野上:本日はゲストに『仕事を減らす』の著者で創造性組織工学のジェネラルマネージャー、田中猪夫さんをお迎えしています。
本の冒頭から、「私は1日の仕事が1時間で終わってしまう」という衝撃的な言葉から始まる1冊です。もし、あなたの今日の仕事がたった1時間で終わったら……最高ですよね?(笑)私たちにも活用できる仕事を減らす方法や考え方をお聞きしたいと思います。
タイトルから直球ではありますが、まずはこの本で伝えたかったことをお伺いしたいです。
田中:これはもうひとつしかありません。「最も成果を上げることだけを徹底的に考えていくと、最も効率がいい」ということです。
野上:効果の上がるやり方、アウトプットのほうを先に考えるということですね。
田中:そうです。そのためのステップとして、書籍の中では「引いて考える」という言葉を使っています。まずは物事の“使命”を考える。やり方にとらわれず、本質に対して適切な仕事ができる、これが最短距離なんです。
そういう考え方で仕事をやる人が少ないんですよね。「昔からこうやってきたからやっている」とか、「人に言われたからこうやってる」とか。
野上:どうしても前例や慣習にならってしまいますよね。
田中:私がそう思ったきっかけは、今のグローバルリスクマネジメントに58歳で転職した時に、異常事態を経験したことでした。営業職として入ったのですが、新規クライアントの獲得のために、とにかく電話で営業をしていたんですね。日本法人の社長も、本社も「新規の獲得は電話でするんだ」と言っていました。
野上:飛び込みの電話営業ですね?
田中:そうです。代表電話にかけて「はじめまして」と言ったところで、人事のリスク管理の担当者につががりますか?と。当然ですが、なかなかつながらないんですよね。成果が乏しいのに、それを延々繰り返している。おそらく1000件やって何件とかそんなペースです。
さらに悪いことは、相手に嫌がられる。提供しているサービスは海外赴任者へのリスクマネジメントなので、内容ともあまりにもギャップがあるんです。
でも、会社から「やれ」と言われてるので、全員朝から晩まで電話をして忙しそうだったんです。成果が出ないので、昼ご飯を食べに行くと、会社の文句ばかり話している。それでも彼らは「電話をかけること」が仕事だと思っているので、やり続けていたんです。
そもそもなんですが、営業って何のためにやっていると思いますか?野上さん。
野上:やっぱり売上を上げるためじゃないですか?
田中:みんなそう言うんです、だいたいの人は。
ところがですね、買ったお客さんは「使うために買っている」んですよね。Netflixを契約した人はNetflixの番組を見るために契約をしています。面白くなければ契約を解除しますよね。
そういう時代なのにも関わらず、相変わらず「売り上げを上げるんだ」って頭で思って営業しているんですよ。だから私は「お客さんにいかに使ってもらうか」を徹底的に考えた営業をすることにしました。
具体的に言うと、お客さんに対してZoomやTeamsを使ってのサービスの詳しい使い方についての説明会をしていました。サービスに満足いただけたら、クロスセルもアップセルも自然にしてくれる。会議もすんなり通る。無理な売り込みをせずに“ちゃんと使ってもらうこと”だけに専念した結果です。
この方法だと、1回につき40社~50社を対象にした説明会で、1週間に多くて1回か2回の説明会をすればいい。毎日の業務はお客さんから届く質問にいくつか答えるだけなので、仕事に1時間以上かからなくなったんです。
野上:使命にフォーカスしたら適切なやり方が見えてくる、と。四六時中見込みのないお客さんに営業をかけているのと比較して、田中さんのアプローチであれば1時間で終わらせられる、ということなんですね。
田中:そう考えています。物事の本質を考えれば、最短距離の一番いい方法が見つかるはずなんです。
私の場合は1時間でしたが、そこまで極端でなくても、例えば今まで8時間かかってたのが、7時間になったり6時間になったり。それだけで悩みも減りますよね。
野上:本の中では「仕事を減らす」ための思考法として、「引いて考える」に加え「組み合わせる」「試す」も提案されているんですけれども、それぞれどういう考え方かをご紹介いただけますでしょうか?
田中:最初に理解いただきたいのが「ファーム・スペシフィック・スキル」「ポータブルスキル」という2つの考え方です。前者は、会社で決められた規則や方法など、社内で仕事を進める上で必要なスキルのこと。後者は、どこにでも持ち運びできる――つまり転職しても、業種や業態を変えても使えるスキルのことです。
仕事を減らすための思考法は、ポータブルスキルなんですよね。どの会社でも、どの仕事でも、何にでも役に立つんです。
野上:なるほど。では「引いて考える」は具体的にはどういう考え方なんでしょうか?
(続く)
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このあとは、こんな話をしています。
(文:鍬崎拓海 デザイン:高木菜々子 編集:山崎春奈)