「同年代に比べて、自分は成長できていないような気がする…」そんな焦りや不安を抱え、転職へと踏み出す若手ビジネスパーソンは多いはず。その不安の正体は一体何なのでしょうか?
そこで本記事では、30年以上あらゆる企業と働く人を研究し続けてきた、リクルートの藤井薫HR統括編集長にインタビュー。ビジネスパーソンが“爆速で成長”するための環境の選び方や、成長実感が持てるキャリアのマインドセットを教えてもらいました。
「同年代に比べて、自分は成長できていないような気がする…」そんな焦りや不安を抱え、転職へと踏み出す若手ビジネスパーソンは多いはず。その不安の正体は一体何なのでしょうか?
そこで本記事では、30年以上あらゆる企業と働く人を研究し続けてきた、リクルートの藤井薫HR統括編集長にインタビュー。ビジネスパーソンが“爆速で成長”するための環境の選び方や、成長実感が持てるキャリアのマインドセットを教えてもらいました。
──まず始めに、近年の若手ビジネスパーソンの転職やキャリアの傾向について教えてください。
藤井:『リクルートエージェント』における転職者数推移を見ると、コロナ禍の影響で一時的な落ち込みはあったものの、転職者数は全世代で右肩上がりに増えています。中でもZ世代(26歳以下)の増加が顕著で、2020年度以降は全体との差が広がっていることが、下記のグラフからもわかります。
今の若い世代の間では、1つの会社でずっと働き続けるのではなく、ライフステージに合わせて働き方を変えながら、生きがいや自身の成長を求めていこうとする意識が強くなっていると感じています。
この傾向を、私は「終身雇用」ならぬ「終身自在」と呼んでいて、生涯「自分らしく在る」ことを求めているのだと思います。
2022年に行った転職活動者を対象とした調査で、「あなたが思う理想のキャリア」についても質問をしていて、Z世代は「新しいことにチャレンジできる環境で働く」という項目を選択した人の割合が顕著に高いことがわかりました。そして「プライベートも重視できる環境で働く」と回答した人も、ほかの世代に比べて多いですね。
プライベートも充実させたいけれど、同時に新しいチャレンジをしたい。プライベートがほとんどないようなブラックすぎる職場でも、ゆるくて成長が感じられないホワイトすぎる職場でもない、「それぞれが百人百色の人生を歩めるレインボーカラーのキャリア」を求める傾向が、Z世代の転職の特徴と言えそうです。
──皆がチャレンジを求める中で、同世代と自分を比較して「成長できていないような気がする」と焦り、悩む人も少なくありません。
藤井:現代には「これをやっていれば安心」という確実なものがありません。VUCAの時代が訪れ、リーマンショックや新型コロナウイルスの流行など、社会を揺るがす出来事が次々に起こり、将来を予測することが難しくなっています。それは若い人たちが不安や焦りを感じる理由の一つになっているのではないでしょうか。
例えば高度経済成長期の企業は、冷蔵庫や自動車を作っていれば確実に利益を得ることができました。しかし今では「すべての産業がサービス化する」という現象が起こっています。
例えば自動車メーカーは、ただ車を作るだけではなく、さまざまな移動手段を一つのサービスとして提供することが求められるようになっています。いわゆるMobility as a Service (MaaS)と呼ばれるものですね。
さらに衣料品メーカーは、洋服を作るだけではなく「生活を豊かにするためのライフウエア」を提案し、家具店は家具を販売することにとどまらず「ライフスタイルを提供する」必要があるのです。
このように産業がサービス化すると、人気のある製品やサービスを皆がまねするので、似たり寄ったりの商品が増えて、短期間で飽きられるようになります。こうしたサービス経済のもとでは、事業やサービス、アイデアの価値が短命化するんです。
──世の中の不確実性やサービスの短命化傾向の高まりが、ビジネスパーソンの焦りや不安につながっていると。
藤井:そうですね。キャリアについても「不確実で変化の激しい世の中に、自分を合わせていかないといけない」という感覚を持つ人は増えているのではないでしょうか。
スマートフォンのソフトウエアをアップデートするように、自分をバージョンアップし続けないと、取り残されて市場価値が下がるような気がしてしまうのです。
──実際に「アップデートの意識」に駆られる人は少なくないと思います。その中で成長実感を得るためには、どんなマインドや行動が求められますか。
藤井:成長はもちろん素晴らしいことですが、他者との比較の中で自分を大きく見せようとするのは、例えるならば魚が「鳥になりたい」と無理やり飛ぼうとするようなもの。いずれ疲弊して、苦しくなってしまうと思いますよ。
そうならないためにも、まずは「自分の持ち味」を理解することが重要です。
私たちが5,000人の社会人を対象に毎年行っている「働く喜び調査」では、働くことに喜びを感じている人は、「Clear」「Choice」「Communication」の3つの要素を兼ね備えていることがわかりました。
これは自分の持ち味を自覚(Clear)して、それを生かせる仕事や職場を選択(Choice)し、上司や同僚との相互期待(Communication)があることが、自分の持ち味を生かして働く喜びを実感できるというものです。
例えば大谷翔平選手は、投手と打者、両方の役割を高いレベルでこなす「二刀流」を持ち味にして(Clear)、エンゼルス、ドジャースに移り(Choice)、優勝を目指して同僚たちと期待し合っている(Communication)状態ですよね。
ただ、自分の持ち味を自覚するのは難しいことで、初めから「Clear」を達成できている人はめったにいません。仕事の中でさまざまな選択を積み重ね、褒められたり、時には失敗したりしながら、少しずつ自分の得意なことがわかってくるものです。
では具体的にどうすれば、持ち味を自覚できるようになるのか。
そのためには、自分の得意なことを客観視する(See)、理解する(See)、行動する(Can)、行動することで変わっていく(Change)という4つのステップが必要です。
まずは、自分の市場価値やできることを可視化すること。自分のポジションや価値がわかると、次にやるべきことに気づく。それが実際にできるようになると、自分自身のキャリアも変わっていく。変わると、さらに新しい可能性が見えてくる…つまり、「見える」と「わかる」。「わかる」と「できる」。「できる」と「変わる」といったサイクルが生まれます。
他者の反応を写し鏡にして、そのリフレクションの中で自分を客観的にとらえることが、ビジネスパーソンとしての成長につながるのです。
──自分の持ち味を模索しながら、日々の仕事ではどのような意識を持って取り組めばいいでしょうか。
藤井:日々の仕事で新しい挑戦をすること、スモールステップでトライアル&エラーを繰り返すことを意識してみてください。私はこれを「はじめてのおつかい作戦」と「黒ひげ危機一発作戦」と呼んでいます(笑)
小さな子どもが初めて一人でおつかいに挑戦する人気TV番組「はじめてのおつかい」では、大人は基本的に手助けをしませんが、危険なときにはすぐに手を差し伸べられるよう見守っていますよね。
このように仕事の上でも、見守ってくれる人やメンターに付いてもらって新たな挑戦をすれば、いざというときに助けてもらえる安心感の中で低リスクでチャレンジできるはずです。
「黒ひげ危機一発」作戦は、おもちゃの剣を1本1本刺していくように、キャリアにおいても「小さく試す」ことが大切ということです。「ここを押したら黒ひげが飛び出すかな」「今度はこっちを試してみよう」などと、スモールステップでトライアル&エラーを繰り返す手法は、新規事業やプロジェクトを立ち上げる際にも有効です。
例えば本業のかたわら、興味のある分野で副業を始める。日常の業務でChatGPTを活用してみる。そんなふうに、小さなチャレンジをたくさん積み重ねることです。
転職を視野にいれるのであれば、そういったチャレンジを応援してくれる環境を選ぶのも、ビジネスパーソンとしての成長には欠かせないと思います。
──メンターとなる人を見つけつつ、小さくてもいいからチャレンジできる環境が重要なのですね。
藤井:その経験は次の転職時にも役立つはずです。かつて日本のマーケットでは、転職によって賃金が下がるのが一般的でした。しかし近年は、積極的にチャレンジする人に対し、報酬で応えようとする企業が増えつつあります。
自分の持ち味を理解した上で、新たなチャレンジを応援してくれる環境を選び、失敗を恐れず小さな挑戦を積み重ねる。それこそが、仕事を通じて成長するための近道になるはずです。
(文:高橋三保子、デザイン:高木菜々子、編集:井上倫子)