就活は焦らなくていい。「適職」が見つかるタイミング

2023年4月5日(水)

50社中、内定1社。終わりにしたくて入社

まずは私の個人的な体験からお話しします。

私は慶應義塾大学総合政策学部を卒業しました。周りには、将来やっていきたいことが明確な(もしくはそのように見える)友人が比較的たくさんいました。それも、就活を目前にした時期ではなく、入学当初から将来のビジョンがはっきりしている人もたくさん。

しかし、私はといえば、研究テーマもギリギリまで定まらなかった。経営情報学を学びたいと1年生でゼミに入ったかと思えば、2年生では経営戦略のゼミへ。最終的には迷いに迷って、仏像美術の研究で卒論を書きました。いかに定っていないか、おわかりいただけるでしょうか(笑)。

こんな調子だから、就職先なんて業界すら絞り込めていませんでした。

メイクが好きだから、化粧品業界を受けてみようかな。でも高校時代から英語やドイツ語の勉強に力を入れてきたから、海外転勤がありそうな商社もいいな。あ、そういえば、IT系の会社でアルバイトやインターンもしたから、そっち系も.......。

就活では、そんな風に手当たり次第、たぶん50社くらい受けました。ところが、全然受からない。唯一内定をいただいた通信キャリアの会社に救われた気持ちで、就活に疲れていたので「もう終わりにしたい」と入社を決めたのです。

Photo:iStocl / byryo

社員15人の会社に転職。気づけば10年

2年近く働いている間に、自分が仕事をする上で大事にしたいこと、チャレンジしてみたいことなどが、ようやく整理できてきました。思い切って、クリエーター向けの求人サービス「CINRA JOB(シンラジョブ)の営業編集という仕事に就きました。

新卒の時は同期だけで300人いたのに、転職先は当時まだ全社員が15名程度。不安がまったくなかったとは言えないけれど、それでもわくわくして、仕事が楽しくて仕方なくなり、気づけば10年経っていました。

昨年、フリーランスになり、今は編集や営業、WEBサイト運営やオンラインギャラリー、映像、楽曲制作のディレクターなど、興味のおもむくままに、そして東京を拠点にしながら全国を飛び回って自由に働いています。

正直、就活をしていた学生時代には、思いもよらなかった働き方です。

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「やりたいことが決まっていない」

新卒から転職した結果、求人サービスに携わったり、大学や専門学校でキャリア支援講座やワークショップを開いたりする経験を積み重ねてきました。

その中で、たくさんの、本当にたくさんの学生さんたちがこう話すのを聞きました。

「将来やりたいことが決まっていない」

恥ずかしそうに、劣等感を抱いているように打ち明ける姿に立ち会ってきました。

まるで学生時代の私を見ているような、こそばゆい気持ちになります。私はかつて「決まっていないと相談してはいけない」と思い込んで、誰にも話せず、手探りだけで失敗し続けました。そんな就活時代の自分の姿がよみがえります。

こうして不安を抱える就活生たちは、私が想像していた以上に多種多様でした。

学校の成績がいい・悪いで悩む人、サークルやアルバイトで力を入れてきたことがある人、そういった経験が特になくて悩む人、業界内では誰もが知るコンテストで優れた賞を取った人......。

一見、他の人からみれば、うらやましがられるような経験を豊富に持っている人でも、心の内では焦りや不安を抱えているのが、とても印象に残っています。

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20代前半で「一生の仕事」は見つかるの?

彼らの話に耳を傾けながら、気づいたことがあります。

それは、同じ学年だからといって、「よーいドン!」で一斉に全員が将来就きたい仕事が見つかることの方が不自然ではないか、ということです。

文部科学省の統計を見ると、大学の学部生は1学年あたり67万人ほどいるそうです。67万人が「一生この仕事をしていきたい」と同時に決められるはずがない、と思いませんか? 

それまでの人生で経験してきたことも、育ってきた環境も、得意なことも、好きなことも、それぞれ違います。それなのに学年が同じというだけで、就活時期に足並みをそろえて「将来やりたいことが決まらない」と、焦ったり、劣等感を抱いたりする必要はないのでは、と考えるようになりました。

人によっては、もしかしたら、ちょうど就活のタイミングで自分にぴったりの仕事を見つけられるかもしれません。

けれど、ドンピシャでやりたいことではなくても、どこかで働きながら、もう少し時間をかけて自分に合った仕事を探してみる、という時間の使い方がフィットする人もいるかもしれません。

こういう考え方って、私が就活中には、なかなか出会えなかったと思っています。

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ドイツの友が聞いた「将来の夢は?」

もう一つ、キャリアについて考える上で、ターニングポイントになった出来事がありました。

それは、私が就活に苦戦しているときのドイツ人の友人との会話でした。

「君の将来の夢は?」

そう質問されて、私は「うーん、化粧品メーカーの企画かなぁ。でも商社で総合職で働くのもいいな」と曖昧に答えたのです。

するとその友人は、「なんで将来の夢を、職業で答えるの? 僕の夢は、海の見える街に家を建てて、朝起きたら大好きな人とミルクたっぷりのコーヒーを飲みながら海を眺めるような生活だ」と言いました。

振り返ってみれば、将来の夢は、小学生の頃から作文に書いたり、卒業文集に一言を載せたりする場面が、これまでにたくさんありました。そのとき、職業以外で答えている人をあまり見たことがありません。

もしかすると、私が夢と聞かれて仕事で答えたのは、日本の教育や慣習が背景にあるかもしれません。

でも、ドイツ人の友人に言われたように、「将来の夢」を必ずしも職業で考える必要はありません。そう気づいたときから、「どんな生活を送ってみたいか」を考えるようになりました。

それは老後でもいいし、10年後でも、5年後でもいい。そこから逆算して、理想の生活を送るために必要な仕事ってなんだろう、と考えるのも大事かもしれません。

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自分らしい生活に必要な仕事って?

ここ何年かで、日本国内のさまざまな自治体と、移住促進のプロジェクトを立ち上げてきました。そこで出会ったのは、まさに理想とする仕事、夢を手に入れた人ばかり。

いずれはUターンしたいから、遠隔でもできる仕事としてエンジニアやデザイナーの仕事をする。そのために新卒では東京の大手企業に入り、修行をしておく。そんな選択肢も、特別な誰かだからできることではなく、どんどん「普通」のことになってきているような気がします。

「就活の時期を迎えたから、将来の夢を職業で絶対に宣言できないといけない」。そんな呪縛から解放されて、もっともっと自分らしく働くためのライフプランを、ゆったりした気持ちで考えてみませんか? 

肩の力を抜いたときにこそ、自分が本当に就きたい仕事が見えてくることも、きっとあるはずです。

(文: 山本梨央、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)