友人と2人でBARを訪れたのは、私立大学群MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学の5つの大学をまとめた呼称)の一つに通うカノンさん(仮名)。21歳の大学4年生で現在、就職活動中です。
就職活動が解禁された3月以降、大手企業を中心にエントリーシート(ES)を出しているようですが、落ち続けているようです。
“新卒相談BAR”、本日も開店です。
友人と2人でBARを訪れたのは、私立大学群MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学の5つの大学をまとめた呼称)の一つに通うカノンさん(仮名)。21歳の大学4年生で現在、就職活動中です。
就職活動が解禁された3月以降、大手企業を中心にエントリーシート(ES)を出しているようですが、落ち続けているようです。
“新卒相談BAR”、本日も開店です。
午後8時すぎ。金曜日の夜ともあって、店はいつもよりにぎわいを見せています。
テーブル席に友人と座り、不安そうな顔でマンゴーカクテルのグラスを傾けるカノンさんの姿がありました。
カノン「3月から就活を始めたんですが正直、何をやりたいか分からない状態で、消去法で企画的な仕事なら楽しそうかなぁーと思って、エントリーシート(ES)を出してみたのですが、まったく通らなくて…」
「周りの友達から『MARCHだったら偏差値も高いし、ESは必ず通る』って言われて、私も落とされることはないだろうと思っていました」
「OB・OG訪問もしていないし、インターンシップにも参加していない。就活に出遅れていて、本当にどうしたらよいか分からなくて…」
友人「大さん、お願いします」。隣に座る友人が手を挙げました。
BARでアドバイザーとして席に座るのは、年間300件以上の就職や転職の相談に乗っている店主の二宮大さんです。
大「カノンちゃんはESはどこに出したの?」
カノン「大手食品業界を中心に出しました。とにかく字数だけ埋めて出している状態です」
大「そんな状態なのね。なるほどね…」
カノン「食品業界はESで落ちてしまって、その後に大手金融業界にもひかれました。友達の先輩が大手金融業界から内定もらっていて、話を聞くと、選考前から社員が面接対策もサポートしてくれるらしくって…」
「いいなぁーと思ったけど、でも面接は苦手なんです。親が公務員だから公務員試験の対策に集中してもいいかなぁーと思ってます。公務員になって、お金を貯めて、海外留学へ行ってもいいかなぁーとも思い始めています」
「ESは作成に時間がかかるので、時間がもったいないとも感じています。3月に入ってやりたいことが変わりまくっていて、本当、訳が分からなくて…」
大「学生時代に1番力を入れたことは?」
カノン「アルバイトですね。いろいろやりました。ホテル、コールセンター、ファーストフード、歯科助手も」
大「バイトたくさんやっているね。一番、長かったのはどこ?」
カノン「コールセンターですね。でも自己PRでコールセンターは言いたくないです」
大「なんで?」
カノン「私、本当にあがり症で、コールセンターもあがり症を克服するためにやったんです。面接でも変わらず、あがるので。だから『あがってるのに、コールセンター?』『緊張、克服していないじゃん』って面接官に思われたくないし…」
大「そんな感じしないけど(笑) ホテルでは何やっていたの?」
カノン「いろいろ経験しました。カフェで接客もしましたし、ラウンジの受け付けとか、部屋の清掃もやりました。お客さんと関われたカフェが一番楽しかったです」
大「まず一通り話を聞いてみて、カノンちゃんの一番の強みは愛嬌だと思う。サービス業のアルバイト経験が長いから、こうして人と話をするコミュニケーション能力には長けているよね。第一印象もいい感じだし、保険の営業とかは向いてそう」
カノン「初めて言われました(笑)」
大「そもそもだけど、仕事に興味はある? 聞いている感じだとないよね」
カノン「ないですね。でも、お金は稼ぎたいです」
大「今までの話から、世の中の仕事のこと、0.1%も知らないと思う。今、消去法で企業を選んで受けている状態だから、自分の企業を選ぶ軸も含めて分かっていない状態でしょう」
カノン「確かに、分かっていないかも」
大「ESが通らないのは当然だよね。それは単純に情報が足りていないってこと。インプットする時間が必要。まずは自分の知らない業界を見つけたら、すぐに調べてみる癖をつけることが大事かな」
「調べてみてこんな仕事なんだ、こんな会社があるんだ、こんな働き方するんだ、これくらい稼げるんだって、興味を持つことが最初の一歩だと思うよ」
大「例えばだけど、スターバックスのカップをどこが作ってるんだろうとか、自分の使ってるカラーコンタクトの会社はどこだろうとか」
「この業界の競合ってどんな会社があるんだろうとか、ホームページを見るだけでも働き方や雰囲気が違うことが分かる。身近なものから仕事を調べてみることがいいかも」
カノン「なんか、頭がパンクしそうです」
大「そうだよね。まずは自分が情報収集しやすいツールを使って、調べたらいいと思うよ。YouTube動画なのか、文字を読む方がいいのか、テレビで見るのがいいのか。とにかく仕事に関して興味を持って調べる」
「調べた内容をノートに書いて、ちゃんと記録としても残しておく。それは消さないこと。スマホって簡単に消せるから。まずは、そこから始めてみるのがいいかも」
カノン「そうですね。やってみます」
大「最終面接まで残る学生って、『将来こうなりたい』『こういうの興味あるからここで働きたい』って思いが強い学生が多い。やりたいことが分かんない状態で面接を受けに来られたら、会社側も採用していいか分からないし」
「企業側って、ウチで通用するかな、頑張ってくれるかな、というのと同時に、採用した後にこの子を幸せにできるかなってところも必ず見ている」
「幸せにできないとその子も苦しんじゃうし、辞めちゃうし、お互いにとって不幸になるからね」
「その判断するところまで来てなければ、落とすしかない。これが今のカノンちゃんの状態かな」
「だから1カ月は就職活動しないで、どこも受けなくていいから情報を集めなさい。それぐらい、先に情報を入れることと、自分がどうしたいのかを整理するのが大事」
「まずは業界を知る、会社を知る、仕事を知るためにリサーチしまくって、ある程度、興味を持った業界やこんな面白い会社があるんだと知ったら、スタートラインに立てると思う」
カノン「やることがたくさんありますね。どんなやり方がありますか?」
大「就活生の新卒向けのページってあるから、そこ見たら会社は何をしてるかをちゃんと説明してある」
「会社の理念とかコンセプトもあるし、事業のサービスも紹介している。就活生向けに分かりやすく書いてあるから1社1社を見ていく。1日1社見るだけで、30日で30社も見られる」
「情報収集しながら、仮に私がここで働くとしたらこんな感じなのかな、楽しそう、つまらなそう、嫌だ、みたいな感情と事実をちゃんと照らし合わせるのもいい。量ではなく質を重視したらいいと思う」
カノン「時間がないからって焦って、質より量に走っちゃってたんですけど、やっぱりじっくり見た方がいいですね。ありがとうございました」
カノンさん、少しだけ表情が明るくなり、やる気を取り戻していました。
就活や仕事で悩む若者たちの本音が聞こえてくる「新卒相談BAR」。連載シリーズは金曜に公開予定。
◇
(取材・文:比嘉太一、撮影:是枝右恭、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)