営業スキルを3つに解析「AIに頼れる点、自力が試される点」

営業スキルを3つに解析「AIに頼れる点、自力が試される点」

    シン・若手AI人材

    生産労働人口の減少に伴い、業務効率化や1人当たりの生産性向上が一層叫ばれるようになりました。かつては「足で稼ぐことが美徳」とされていた営業現場でも、AIを活用した手法が到来することが予測されています。

    ではAIを活用した営業が広まる中で、若手営業パーソンが“シンAI人材”として頭角を表すには、どんな思考やアクションが求められるのでしょうか?

    前半の記事に続いて、セレブリックス営業総合研究所の所長およびセールスエバンジェリストの今井晶也さんに、“圧倒的差”がつくAI営業パーソンのキャリア戦略について話を聞きました。

    目次

    株式会社セレブリックス 執行役員 カンパニーCMO セレブリックス営業総合研究所所長 兼 セールスエバンジェリスト 今井晶也さんプロフィール

    「レベル3なのに強い武器」では成果が出ない

    前半の記事でもお話ししたとおり、近い将来に生成AIを活用した営業の時代が来るのは確実です。一方で、いわゆる「泥くさい営業」がダメだというわけではありません

    営業において「泥くさい」はマイナスの意味で使われることが多いですが、これを「仕事への本気度」と言葉を置き換えてみるとどうでしょう。仕事への本気度はどんな時代も必要ですし、むしろ「スマートさ」を意識しすぎて成果を出せない方がダサいと思いませんか。

    たしかにAIを営業プロセスに組み込むことで、営業の形はスマートに変わります。しかしAIで「武装しただけ」では意味がありません。

    例えば、AIだけを武器に商談に出るというのは、RPGゲームでいえば「レベル3なのにめちゃくちゃ強い王者の剣を持っている」ようなイメージです。武器は本人のスペック(基本能力)を超えることはできませんよね。

    現実でもAIという良い武器を持っただけでは、自分の基本スペックが上がっているわけではないことを忘れてはいけません。

    基本スペックを上げる「営業力」の公式

    ではどうすれば、基本スペックを上げた上でAIという強い武器を使いこなせるようになるのか。そのために必要なのは「営業力」で、これは【営業スキル×(テーマリテラシー+サービスリテラシー)】の公式で成り立つものです。

    営業力=営業スキル×(テーマリテラシー+サービスリテラシー)

    まず始めの営業スキルは、思考スキルと対人スキル、専門スキルに分解されます。

    思考スキルは論点思考、仮説思考、論理的思考などと呼ばれる普遍的なビジネススキル。対人スキルは、傾聴力や質問力、交渉力のことを指します。そして専門スキルとは、業界特有のもの、例えば金融営業であれば「IRを読める力」などが挙げられます。

    次にテーマリテラシーとは、相手の業界とビジネスを理解しているかどうかです。

    例えば、人材業界の営業パーソンが製造業の企業と商談する際に、「ドライバーの長時間労働が禁止されるようになって起こる2024年問題」といった業界知識や「工場で新しい機械を導入したから夜勤が必要なくなりそうだ」といった相手のビジネス状況を理解する必要がありますよね。

    そして3つ目のサービスリテラシーは、お客様の課題を解決するために自社のサービスで何ができるのか、ライバルとの違いは何か、実際に使用したお客様がどうなったかなど、自社製品について語れる知識のことを指します。

    相手のビジネスを理解して(テーマリテラシー)、自社製品で解決できること(サービスリテラシー)を提案し商談を進めていく(営業スキル)。これらを底上げすることで総合的な「営業力」が上がっていくというわけです。

    シンAI時代の若手営業職に贈る“圧倒的差”がつくキャリア戦略
    (画像:Sean Pollock/Unsplash)

    いくらAIを使っても交渉力や傾聴力が上がるわけではないので、「営業スキル」に関しては、自分自身の努力が避けては通れません。しかし相手の業界やビジネスを理解する「テーマリテラシー」に関しては、AIを活用して効率的に習得することが可能です。

    例えば「業界の直近3年のホットトピックスを調べて要約して」「株式会社〇〇のWeb記事を5つのポイントにまとめて」とAIに指示を出せば、ものの数秒でキーワードを吸い上げることができるでしょう。

    AIが調べた要点を読むだけでも、テーマリテラシーはぐんと上がるはずです。自力でゼロから調べてまとめるよりもよっぽど効率的ですよね。

    このように効率化できるものはAIを活用しながら、自力で努力すべきところにより時間を割いていく。来たる営業AI時代には、そういったキャリアの積み上げ方が有効になってくるはずです。

    AIは「若手営業の最強の武器」になり得る

    これまでお話ししたとおり、生成AIは個人レベルでも十分に使える素晴らしいツールになってきました。僕自身も始めの頃は、その進化に絶望したほどです(笑)。なぜなら今まで僕たちが命をかけて作り上げてきた営業ノウハウを、AIが一瞬にして飛び越えてきたからです。

    けれどそれを「結局AIに取って代わればいいのでは」と絶望で終わりにするのは、あまりにももったいない。このAI活用の流れは、営業界が進化、進歩するチャンスだからです。

    結局どれだけAIが進化しても、営業の世界では正しくコミュニケーションが取れなければ伝わりません。むしろ営業にAIをうまく活用することで、これまでトップセールスだけが持っていた職人技を民主化することができますし、誰でも先人たちの英知を手繰り寄せるチャンスも生まれます。

    僕は昔から「Sales is COOL」な世界観を作りたいと野望を抱いているのですが、AIの台頭はまさに「営業はクリエイティブでかっこいいもの」と証明される良い機会だと感じています。

    シンAI時代の若手営業職に贈る“圧倒的差”がつくキャリア戦略
    (画像:Hunters Race/Unsplash)

    そしてAIを活用する未来に向けて、若手ビジネスパーソンには今から「意思決定するための感性」を磨いてほしいと思います。

    AIはすぐに答えを出してくれますが、その情報は本当に正しいのか、最適なものなのか。自分なりの審美性や良しあしを見抜く力、倫理観がないと適切な意思決定はできません。そのためにも、日常に転がる当たり前を疑い続けて、自分なりの感性や意思決定の力を磨くことを意識してほしいですね。

    またこれから起こるAIのムーブメントに消極的な人もいるかもしれませんが、Google検索が広まった当時も、うまく検索ができる人とできない人で差が生まれていました。他にも、今注目されている優れたSaaSは、使いこなせる企業から伸びているのは明らかです。

    そう考えると「新しいムーブメントにうまく乗って、活用できるビジネスパーソンになるしかない」と思いませんか?

    ですから若手の営業パーソンこそ、今すぐにAIを味方に付けない手はありません。早い段階でAI×営業力を上げて成果を出す経験が、これからのキャリアにおける武器となるはずです。まずは試しにスモールステップでも構わないので、始めの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

    今井さんの新著:The Intelligent Sales AIを活用した最速・最良でクリエイティブな営業プロセス

    (文:於ありさ、デザイン:高木菜々子、編集:井上倫子)