物価は上がっているのに給与が上がらない……日本では1つの会社に勤めているだけでは、収入がなかなか増えない現実があります。
誰もが本業の会社だけではなく、複数の収入源を作らなければならない時代に入ったと言えそうです。
とはいえ、どうすれば最初の一歩を踏み出せるのか。もんもんと悩んでいる人も少なくないのでは?
『稼ぎ方2.0』を出版し、副業や転職など最新のキャリア事情に詳しい村上臣さん(元LinkedIn 日本代表)にインタビューしました。
物価は上がっているのに給与が上がらない……日本では1つの会社に勤めているだけでは、収入がなかなか増えない現実があります。
誰もが本業の会社だけではなく、複数の収入源を作らなければならない時代に入ったと言えそうです。
とはいえ、どうすれば最初の一歩を踏み出せるのか。もんもんと悩んでいる人も少なくないのでは?
『稼ぎ方2.0』を出版し、副業や転職など最新のキャリア事情に詳しい村上臣さん(元LinkedIn 日本代表)にインタビューしました。
──『転職2.0』の出版から2年、『稼ぎ方2.0』を書かれました。
村上 :『転職2.0』を出したときは、もっと気楽に転職する人が増えるだろうと期待していました。でも、そうならなかった。終身雇用など独特な雇用慣習が残る日本では、転職はたいへん重いもので、そう簡単にできないことにあらためて気づかされたわけです。
一方、欧米ではコロナ禍以降、労働市場はものすごい勢いで流動しました。それには二つの理由があります。
一つは仕事を辞めざるを得なくなったから。
特に飲食業、旅行業の方は仕事が激減し、転職せざるを得ない状況がありました。
もう一つは、家にこもって仕事をして、家族との時間も増える中で、人生を考え直すようになったから。退職や転職を考えるムードが一気に広がりました。
この後者にみられるムードは、日本でも広がりを見せました。
特に大企業に勤務し、リモートワークに移行した方を中心に、今までは飲み会にばかり行って、早めに帰宅していなかったことを反省しながら。ぼくもその一人ですが、多くの人が久々に家族と夕食を共にする経験を通じ、コロナ禍を機に働き方を変えたほうがいいのかもしれないと考えました。
──マインドが変わってどう動いたのでしょう?
村上 :「今の会社で無理なら、新しい働き方ができる会社はどこにあるのか」と転職先を探し始めた人は、それなりに多かったと思います。
データを見ても、転職希望者数はすごく増えています。しかし、実際に転職した人はあまり多くない。
これまでのトレンドと大差ないわけです。つまり転職したいけど、転職しなかった。もしくは、転職できなかった現実があったと思われます。
この2年間で、ここに大きなギャップがあることがわかってきました。
欧米では、コロナ禍で会社を辞めざるを得なかった人が次にどうしたかというと、まず起業した人がけっこういました。
フリーランスとして働き始める人も多かった。ネットビジネスに乗り出し、一生懸命やれば、家族を養えるだろうと考える人も相当数いました。
日本ではこれらの動きも弱かった。ただ、この潮流はすぐに日本に押し寄せてくると直感しました。
──その状況で私たちはどうすればいいのでしょう。
村上 :それが『稼ぎ方2.0』のテーマで、「会社勤めという本業を維持しながらも、それとは別にいくつか副業を持って働く」ということです。
この選択肢のほうが今の日本には合っているのかもしれないと気づきました。
データやロジックでこの仮説を煮詰めていく過程で、誰もが本業と副業の両方を持つ「パラレルキャリア」の時代が到来するだろう、そう確信したわけです。
──パラレルキャリアは不可逆の動きでしょうか?
村上 :なぜ今、会社のほかにもキャリアを持たなければならないのか。なぜパラレルキャリアなのか。根本的な理由は、1社で働いているだけでは給料が増えないからです。
日本の平均給与(実質)の推移を見ていくと、1992年に472.5万円のピークを迎え、以降は徐々に下がっています。リーマンショックの影響で2009年には421.1万円まで下がり、そこから少し持ち直してはいますが、2018年時点で433.3万円。ピーク時から40万円近く下がっています。
村上 :ですから、今後は1つの会社で働くだけでなく、会社の外にもキャリアを持ち、複数のキャリアを同時並行する働き方が必要になっています。会社にしがみつこうとしても、会社そのものが消滅してしまうリスクがあります。さらに、技術の発展で仕事自体がなくなるリスクもある時代です。
日本で収入を上げていくためには、これまでの「1社だけに勤める」という「20世紀的キャリア観」を根本的に改めなければならなりません。
たとえあなたが会社員であっても、1社に勤めながら同時に別キャリアを複数作る。そうして「パラレルキャリア」を築くことにより、複数の収入源を確保しなければ、ジリ貧となってしまう時代が到来しているのです。
──パラレルキャリアには会社が副業を認めることが前提ですね。
村上 :幸いにも、企業側が副業を容認する動きが加速しています。パーソル総合研究所の調査では、正社員の副業を容認している企業の割合は2021年時点で55%に達しています。すでに副業は当たり前のものとなっています。
政府もようやくフリーランスへの支援に力を入れようとしています。
こうした動きをみて、転職より副業を持つ動きのほうが先に到来する可能性が強まったと考えました。そういった時代の変化も踏まえて、『転職2.0』に続き、『稼ぎ方2.0』を出す意味があると考えたわけです。
──副業を考え始めた人の最初のステップは何でしょう?
村上 :とりあえず、何でもいいから目についたものを副業としてやってみることです。それがファーストステップ。世の中には、動かない人が多すぎます。
副業は、やってみないと面白さも自分に合っているかどうかもわかりません。期待しすぎず、とにかく小さく始めるクセをつける。この際、賃金が安くてもいいじゃないですか。
みなさん副業というと、むやみにハードルを上げてしまいがちです。
専門職であれば、それを生かしたい気持ちはわかります。けれども、もっとシンプルに考えてほしい。要は対価をもらえば何でもビジネスです。
もともと商売は物々交換から始まっています。戦後の日本をみても自営業が多かった。駅前の八百屋さんは「仕入れて売る」というシンプルな商売を頑張ってやっていました。
だから、フリーランスなどと横文字を使わずに、自営業として気軽に副業に取り組めばいいと思います。
──気軽な稼ぎ方をやってみる、ですね。
村上 :『稼ぎ方2.0』では、こんな話を紹介しました。
近所に、腰痛で草むしりができないお年寄りが住んでいたとします。
「お困りでしたら、代わりに草むしりをしましょうか」
「ああ、それは助かりますね。おいくらでやってもらえますか?」
「5000円で、どうでしょうか?」
「わかりました。それじゃお願いします」
2人の間にこんな会話が交わされれば契約は成立です。
草むしりが終了したあと、こう尋ねます。
「ご近所に、同じように草むしりの手が足りなくて困っているお宅はないですか?」
こうやって仕事を増やしていけば月に数万円の副業になります。意外と身近なところに課題はたくさん転がっていて、月数万円であれば、ハードルはけっして高くありません。
──自分に合う副業がわからない人も多いのではないですか?
村上 :得意・不得意と好き・嫌いを基準に考えてみてはどうでしょう。
これまでの仕事を通じて、自分の得意不得意や好き嫌いはある程度わかっていると思います。たとえば、自分は苦もなくこなせるけれども、なぜか周りから感謝され評価されていること。それが得意なことです。
例えば、ほかの人が面倒くさがって敬遠している細かい作業が評価されていたら、それはあなたの強みです。
一方、得意・不得意とは別の基準として、好き嫌いがあります。
仕事を選ぶときには、まず嫌いなことは排除したほうがいいと思います。絶対にやりたくないと思ったら、自分の心の声に素直に従ってください。
──村上さんの得意・不得意って、どんなことですか?
村上 :ぼくが得意なのは、技術側と経営との橋渡しです。自分が両方の分野を知っているので、共通のゴールを目指して成果を出すのが得意です。
これは個人事業主としての経験が根っこにあります。
学生時代に秋葉原のパソコン屋でバイトをしていたころ、お客さんから頼まれてホームページをつくるようになりました。つまり個人事業主のプログラマーとして受託仕事をたくさん引き受けたわけです。
そうすると、企画も小売りも全部ひとりで担うしかありません。つまり経営者とも現場の人とも直接お話しして、間をとりもつコンサルのような経験を重ねました。それで、双方の頭の中が見えるようになりました。
逆に不得意なのは、いまやエンジニアですね。30代からプロジェクトマネジャー寄りの仕事をしていたので、プログラマーとしてはもう食っていけません(笑)。
──ご自身の仕事での好き・嫌いも聞かせてください。
村上 :意外とコツコツ仕事が好きです。Excelワークとか。
嫌いなことは、どちらかというと営業かな。やれと言われればやりますが、自分の中では営業のおもしろさがよく分かっていないんです。たぶん自分で作っていないものを売るのが苦手なのだと思います。
──副業をどうにか始めたとして、その経験はどんな影響をもたらしますか?
村上 :相手のために何かをやって対価をもらう経験は、自分のマインドを大きく変えます。
もっと稼ぐには、どうすればいいのだろう。
もっと仕事を増やすには、どうすればいいのだろう。
これは社長業と同じマインドですよね。規模は小さいかもしれないけれども。
このマインドを私は「自分株式会社」と呼んでいます。
このマインドを持てるようになると、毎月寝ていても給料が振り込まれる会社依存の体質から、少しずつ抜け出せるようになります。
たとえば、こんなふうに考えるようになります。
ほかにも自分に向いている仕事があるのではないか。
今の時代に求められている仕事で、自分にできることは何だろうか。
副業に限った話ではありません。いま所属している会社に対しても、身の回りの人に対しても「何ができるのか」を考えるクセがつきます。それを少しずつ実現していくことが、自分のキャリア構築につながっていきます。
──会社依存ではなく、自分主体になるのですね。
村上 :自分のキャリアは自分で決める、というのが『稼ぎ方2.0』でぼくが提唱していることです。
転職でも副業でも、「自分株式会社」の発想がいま、求められています。
自分が自分自身の経営者であるという自覚を持ち、自分にとっての幸せの最大化を目指してほしいです。
自分のキャリアを会社任せにするのではなく、キャリアのオーナーシップを持つことが肝心です。そうすることで、副業を自分の幸せを最大化する手段の一つであると捉え、モチベーション高く取り組むことができるようになると思います。
次回のインタビューは6月9日に公開予定です。お楽しみに。
(取材・文:比嘉太一、野上英文、撮影:飛塚倫久、編集:筒井智子、デザイン:高木菜々子)