就職活動でぶちあたる壁といえばエントリーシート、通称ES。自己PRや学生時代に取り組んだこと、志望動機などを書き込むものです。私は、今でこそこうして就職活動のコラムを書いたり、学生向けのキャリア支援講座を開いたりしていますが、学生時代はとにかく書けなくて苦しみました。
書かなきゃなぁと思いながら、なんとなく「まずは企業研究かな」とネットでリサーチを始めたかと思うと、あれ、なんかTwitter見ちゃってた、なんてこともよくありました。よーし、書くぞ!と気合を入れてパソコンに向き合うも、さて何から書こうかと考えると頭は真っ白に。
ESを目の前に置けばすらすらと書きたいことが頭に浮かんで書けるのではないかと思うのですが、そんなうまくいくはずもなく、「とりあえずまた調べるか」と再びネットの海へ……。似たような経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。
なぜすらすら書けないのでしょうか? その理由を考えたり、就職に悩む学生さんたちと話したりしていくうちにわかってきたことがあります。「自分のことは自分が一番よく知っている。だから深掘りすべきは自分自身のことよりも企業のこと」。そう考えている方がとても多いのです。そのことに気づいてハッとしました。
今思えば、私自身も就職活動の頃にはそう思っていた気がします。自分が自分のことを知らないはずがない。そう思いたくもなるのですが、一度立ち止まって考えてみませんか?
自分のこれまでの人生、これまでに取り組んできたこと、周りから言われてきた特徴など、たくさんの情報が頭に浮かぶと思います。でも、それってあなたの中で整理できているでしょうか?
自己アピールとなるような特徴は、大学に入ってたったの2〜3年で醸成できたものではないはずです。生まれてから今までの経験の積み重ねで、一人一人の特徴は形作られています。にもかかわらず、約20年という膨大な時間を費やしてきた「自分」というものを、たった数百文字で伝えなければならないのがESなのです。
ちょっと想像してみてください。2時間のインタビューを2000文字にまとめるとします。2時間でたくさん話す人のインタビュー音源を書き起こすと2万文字に迫ることもあります。それを10分の1におさめるだけでも相当な「まとめ力」が必要とされることがわかるでしょうか。
このまとめるという力こそ、雑誌や新聞、WEBメディアなどでも言われる「編集」というスキルだと思っています。
では自己PRに話を戻しましょう。20年分の密着取材を、一つの記事にまとめる。それがいわば自己PRの作り方です。そう、自分自身という取材対象をどう見せるか、編集する過程がとても大事なのです。
何も考えずにいきなり書き始めるのが難しいのは、当たり前なのです。焦る必要はありません。
逆に、いきなり書き始められる人の書くものは、どこかで見た、誰かのESをなぞったようなものも多いです(もちろん、まれにすらすらと書ける人もいますが)。せっかくの自己PRの場なのですから、誰かの模倣ではもったいない。
まずは伝えたい「かもしれない」情報を一通り並べてみて、その中から選び抜く。それをどういう流れで見せるかを考える。そのプロセスを経てこそ、誰のマネでもないESが完成するのだと思います。
そうは言っても、何から手をつけたらいいかわからないという方。せっかくだから、義務感とか劣等感を抱く作業ではなく、やっていて楽しくなるようなことから始めませんか?
私がおすすめしたいのは「偏愛マップ」づくり。まずはA4用紙を用意します。ノートの1ページでもよいです。真ん中に自分の名前を書く。そこから自分が好きなこと、得意なこと、深く興味のあることを、ランダムにたくさん書いていきます。
関係のあるものは線でつないだり、近くにまとめていったりすると良いです。作り方がわからなければ「偏愛マップ」と画像検索すればいろんなパターンが出てくるので参考に。
これは、自分だけが見るものだから、自慢っぽくなっても全然OK。うぬぼれかな?と思うこともどんどん書きましょう。抽象的でも具体的でもなんでもよいです。
行き詰まったら、書きやすいところをどんどん増やして、ちょっと飽きてきたら隣に書いてあるジャンルのことをさらに書き足して。書いていて楽しいことばかりを増やしていくのが、この作業の正解です。ページが足りなかったら、さらに枚数を増やして書いちゃいましょう。
これを書いていくと、不思議と密度の濃淡が浮かび上がってきます。密度が濃いところ、つまり悩まずにたくさん書けたところは、きっとあなたの熱量がこもっているところ。この中から、自己PRにつながるものを探して、違う色のペンで丸く囲んでみると良いと思います。場合によっては自己PRだけでなく、企業の志望動機が浮かび上がってくることもあります。
この偏愛マップから可視化された「あなたらしさ」は、他の誰のマネでもなく、あなただからこそ語れること。たとえそこに出てきたキーワードが一般的なものだったとしても、自身を持って「自分の強み」「自分の志望動機」と捉えればいいのです。それは、れっきとしたあなたにしか語れない言葉なのですから。
偏愛マップで広げた情報だけでは、まだ文章にはできません。大抵は単語だけの羅列になるので、それをどうやって構成していくのかを考えるのがベストです。
見えてきた要素に、優先順位をつけてみてください。「一番私らしいってどれだろう?」と考えると、全部が全部同列ということは、きっとないはず。その要素にひもづけて語れること、熱意を持って取り組んできたことをピックアップしながら、ESに書けそうなことを箇条書きにしてみてください。
箇条書きにした時点で「うーん、これはそうでもないかも」というものは、勇気を持って削ってしまいましょう。大丈夫、そこを削っても他にいいところ、書くべきことはたくさんあるから。箇条書きにしたESの下書きに肉付けをしていくと、だんだん文章の形に書ける気がしてきませんか?
ここまでの作業ができれば、きっと「ESを目の前に頭が真っ白」になっているところから、随分道筋が見えてきたのではないでしょうか。そこからさらに文章化してみても、箇条書きに戻ってやり直しても、偏愛マップに戻ってもOK。自由に行き来してみてください。そうして少しずつ磨き上げていったESは、きっと面接に進んでも、自信を持って話せる内容になっているはずです。
自分のことを知る、ということに重点を置いてお伝えしてきましたが、最後に大事なのはもちろん「相手に届けること」。自己満足で終えるのではなく、「この企業に入りたい」という熱意を伝える手段として、自分らしさを伝えることが大切です。
なぜその企業なのか、なぜそこで働きたいのか、その熱意が伝わる文章になっているか。一度完成したら、客観的に、大量のESを目の前にする企業の人事担当者になったつもりで読み返してみてください。
もしかすると、もっと熱量を込められるところや、表現を変えることでより自分らしく伝えられるところも見つかるかもしれません。そうしたら遠慮なく、修正していけば良いのです。
ESの提出期限までは、何度だってブラッシュアップできるもの。面接やグループ面接など「一発勝負」の場面ではないからこそ、時間をかけて丁寧に準備するのをおすすめします。
企業の採用コンサルに携わっていたとき、ESをたくさん見ましたが、せっかくたくさん文章を書いて熱意をアピールできるチャンスなのに、シンプルな1行だけで終えているものが何枚もありました。
わざわざ就職活動の時間を割いて応募するのだから、本当に働きたいと思う企業に申し込んでほしいと、私は思っています。消化試合だと思って応募しすぎてしまうと、企業にもそれは伝わってしまうし、受ける方だって数をこなすだけの気持ちになってしまいます。
ESは就職活動をする上で、最初に熱意を伝えられる、企業に向けたラブレターと同じ。だからこそ、自分のことを深く知ってほしいという気持ちで、楽しみながら取り組んでみてはいかがでしょうか?
(文: 山本梨央、デザイン:高木菜々子、編集:中村信義)