人生は思い通りにならない ネガティブな観点で進路を狭めていく

人生は思い通りにならない ネガティブな観点で進路を狭めていく

    社会の第一線で活躍する人たちが、もしもう一度、キャリアのスタートラインに立ったなら? 就活生や働き出して間もない人たちへのメッセージを紹介します。第5回は、経済アナリストで金融教育ベンチャーのマネネを経営する森永康平さんです。

    目次

    森永 康平(もりなが・こうへい)

    株式会社マネネ CEO/経済アナリスト。証券会社や運用会社にてアナリストなどリサーチ業務を担当。その後はインドネシア、台湾などアジア各国にて事業責任者やCEOを歴任。2018年6月に金融教育ベンチャーのマネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。


    父の助言で大学院ではなく就活へ

    今回は、トピックスのオーナーとの間でリレー投稿として「私がもう一度、キャリアを踏み出すスタートラインに立ったなら」というお題をもらい、書き進めたいと思います。前回は古田清悟さんが【もし私が今就活するなら】という記事を書いてくださいました。

    読んでいただいた方に少しでもヒントを与えられるよう、私も自身の就活を振り返りながら、こういう考え方もあるんじゃないの?という問いを投げかけていきたいと思います。

    いまから十数年前の就活時代を振り返ってみます。当時、私は大学院に進学したかったので、周りの同級生が就活をしている時は院試の準備に時間をかけていました。

    ある日、普段は家にいない父親と会う機会があり、「お前、就活はどうなってるんだ?」と聞かれたので、「院に行きたいから就活はしてない」と答えました。すると、「最低でも3年間は民間で働きなさい。それでも院に行きたいなら、そのタイミングで会社を辞めて院に行きなさい」と言われました。

    言われたことはそれだけですが、おそらく「社会の仕組みや仕事の現場を知らないままに学問だけ極めても、机上の空論を振りかざす学者になってしまうぞ」と言いたかったのでしょう。あまり親の言うことをきかない子どもでしたが、なんだか、その時だけはやけに腹に落ちて、就活をすることに決めました。

    もう一度、キャリアの出発点に立ったなら #5 経済アナリスト 森永康平
    hachiware / iStock

    しかし、いざ就活するといっても、何をしていいか分かりません。ゼミの同期が教室で合同説明会やエントリーシート、SPIなど、訳の分からない言葉を発していた記憶があるぐらいです。企業研究や業界研究なんてしていないし、OB訪問などもしていません。

    困ったなぁ、と思っていたところ、ろくに学校も行かずに株式投資をやっていた私は、自分が使っている証券会社を受ければいいことに気づきました。何年もユーザーとして同社のサービスを使い倒しているわけですから、企業研究はそのへんの就活生よりもできているだろうと思ったのです。そこで、さっそくエントリーしようとしたところ、なんともう申込期間は終わっていました。

    絶望していたところ、その証券会社の親会社ならまだ受け付けていることが分かったので、急いでエントリーシートを提出して、無事に内定をいただいたのでした。めでたし、めでたし。

    10年間でほぼ全ての働き方を経験


    その後、無事に入社を果たし、1年目は運用会社でアナリストを経験し、同時にエコノミスト業務もやらせてもらいました。いまの職業に直結しているわけですから、私のキャリアには一貫性がありそうなものです。しかし実態は真逆です。入社1年目から現在に至るまで、社会人キャリアはメチャクチャです。10年間の社会人経験の中で異動や出向、転職を繰り返し、上場企業、ベンチャー企業、外資系企業、外国企業、海外駐在と、考えられるおおよそ全てのパターンを経験したと思います。

    もう一度、キャリアの出発点に立ったなら #5 経済アナリスト 森永康平
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    そして社会人11年目の時に、残された未経験分野である起業をしたのです。そして、独立して5年が過ぎようとしています。毎年のように選択と決断を繰り返していますが、一切の計画性がなく、サイコロを振りながら出た目の通りに生きているからこそ、このように一貫して行き当たりばったりになってしまっているのでしょう。

    この間に結婚もして、子どもも3人生まれているのですが、その事実があっても「行き当たりばったりな人生はやめて、もっと計画的に人生を歩もう」とは思えませんでした。最低な夫だし、最低な父親だと思いますが、仕方ないですかね。たぶん、死ぬまでこの性格は変わらないんじゃないかな。

    ネガティブな進路設定のススメ

    さて、行き当たりばったりの人生を送ってきた私が就活のタイミングに戻ったとしたら、どのように就活を乗り切るでしょうか。これまでの反省を生かして、「しっかりと準備をして計画的に就活を乗り切る!」と言いたいところですが、おそらく、当時以上に無計画に動くような気がします。なぜなら、十数年の社会人経験を積んで、人生は思い通りにはならないという確信が、より強まってしまったからです。

    とはいえ、何も考えないというわけではありません。この企業に就職したいとか、この職に就いて将来こうなりたい、といった計画は一切立てないとは思うのですが、一方で「これだけはいやだ」というネガティブな観点から進路を狭めていくだろうなと思います。

    学生時代、教室の隅で就活を頑張っている周りの学生を見ていて、「みんな疲れないのかな?」と感じることが多々ありました。「オレは商社に行くんだ!」とか「大手で3年ぐらい経験を積んで、起業するんだ!」と学生のうちからみんな大志を抱いているのです。でも、十数年の時がたち、彼らがいま何をやっているのかは分かりませんが、当時の計画通りにキャリアを歩んだ人はいないんじゃないかなと思います。

    もう一度、キャリアの出発点に立ったなら #5 経済アナリスト 森永康平
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    逆に意識低い系の私が無計画に生きていても、とりあえずいろいろと経験を積むことができて、独立して何年も家族を養えていることを考えれば、肩肘張らずにマイペースに就活に臨んでもいいんじゃない?と思うのです。ただ、これだけはやりたくない、こうはなりたくない、と自分的に無理な選択肢だけは避けておけば、どんな着地になったとしても、頑張っていけるのかな、なんて思っているのであります。

    なぜ無計画に動いていても、それなりの人生を送れているのか。それはたぶん、変に将来に目を向けるのではなく、とりあえず目の前にある仕事に対して真摯に向き合い、全力投球しているからなんじゃないかと思っています。将来どうなるかは分からないけれど、世の中には意外と見てくれている人もいます。良い仕事をすれば、その仕事の結果が新たな仕事を持ってきてくれますし、いま対面している人に対して不義理を働かず、裏表なく誠実に付き合っていれば、新たな良縁を持ってきてくれると感じております。

    さて、長くなってしまいましたが、私が次にバトンを渡すのは、NewsPicks  CPO/CTOの文字拓郎さんです。ぜひそちらもお楽しみに!

    (文:森永康平、編集:JobPicks編集部)

    このシリーズは、「NewsPicksトピックス」とのコラボ企画です。「経済アナリストはどのように就活を乗り切るのか?」(2023年3月3日配信)を編集しました。

    森永康平さんはNewsPicksトピックスで「森永康平のリアル経済学」を連載しています。ぜひチェックしてみてください。