
世の中は「流れをつくる人」と「流れに乗る人」に二分されますが、前者になれる人は少数派。自分がどちらなのか、自分自身がよく分かっているはずです。後者の人は“いつ”流れに乗るかがポイントになるわけですが、複数の波があるとしたら、界隈で生き残っていくためにも的確なタイミングで乗り換えていく必要がある。
とはいえ、インターネットを中心に世の中が目まぐるしく変化する昨今、どのように「キャリアの波」を乗りこなしてよいか分からない人も多いかもしれません。
山本:もし、どの波に乗っていいかが分からない場合、仕事に結びつくか否かは置いておき、まずは実際に体感しておくのをオススメします。
メタバース、Web3、生成AIなど、直近でもさまざまなITトレンドがあります。どれかにフルベットせずとも、手触り感を実際に体験しておくことで、流れのどれかが来た際にも、次の挑戦権を得ることにつながるわけです。
ぜひいろいろなことに興味を抱き、感度を高く持つということを意識してみてください。
山本:自分は必要に迫られたら動くタイプですが、なんとか生き抜いていくために、とにかく“切られない”ようにするのを意識していました。
基本的なことかもしれませんが「連絡をしっかりすること」、「定められた納期を守る」、「自分を安売りしない」ことが信頼の醸成につながります。
1度だけでなく、2度目も呼ばれるようになれば、クライアントが満足しているということなので、仕事の機会が増えていく。
そして、自分だけでは仕事が受け切れないくらいを目指すのがいいのではないでしょうか。受けきれなくて死にそうだ、というのもまた1つの通過点ですから。
(文:古田島大介、デザイン:高木菜々子、編集:富谷瑠美、竹本拓也)