自分探しに300万円超、やっと気付いた“満足できるキャリア”

自分探しに300万円超、やっと気付いた“満足できるキャリア”

    今の仕事に大きな不満があるわけじゃない。でも自分のキャリアって、本当にこのままでいいんだろうか……。現在「自己理解のプロ」として会社を経営する八木仁平さんも、かつてはそんな葛藤を抱える20代の一人でした。

    八木さんは学生時代からブロガーとして月100万円以上を売り上げ、新卒でフリーランスに。それでも「お金以外の働く目的がない」ことに疑問を感じ、本当にやりたいことを見つけるため、自己理解のための書籍やセミナーに300万円以上を投資したと言います。

    その時の経験を発信し始めたところ、自著『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方』(KADOKAWA)がベストセラーとなり、現在は株式会社ジコリカイの代表として活躍するように。「他者の基準に流されないことが大切だと学んだ」と語る八木さんに、心から「満足できるキャリア」の見つけ方を教えてもらいました。

    目次

    八木仁平さんプロフィール

    ブログで月100万円以上を稼ぎ、新卒でフリーランスに

    ──八木さんは新卒でフリーランスという働き方を選択していますが、その経緯について教えてください。

    八木:僕は昔から人見知りで、対人が苦手なことがコンプレックスでした。大学時代はコンビニのアルバイトを2カ月でクビになったり、テレアポのバイトを1日で辞めてしまったり、とにかく人と接する仕事が向いていなかったんですよね。

    「自分にできることは何なのだろう」と考えて、せどりをやってみたり、YouTubeにゲーム実況動画をアップしたりと、試行錯誤していたんです。

    そこでやってみたことの中の一つが、「ブログ」でした。すると文章を書くことは楽しくて、続けてもまったく苦にならないことに気付いたのです。

    そのうちに、書いた記事が大勢の人に読まれるようになり、やがてブログを通してお金を稼げるようになって。初めは月100円くらいの売上でしたが、苦手なアルバイトをしなくても、得意なことを楽しくやれば結果が出るんだ、と感動したのを覚えています。

    そうするとわずかな時間も惜しんでブログを書くようになり、月3,000円、1万円と、どんどん収入が増えていって、1年半経った頃には月100万円以上を稼げるようになっていました。

    ──学生時代から月100万円以上の売上げ!すごいですね。

    八木:自分でも正直なところ「あれ、仕事ってチョロいかも」と思っていた頃です(笑)

    卒業時には「就職して社会人としての常識を学んだ方がいいのかな」という迷いもありましたが、当時から生活していけるだけの収入があったので、新卒でフリーランスとして独立しました。

    八木仁平さん
    (画像:本人提供、以下同)

    書籍やセミナーに300万円を投資して分かった「自己理解」の本質

    ──その後もブロガーとして、順調に活動を続けたのでしょうか。

    八木:ブログを書けば書くほど収入が増え、フォロワーもどんどん増えて周りから賞賛されるようになりました。

    ただ、外からの評価の高まりと、自分自身の内面の幸福度が全然比例していないという感覚が出てきたのもこの頃でした。最初は楽しんでブログを書いていたはずが、いつの間にか「お金になる記事を書かなくちゃ」と必死になっていたんです。

    自分の価値を測る基準が、「お金を稼げるかどうか」になっていたんですよね。常に他者からの評価に追いかけられている状態なので、当然苦しくって、最終的には軽いうつ状態になってしまいました。

    ──得意なことを仕事にしても、それですべてが解決するわけではなかったのですね…。

    八木:「今の働き方のままでは幸せになれない」と思って怖くなりましたね。そこでとりあえず環境を変えてみようと、1カ月間タイに滞在して、初めてオンラインで「コーチング」というものを受けました。

    そしてコーチと対話をする中で、人生をどう生きたいか、どんな時に幸せを感じるのか、これまで自分の内面をまったく知らないことに気付きました。コーチングをきっかけに、この苦しさは自分の内側に向き合ってこなかったからだ、自分にとって大切なことは他にあるんじゃないか、と考えるようになったんです。

    そこからは心理学の本を読んだり、自分自身を理解するためのセミナーに通ったりするようになりました。

    八木仁平さん

    ──その時の学びが、現在の活動のテーマである「自己理解」につながっているのですか。

    八木:そうですね。僕自身も初めは「自分にどんな才能があるのか」を知ることができれば十分だと思っていたのですが、あるセミナーで「才能は、あくまでもやりたいことを実現するためのツール」だという話を聞いたんです。知るべきなのは、自分の才能ではなく「自分が何をやりたいのか」なのだと。

    そこから書籍を100冊以上読み、セミナーにはおよそ300万円を投資して、2年半の時間をかけて辿りついたのは、自分自身を理解して満足できるキャリアを歩むには「価値観」「才能」「興味」の3つを見つけるのが重要だということです。

    このメソッドをブログで伝えるようになったら「シンプルで分かりやすい」と評判になりました。そして雑誌『anan』で特集を組んでもらったことをきっかけに、出版の話が持ち上がり、中田敦彦さんの『YouTube大学』でも取り上げていただいて、メソッドがどんどん広がっていったのです。

    この時にやっと「自分のやりたかったことはこれだったんだ」と思えるまでになったんですよね。自分にはブログへの「才能」があって、自己理解を深めることに「興味」を持っていていて、それをメソッドとして体系的にシェアしたいという「価値観」があった。その3つがハマったことで、やっと「自分がやりたいこと」として明確になりました。

    現在は株式会社ジコリカイという会社を立ち上げ「3カ月でやりたいこと探しを終わらせるオンラインコーチングプログラム」を提供しています。

    やりたいことを仕事にするために必要な「忍耐」と、不要な「我慢」

    ──自分が本当にやりたいのは「自己理解」に関することだと分かって、それを仕事にしたと。

    八木:ええ。ただ人生は「やりたいことが見つかればそれでOK」と勘違いする方も多いのですが、仕事として軌道に乗るまでにはある程度の時間がかかります。

    自己理解のプログラムは、これを受けると誰でも「自分のやりたいこと」が分かるようになるというものですが、最初から順調だったわけではありませんでした。

    始めにモニターの方に受けてもらった時には、10人中3人しか「自分のやりたいこと」が見つからなくって。そこで一つ一つ課題を洗い出して内容をブラッシュアップし、最終的には、プログラムを通じて98%の人がやりたいことを見つけることができるまでになりました。

    「誰でもやりたいことを見つけられる」という自分の仮説の正しさが証明されたようで、完成した時の喜びは大きかったです。

    八木仁平さん

    ──やりたいことが明確になった後も、順風満帆というわけではなかったのですね。

    八木:キャリアにおいて「我慢は不要、忍耐は必要」だと改めて思いました。

    やりたくないことに対して頑張る「我慢」は、出口のない迷路のようなもので、疲労感が残ります。一方で、やりたいことに対する努力は、成長のための「忍耐」。一時的に苦しくとも充実感があるはずなので、この「忍耐」も良いキャリアを歩むためには必要不可欠なのだと感じています。

    「自分で選ぶ道」は厳しいけれど、始めは小さな一歩で構わない

    ──自分が本当にやりたいことだからこそ、厳しくても「心から満足できるキャリア」につながるのだと分かりました。

    八木:そうですね。僕も自分を理解せずに、他人の価値基準に流されたままだったら、今のようなキャリアにはならなかったと思います。

    振り返ると、僕が就職せずにフリーランスになった当時は「人と違う道を自分で選んだつもり」でいたんですよ。でも今考えたら、それは自分が心からやりたかったことではなく「人とは違う選択をするのがいいことだ」という価値基準に流されて決めたように思います。

    八木仁平さん

    ──当時は「自分の選択」だと考えていたけれど、振り返るとそうではなかったと。

    八木:ええ。一見自分でキャリアを選んでいるようで、実は流されていたんですよね。

    でも世の中には似たようなケースも多いのではないでしょうか。社会の中で仕事を選ぶことって、航海にも似ていると思うんです。

    「収入は多い方がいい」「手に職をつけた方がいい」などと、いろんな波がやってくる。そういう「世間の価値観の波」に乗っかってそのまま進んでも、どこに行きつくか分からないですし、満足できる結果は得られないはずです。

    だからこそ、自分が本当にやりたいことを知って、それを灯台の明かりのようにして、自分で生き方や働き方を決めていくしかないのだと思っています。

    ──とはいえ「自分で選ぶこと」の大切さを頭では分かっても、自分で決める勇気が出なくて、つい流されてしまう方も多いと思います。

    八木:他者の価値基準に流される生き方を選ぶと、目先の安心と引き換えに、長期的な不安を抱えることになると思いますよ。

    「みんながこっちに向かって進んでいるし、自分も同じ方へ行けば大丈夫」と思うのはハリボテの安心で、真の生きる力が自分の中に育っていないんです。

    一方、自分で選ぶ人生は、大海原に一人で漕ぎ出すようなもので、その時はめちゃくちゃ不安。だけど自分で道を切り開いていく力が身に付きますし、自信が育つので、長期的には安心につながるんですよ。

    目先の安心に流されているのか、長期的な安心を築こうとしているのか、キャリアを選ぶ時には、自分自身に問いかけた方がいいと思います。

    八木仁平さん

    ──大海原に飛び込むのが怖い、という場合はどうすればいいでしょう。

    八木:飛び込む必要はないと思いますよ。僕は「挑戦」という言葉が嫌いで。挑戦って、勇気がいるじゃないですか。勇気を出すのはすごく難しいので、それよりも「実験」をする方がいいと思っています。

    会社を辞めるとか、借金をして事業を始めるとか、いきなりリスクを伴う決断をするのではなく、副業や趣味のような形で小さく試して、実験がうまくいったらそれを本当の選択にする、くらいがおすすめです。

    私がブロガーとして独立したのも、最初から起業する気があったわけではなく、学生時代に書いた記事が大勢の方に読まれたことがきっかけでした。そうしたスモールステップの積み重ねが、キャリアを育てていくことにつながるはずです。

    自分だけの灯台を見つけて、少しずつでもいいから進んでいく。その過程は厳しい時もあるかもしれませんが、先には必ず自分が満足できる人生が待っていると断言できます。

    (文:高橋三保子、デザイン:高木菜々子、編集:井上倫子)