転職先として、すでに成熟し安定した業界は安心だけれど、これから伸びていく企業で事業成長に携わるのも魅力的。とはいえ将来性がある業界や仕事は、どう見極めればいいのでしょうか?
そこで30年以上あらゆる企業と働く人を見つめ続けてきたリクナビNEXTの藤井薫編集長が、「これから伸びる業界・仕事」の見極め方を解説。藤井さん自身が今25歳の若手ビジネスパーソンだったら、どんな企業に転職したいのかも併せて聞きました。
転職先として、すでに成熟し安定した業界は安心だけれど、これから伸びていく企業で事業成長に携わるのも魅力的。とはいえ将来性がある業界や仕事は、どう見極めればいいのでしょうか?
そこで30年以上あらゆる企業と働く人を見つめ続けてきたリクナビNEXTの藤井薫編集長が、「これから伸びる業界・仕事」の見極め方を解説。藤井さん自身が今25歳の若手ビジネスパーソンだったら、どんな企業に転職したいのかも併せて聞きました。
──そもそも「これから伸びていく黎明期の業界や企業」で働くことには、20代のビジネスパーソンにとって、どんな面白さやメリットがあるのでしょうか。
藤井:最大のメリットは、年齢や経験値に関係なく、重要な仕事を任せてもらえることだと思います。
旧態依然とした組織では、20代の社員に責任ある業務を任せないこともあるでしょう。野球に例えるなら、補欠としてバットを磨くような役割しか与えないことも多いです。
しかしこれから成長していく企業では、入社したばかりの若手にも打席が回ってきます。それどころか、いきなり先発ピッチャー、4番バッターになれることさえある。実力次第で、大きな挑戦ができる可能性があるのです。
ビジネスパーソンとして成長するためには、小さな挑戦と失敗を繰り返しながら学んでいくというサイクルが欠かせません。毎日試合に出続けられる会社であれば、それだけ自身にとっての成長チャンスがあるわけです。
逆に言えば、年齢や性別などの属性によって仕事の機会が奪われる環境にいると、成長は鈍化してしまうでしょう。
若手が挑戦できる環境を用意することは、企業業績の側から見てもメリットがあります。
例えば、米マイクロソフトのサティア・ナデラ氏がCEOに就任したとき、マイクロソフトの業績は、競合であるビッグテック企業群に比べ伸び悩んでいました。
そこでナデラ氏は、挑戦と失敗を通じた学びを重視する「グロースマインドセット」という考え方を導入しました。「Know-it-all(何でも知っている)」ことよりも「Learn-it-all(何でも学ぶ)」ことに重きを置いて、人事評価システムを刷新したのです。
結果的に、この企業文化の変革は、クラウドコンピューティングサービス『Azure』をはじめとするイノベーションにつながり、マイクロソフトの市場価値は再び向上しています。成長していく企業は、従業員が挑戦を通じて学ぶ環境を整えることの重要性を知っているのです。
──2024年以降、開花する業界や仕事の特徴はありますか?見極め方を教えてください。
藤井:現代は、未来が不確実で見通しにくいVUCAの時代と言われています。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉。そのような時代には、市場がめまぐるしく変動し、価値基準もシフトしていきます。
高度経済成長期、日本では「ものづくり」が産業の中心でした。企業がマスに向けて同じ製品を大量生産していた時代です。その結果、現代の日本では、テレビも冷蔵庫も既に普及していて、少子高齢化が進んだこともあり「もの」の消費は頭打ちです。
その代わり、「今日は仕事が忙しかったから、レンジで温めてすぐに食べられるおかずを買いたい」「タクシーを止めて、行き先を説明して、お金を払って領収書をもらうのが面倒だから、全部アプリでできるようにしてほしい」など、暮らしを効率化するサービスや、個々のニーズに応える体験、精神的な価値が求められるようになりました。
マスに向けた「ものづくり」から、1to1の「ことづくり」、あるいは「意味づくり」へのシフトが起こっているのです。
そのため百人百通り、個人にカスタマイズしたサービスを提供するGAFAのように、「もの」ではなく「こと」や「意味」を提供する企業が、2024年以降は伸びていくと考えられます。
さらに「デジタル」も重要な視点です。20代の方はピンとこないかもしれませんが、1980年代以前の日本では、銀行に預けたお金を引き出すのに、通帳とキャッシュカードと印鑑が必要でした。現代ではデジタル化が進み、スマホで支払いやお金のやりとりができるサービスが次々に登場していますよね。
とあるホームセンター大手のように、斬新なデジタル戦略を打ち出して売り上げを伸ばす企業も現れています。このように、アナログだった体験をデジタルに転換していくビジネスや企業は成長が見込めるでしょう。
「グローバル」という観点も、今後の鍵になります。例えば日本の家庭には冷蔵庫が行き渡っていますが、インドの農村ではどうでしょう。日本では大衆車が、途上国の人にとっては高級車かもしれません。
ものづくりの会社でも、海外市場を開拓していこうと考えている企業なら、業績が伸びる余地があると思います。
「ことづくり」「デジタル」「グローバル」を推進する企業は、あらゆる産業に存在しています。特定の業界というより、これらのポイントに注目すると、2024年以降に成長する企業を見分けられるのではないでしょうか。
──3つのキーワードを踏まえた上で、もし今藤井さんが25歳の若手ビジネスパーソンで、転職を考えるとしたら、どんな業界や仕事に挑戦しますか。
藤井:「人」「もの」「お金」「情報」は、企業の4大経営資源と言われますが、中でも「人」と「情報」に大きな可能性を感じますね。
人と情報の交差点に立って、社会のあり方を変えられるような会社があれば、転職してみたいと思うでしょうね。例えば、NewsPicksもそうですし、今と変わらずリクルートを選ぶかもしれません。
──どちらも人と情報を扱う会社だと。
藤井:NewsPicksとリクルートの共通点は、両方ともメディアを持っているということです。
例えばリクルートは、男女雇用機会均等法が施行される以前の1980年に、女性の就職・転職情報を扱う『とらばーゆ』を創刊し、女性のキャリア形成をサポートしてきました。
建築業や運輸業など、ブルーカラーの職種に特化した求人情報を掲載していた情報誌『ガテン』(2009年休刊)は、「ガテン系」という言葉の語源にもなり、業界全体のイメージアップに貢献しています。
メディアは、顧客との接点です。コンテンツを通じて人に影響を与え、社会を動かしていく仕事は、個人的には非常にやりがいがあると思います。
──これまでのお話を聞いて、これから開花する不確実性の高い業界や仕事に飛び込むのは不安もありますが、同時にキャリアのチャンスにもなるのかなと感じました。
藤井:そうだと思いますよ。この「チャンス」を日本語に翻訳すると「機会」ですが、ぜひこの言葉の意味を考えてみてください。
「機」は「機み」と綴って「はずみ」と読むのですが、この文字には、ボールがはずむようにどちらに転んでいくかわからない、予想もしなかったことが急に起こるという意味があります。想定外の事態が起こる「機」に、人との出会いや縁を意味する「会う」が合わさって「機会」という言葉になるのです。
つまり「機会」を得るには、確実なことが何もない世の中で縁と出会うことが重要で、私は「想定外のことがあっても、学びのチャンスが訪れたと気持ちを切り替える」ことが大切なのだと思っています。
若いときこそ、あえて成功する確率が高そうな道を選ばない。「成功するかどうかわからないけれど、機会をつかみたい」と感じる方へ進んでみると、きっと大きな学びがあり、自分を成長させることにつながるはずです。
(文:高橋三保子、デザイン:高木菜々子、編集:井上倫子)