就職活動の難関のひとつといえば「面接」。就活生からは特に「面接が苦手」という声をよく聞きます。
たしかに、エントリーシートは納得がいくまで何度も書き直すことができますが、面接は一発勝負。大学の就職支援課などが対策セミナーや模擬面接をしてくれることもありますが、活用している人は一握りです。
一発勝負で、なおかつ練習する機会も少ない、となれば、緊張感が増すのも仕方ありません。
自分なりにデモンストレーションをしてみても、もしかしたら本番では予期せぬ質問をされるかも? 答えられなかったらどうしよう? そう考えると、たしかに怖くなってしまう気持ちもよくわかります。
さらに、ネットで面接について調べると、すぐに出てくるのが「圧迫面接」。面接の未経験者は想像して怖いと思ってしまうし、面接を重ねる中で一度でも圧迫面接を受けたことがあれば、トラウマのようにその場面がフラッシュバックしてしまうこともあるでしょう。
私も就活生だった頃、ようやく先に進み、気合いを入れて臨んだ面接で、部屋に入ったときから不機嫌で目が血走った面接官に会ったことがあります。
それまでマナーや受け答えでおかしいところはなかったはず。でも、そもそも部屋に入った時から、不穏な空気が流れていた。圧迫されている理由がわからず、わからないからこそますますおびえてしまう、という状況に陥ってしまいました。
それからというもの、他の面接を受けるときにも、ドアを開ける度に「今回も圧迫面接だったらどうしよう」という不安を抱えるようになりました。
今では会社内でのハラスメント研修などが一般的になり、10数年前とは採用面接の状況は違うでしょう。圧迫面接が大幅に減ったという話も、よく耳にします。
それでも、ネットで検索すると、私が紹介したような当時の怖かった体験談もたくさんヒットするので、「なんとなく怖そう」と思ってしまう人がいるのもわかります。
ここで、「面接を受ける側」から「面接官側」に視点を変えてみましょう。
面接官はどういう人が担当しているか、考えてみたことはありますか?
企業によって、そして何次面接なのかによっても大きく変わってきます。人事担当者が見ることもあれば、若手社員が見ることも、現場で活躍している社員が見ることも、役員ら上層部が見ることもあります。
面接官を担当する人たちの普段の仕事ぶりを少し想像してみてください。
例えば人事担当者が、年がら年中ずっと面接だけをしているわけではありません。どうしたら応募数が増えるのか、そのために説明会をどういう場で設ければ良いのか。選考をどう進めるのか、入社が決まったら内定式は? その後の入社研修は? やるべきことはたくさんあります。
もちろん、面接に非常に秀でた人もいます。ただ、その人が必ずしも「面接だけのプロフェッショナル」というわけではないのです。
人事とは関係のない部署で働いている人たちが、自分たちの部署との相性を見るために面接を担当することも非常に多いのです。こうした人たちは日頃の業務に「面接」が含まれないことがほとんど。
以前、企業の採用コンサルを担当していたときには、面接を「臨時で担当する人たち」向けの講座をしたこともあります。面接ではどういう振る舞いに気をつけるべきなのか。どういうポイントで相性を見極めるべきなのか。どういうスタンスの面接が、その会社らしさにつながるのか。こういった“面接官のイロハ”をレクチャーする必要があるということは、その社員が「面接にすごく慣れている」とは限らないというわけです。
少し話がそれますが、私は大学生の頃、あるリゾートホテルでアルバイトをしていました。社員食堂にはいろいろな貼り紙があり、その中の1枚が今でも印象に残っています。
「あなた一人の振る舞いが、お客様にとってはこのホテルのブランドになる」
どんなに素晴らしい研修を受けたスタッフがたくさんいたとしても、お客様がホテル滞在中に実際に接するスタッフはきっと数人でしょう。その限られた接点で、対応に一瞬の気の緩みが出てしまったら、ブランドイメージは崩れてしまいます。会社が大切にするブランドを伝えるのは、結局は一人ひとりの振る舞いの積み重ね、ということを学びました。
実はこの観点が、就活や転職での面接でも重要です。面接は、それまでエントリーシートや入力フォーム、メールなどでやりとりしていた相手と、初めて直接会話できる機会。企業側が就活生のスキルや適応性を評価すると同時に、就活生にとっても、社風などを肌で感じる時間でもあります。
面接を通して、その企業で働く人の温かさや誠実さを感じることもあるでしょう。逆に、私が体験した圧迫面接のような「血走った目で露骨に不機嫌な対応をとられる」面接は、その背景にどんな働き方があるのかをつい想像してしまいます。もしかすると労働時間がとても長くて寝不足だったのかな、とか、外から会社がどう見られるかをあまり気にしないのかな、とか。
面接で出会った社員の対応が、就活生にとってその企業を「選ぶ理由」にも「選ばない理由」にもなりうるのです。言い換えれば、採用面接は「企業が就活生を品定めする時間」ではなく、受ける側も受けられる側もお互いを理解し合うためのコミュニケーションの場ということです。
面接ではないのですが、就職活動後のとある場面で、100人以上が1分ずつ自己紹介を次々にしていくという場面に立ち会ったことがあります。
驚いたのが、「〇〇大学〇〇学部卒の〇〇と申します。大学時代は〇〇サークルに入っていました。よろしくお願いします」という、〇〇を入れ替えた以外は一言一句違わない自己紹介があまりに多いこと。特に、テニスサークルやスノボサークルに所属していたという人数が驚くほど多く、私はその場で誰がどの人だったのか、ほとんど記憶することができませんでした。
自己紹介として嘘はついていません。正しい情報を話しています。でも、同じテンプレートで、抽象化したら同じ情報になってしまう人が数十人続いたら、印象に残るでしょうか?
面接を担当する社員たちが目にする光景は、きっとこの「何百人が同じテンプレートで自己紹介をする」のとかなり似た状況だと思います。
短期間で印象に残った人の中から、さらに企業とマッチする人が選考に残る。そう思うと、自己紹介のテンプレートにありきたりな情報を当てはめただけの原稿を読み上げるような面接への臨み方では、きっと印象に残りません。
面接で一方的に自分の持っている情報を相手に押し付けるだけでは、企業にとっても就活生にとっても、もったいないことだと考えられます。せっかく直接話せる場であり、会話のキャッチボールをできる場でもあるためです。
就活生と同様に、面接官で「面接をして緊張した」と振り返る人にも出会ったことがあります。面接での自分一人の振る舞いや選択が、企業にとってどれだけの影響を及ぼすのかと、真剣に一人ひとりとの相性を見ているのです。
文字のやりとりだけでは伝えきれなかったこと、ネットで調べただけではわからないこと、熱意のある表情や温かい雰囲気、ユーモアなど。テキストだけでは伝わらない情報量の多いやりとりができるのが面接です。
どうしたって緊張はしてしまうとは思います。私自身もそうでした。それでも、自分も相手も互いに緊張する場面で、「コミュニケーションの場」として面接に臨むことで、自分により合った企業との出会いに一歩近づけると考えてみることをお勧めします。面接を、怖いだけの存在ではなく、そんなチャンスだと捉えてみませんか?
(文: 山本梨央、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)