グループディスカッションは“就活生大喜利”ではない。真の対策

グループディスカッションは“就活生大喜利”ではない。真の対策


    この記事に登場するロールモデル

    就活に焦りはつきもの。ついこの間まで、みんなで飲んだり遊んだりしていたのに、気づけば友達は目の色を変えて就活に励んでいる。そんな様子を目の当たりにしたら、誰だって焦ってしまうものだと思います。

    でも、本当に焦らないといけないでしょうか。仕事は、生活の大半の時間を費やすものです。だったら、自分のペースで、自分に合った仕事を探してみませんか?

    この連載では、学生向けのキャリア支援講師をする山本梨央さんが、就活生に宛ててアドバイスをつづります。第4回は「グループディスカッションは自分を知るチャンス」。ぜひ肩の力を抜きながら、お読みください。

    就活生への手紙#4

    目次

    対策が難しいグループディスカッション

    就活対策の本やWEBサイトはたくさんあっても、自分一人では対策を取りづらいとされるのが「グループディスカッション」です。

    エントリーシート(ES)や履歴書は何度も書き直しができますし、面接対策も誰かと模擬面接をしたり、それが難しければ想定問答集を作って考えたりできます。しかし、グループディスカッションばかりは、やはり対策が難しい部分も多いでしょう。

    そもそも、グループディスカッションでは、どんな人と「グループ」になるのか、当日の本番を迎えるまでわかりません。どんなテーマでディスカッションをするのかも、もちろん事前に明かされることはありません。

    その業界にまつわる課題が提示されるのかと思いきや、とても抽象的で明確な答えのない課題が出ることも。正解がわからないからこそ、戸惑ってしまう人が多いようです。対策の取りようがなく、運の要素が大きいのでは?と考えてしまう気持ちもわかります。

    就活生への手紙#4
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    もしもこの人が入社したら? いわば「模擬会議」

    グループディスカッションはそもそも、選考を受けている一人一人をよりリアルに見極めるために行われることがほとんどです。

    採用プロセスでなぜ、そのような仕掛けを設けているのでしょう?

    ESや履歴書は、何度も書き換えられるし、場合によっては先輩や専門講師らの添削が入っているかもしれません。面接でも「受かるため」に用意された原稿を丸暗記して、質問に対して読み上げるように話す就活生も少なからずいます。

    ここで、就活を終えた入社後の職場を想像してみましょう。

    毎度、毎度「考え抜いた、用意されたことだけを発言する」だけで日々を過ごすわけにはいきません。一人一人が自然な状態で、瞬発的にどんな反応をするのか。会議でどんなコミュニケーションを取るのか。話し合いが暗礁に乗り上げたときに、どんな乗り越え方をするのか。こうした力が働き始めると試され、求められます。

    グループディスカッションは、その予行としての「模擬会議」です。「用意されたシナリオ通り」ではないときにどう振る舞うのか。その姿を現役社員が見て、その会社での業務や働き方、社風と合っているのかを見極めるのです。

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    議題はなぜ、準備できないほど幅広いのか?

    企業研究で過去の選考プロセスや傾向、対策などを調べると、グループディスカッションが実際にどんなテーマで行われたのかがわかる場合もあります。しかし、これが、とても幅広い。業界研究をしっかりして、知識を十分に身につけているからこそ積極的に発言ができるケースもあれば、「無人島に何か一つだけ持っていくなら?」というような就職とはかけ離れたテーマが課されることもあります。

    なぜこれだけ幅が広くなってしまうのでしょうか? 就活生にとっては、心の準備のしようがなくて、不安に思ってしまいますよね。

    でも、安心してください。まずは企業側の視点で考えてみましょう。

    企業の採用戦略の中で、「今年はこういう人材を採用したい」という人物像を用意することがあります。マーケティング分野では、自社製品・サービスのターゲットとなる架空の人物像を具体的なイメージに落とし込んだ人物像を「ペルソナ」と呼びます。

    採用活動のペルソナの素質は例えば、アイデア豊富な人や行動がアグレッシブな人、コミュニケーション能力が高くて温和な人など。そうした人物を見極めるには、グループディスカッションでどんなテーマを設定して与えればよいかを考えているのです。

    テーマ設定別に3パターンを具体的に狙いと共に見ていきましょう。

    ①グループ内で意見が割れるような「二者択一を迫るテーマ」をあえて設定して、どういったプロセスで意見をまとめていくのかを見ることもあります。

    ②世の中の一般常識だけではまったく答えが導き出せないような、自由で制限のないアイデア会議のようなテーマを設定することもあります。

    ③業界知識が試されるようなテーマで、業界研究をきちんとしてきているのかをグループディスカッションを通して見ている、ということもあるのでしょう。

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    「アイデア大喜利」がうまい人だけでいいの?

    私はこれまで、さまざまな学校でグループディスカッションの対策や演習を行ってきました。企業の採用コンサルとして、グループディスカッションの選考の場に実際に立ち会ったこともあります。

    どんな場でも、学生のみなさんからよく耳にするのが「アイデアを考えるのは、私は苦手だから……」という悩みです。

    「グループディスカッション=アイデア大喜利」だと捉え、ひらめきに頼った「一発勝負」だと考えてしまう人が、まぁなんと多いこと!

    実はこれ、就職活動に限ったことではありません。

    私が大学生の頃、予備校で高校生向けのAO入試対策講座でアルバイトしていたときにも、同じでした。地域性もなく全国どこでも、私の知る限り少なくともこの15年以上は同じ傾向が続いています。

    でも、少し俯瞰して考えてみてください。

    「アイデア大喜利」がうまい人ばかりを会社が採用したとします。会議には、斬新でインパクトのあるアイデアを出す人がたくさん参加するけれど、まとめる人がいないので、結論は一向に出ません。話がいつも平行線になって、会議も時間通りには終わらないでしょう。同じタイプの人ばかりを採用すると、こういう壁に直面しかねないのです。

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    評価は「できる最大限のこと」を選べているか

    グループディスカッションで評価される人は、実は多様です。

    斬新なアイデアが出せる「ひらめきタイプの人」も、もちろん評価されます。ただ、他にも、司会進行をして全員に話を振りながらまとめていく人。適切な時間配分で、どんな進め方をすれば時間内に結論が出るのか、まとめていくのがうまい人。タイムキーパーという言葉もよく出てきますが、単に時計を見ていればいいというわけではありません。

    グループディスカッションの現場で、一人ずつアイデアを最初に発表し合う場もあります。「さっき言われちゃったんだけど……」と、誰かとかぶってしまった場合に、後発の人が遠慮してしまうことも多々あり。

    ただ、気にせずに発表してよいと私は思っています。なぜでしょうか? そのテーマで同じアイデアが出た、ということも一つの検討材料になりますし、誰かの意見を肯定して広げていく、というのも仕事をする上では重要な役回りだからです。

    ムードメーカーだって必要な役割です。

    誰かが発言している間、その話を聞かずに、自分だけの世界で必死に「次に何を話そう」と考えている人がいます。これは、面接をする側から結構わかります。

    逆に、他の発言にうなずきながら、親身になって聞いている人がいるだけで、発言する人は安心して話せたり、議論を広げられたりすることもあります。

    私自身が、トークイベントを聞きに行ったときに「客席で山本さんが、すごくうなずいて聞いてくれていたから安心して話せた」と言われたこともありました。スピーカーは、登壇の経験が豊富な方ですが、その場その場の話しやすさは周囲がつくるものです。話すだけでなく、聞く、うなずくというのも、仕事で求められる一つのコミュニケーション手段です。

    対策の取りづらいグループディスカッションですが、やりようはあります。

    グループディスカッションで自分がどんなキャラクターになりがちで、どんな役回りを得意とするのか。それを知ることが何よりも大切です。

    向いていない、もしくは不得意だと感じるポジションを無理に目指そうとして、背伸びしても、空回りしてしまいます。

    事前に心構えを決めて硬直的に動くのではなく、そのときのテーマ次第で「これは話せそうだ」と思ったらアイデアをたくさん言う人になればよし。逆に「苦手なテーマだな」と感じても、聞き手としてまとめ役を成し遂げるのもよし。

    その場でその場で、「自分にできる最大限のこと」を考えれば、それが企業にとっても最適な評価につながるのです。

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    オンライン授業との違いを忘れない

    コロナ禍を経て、グループディスカッションもオンライン化が進んでいます。対面であれば、発言している人の表情を順に見ながら、自分でメモを取ったり、考えたりすることもできます。ただ、オンラインとなると、全員の表情だけでなく、自分の表情まで常に視界に入ります。

    発言中でない人の顔が気になったり、自分が発言しているときにリアクションが薄い人の表情が気になったり。グループディスカッションに苦手意識を持っている人にとっては、緊張感がより高まりやすい状況でしょう。

    大学や専門学校のキャリア支援講座もオンライン化が進んで、私も講師として登壇してきました。カメラをオンにするよう指示をされない限り、画面オフで顔を見せずに授業に参加することに慣れている学生さんが、とても多いです。

    一方、チャットでの発言が活発です。教室で「質問ある人〜?」と問いかけて、手を挙げて発言できる人は1〜2割いれば良い方ですが、チャットには答えきれないほどの質問がきます。

    この差には驚きました。表情こそ見えないものの、こんなにみんなしっかり聞いて、考えてくれていたのか。そううれしくなったのを覚えています。

    ただ、この慣れから、就活のグループディスカッションで戸惑うこともあるでしょう。

    オンライン選考では、たいていカメラはオンにして、チャットではなくマイクを通しての発言で議論が求められるためです。

    大学で授業を受けていたときと同じ環境、同じ部屋、同じパソコンで選考を受けられる分、移動や面接会場への入室のような緊張はないかもしれません。しかし「授業とは違う」という感覚に、しっかりと慣れなければならないと思います。

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    Photo:iStock / kokouu

    学校の「対策セミナー」を見逃していない?

    グループディスカッションは「グループ」と名のつく通り、自分一人だけで練習することができません。ただ、苦手だと言いながら、大学や専門学校の就職支援課が用意している「グループディスカッション対策」の参加者は多くありません。参加するチャンスを逃しているケースをかなり多く見てきました。

    人数の多い学校であれば、知らない人が参加するグループディスカッション対策に参加するのは気が引けるな……。その気持ち、すごくよくわかります。知らない人と、突然出されたテーマについて議論をするのって勇気が必要ですもんね。

    でも、考えてみれば、それこそが就活の本番で開かれるグループディスカッションではないでしょうか? 模擬練習で似たようなシチュエーションを何度か経験したことがあるのか、ないのかでは、心の不安や自信の持ちようが大きく異なります。

    「私はアイデア出しがうまいと思っていたけれど、司会のほうが得意かも」「ゼロからイチのアイデアを出すのは苦手だけど、誰かのアイデアを広げるのはすごく得意みたい」......。そんな自分の強みは、ランダムなグループ討論で何度か実践してこそ、自覚できることでもあります。違う強みも見えてきた、ということもあるでしょう。

    ぜひ、グループディスカッションを通して、自分らしさを深く見つめてみてください。

    (文: 山本梨央、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)