【50人の就職研究】経済学部の卒業生に広がる「新しいキャリア」
2021年9月29日(水)
日本の大学が持つ学科で最も多いのは「経営学・経営情報学・商学・会計学」で、全国に781ある大学のうち484校に学生がいる——。
教育分野の老舗出版社、旺文社が2020年に調査したデータによれば、日本の大学生の最大勢力となっているのが商・経済学部生だ。
卒業生が多く、OB・OG訪問で先輩に会える確率も高いため、文系学部の中では就職で有利とされている。
事実、大学生の進路を長年調査してきた大学通信が昨年8月に発表した「2020年 学部系統別実就職率ランキング」によると、就職率の高い学部系統は
家政・生活・栄養系:93.5%
看護・保健・医療系:92.9%
理工系:92.4%
農学系:91.6%
福祉系:90.8%
商・経営系:90.2%
となっており、商・経営系に入る経済学部生の就職率は9割を超える(参照元)。
では、経済学部を卒業して社会に出た先輩たちは、現在のビジネスシーンでどんな仕事をし、どんなキャリアを築いているのか。
従来は、大学で学ぶ財務・会計や経済学・経営学の知識を直接生かせる業界(金融業界や商社など)が人気とされていたが、近年は下の記事にもあるようにさまざまな職業で活躍する人が出ている。

【新就活】学歴・専攻で決めつけない「意外な適職」の見つけ方
JobPicksのロールモデルで「経済学部」の卒業生をピックアップして、就職した後のキャリアを見ていこう(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。
まずは上で触れた、経済学部の学生に人気とされる金融業界や商社に就職した先輩たちのキャリアを見てみよう。
JobPicksのロールモデルの中に、経済学部卒は約50名いたが(2021年9月時点)、就職先で多かったのはやはり金融と商社。15%程度の人が、この2つの業界でファーストキャリアを歩んでいた。
ただ、その後異なる業界に転職するケースも比較的多く、職業としては事業企画や経営関連職に就く人が目立った。
事例をいくつか紹介しよう。
日本最大級のスキルマーケット「ココナラ」を立ち上げた南さんは、1999年に大学を卒業後、三井住友銀行に就職。その後、プライベート・エクイティ・ファンドを展開する投資会社アドバンテッジパートナーズを経て、ココナラを起業している。
2019年からユーザベースCFO(最高財務責任者)を務める千葉さんも、大学を卒業後はベンチャーキャピタルのジャフコに就職。その後、クックパッドの経営企画職やVASILY(現・ZOZOテクノロジーズ)のCFOを経て、現職となっている。
大学卒業後、住友商事に入った土岐さんは、約5年間商社パーソンとして働いた後、2008年からローランドベルガー、2009年からデロイト トーマツ コンサルティングで経営コンサルタントを経験。
2013年に保育関連のテクノロジー事業を手掛けるユニファを創業し、現在もCEO(最高経営責任者)を務めている。
ここで紹介した3人は、就職後に経営の仕事に就いたパターンだが、経済学部卒のロールモデルは学生起業している人の割合も他学部出身者より多かった。
大学で経済や経営のダイナミズムに触れた結果、ビジネスを自らつくる立場で働きたいと考える人が多いのかもしれない。
次は、業界ではなく職業に注目して、経済学部卒のキャリアを見ていこう。
ロールモデルの経歴を眺めると、ファーストキャリアで最も多かったのは、営業やマーケティング関連。約50人のうち30%超の人が、これらの仕事からスタートしていた。
ここでは、この「2大職種」を経て、異なる仕事へキャリアを広げていった若手社会人の事例を紹介する。
小池さんは2012年に新卒でサイバーエージェントに就職。同社で法人営業(フィールドセールス)からスタートし、商品企画や人事を経験した後、定額制パーソナルフードブランド「GREEN SPOON(グリーンスプーン)」を展開するGreenspoonの創業メンバーとなった。
サイバーエージェントの営業時代に学んだことが、スタートアップで商品開発やサプライチェーン構築など「勝手の違う仕事」をする上でも役に立ったと述べている。詳しくは下の記事を読んでみてほしい。

食のD2Cを始めた元サイバーエージェント営業の「未経験で結果を出す習慣」
林さんも、小池さん同様に就職後は法人営業(フィールドセールス)からキャリアをスタートしている。
2017年に各種デジタル関連事業を手掛けるユナイテッドに入社した後、営業、事業企画・事業開発、人事とさまざまな職業を経験。
現職の人事に「向いている人・向いていない人」についての投稿を見ると、組織の状況を把握してネクストアクションを起こすために「データを正しく見る力」も必要と述べるなど、数字に対する感度の高さが垣間見える。
これも、経済学部で学んだ素地があるからかもしれない。
人事の仕事(特に採用や組織課題解決 など)は、決められた仕事をこなす
次に紹介するNakamuraさんは、就活の末、マーケターになる道を選んだ事例だ。
2015年に大学を卒業した後、デジタルマーケティングエージェンシーのオプトに入社。Webマーケターやマーケティングプランナーとしてキャリアを積んでいる。
Webマーケターに「向いている人・向いていない人」についての投稿では、答えがない状況でも自分なりの解をつくり続けることの重要性を述べている。
マーケティングの世界には、過去の偉人たちが残した様々な定説や法則が残
これを深読みすると、経済学やマーケティングの理論をベースにしつつも、現実社会の「理論通りにはいかない側面」まで視野に入れて課題解決を行うのが大切ということだろう。
いわば、大学で学んだことの応用問題を解いていくような姿勢が重要になる。
経済学部の卒業生は数が多いだけに、当然、上記以外の仕事に就く人もたくさんいる。
ただ、JobPicksのロールモデルの中であえて目立った事例を挙げると、想像以上にITエンジニアやその関連職種に就いている卒業生が多かった。
近年は、経済学の学習範囲として計量経済学や統計学などを教える学科も増えている。その分析手段としてプログラミングの基礎を学んだ学生が、就職の前後で本格的にソフトウェア開発を学ぶケースが多くなったのかもしれない。
現在はフリーランスのWebマーケターをしているNagasawaさんは、2010年に大学を卒業後、独立系SI企業の日本ビジネスシステムズに就職。
SEとして約9年の経験を積み、今の仕事をしている。
ソフトウェアエンジニアのキャリアで、ゴールの一つともいえるCTO(最高技術責任者)となった先輩の例として、Hayashiさんのようなキャリアもある。
大学を卒業後、SI企業のアソシエント・テクノロジーに入社したHayashiさんは、その後2社〜フリーランスでソフトウェアエンジニアを続け、現在はユーザベースでSaaS事業のCTOを務めている。
この職業でプロになるには?という質問への回答で、Hayashiさんは「新しい技術に対してアンテナを張り続けること」と述べている。
これを意訳すると、技術に対する関心と学ぶ姿勢があればエンジニアとしてやっていけるのだと言えるだろう。
特定の技術が流行っている状態というのは既にその技術を使って活躍してい
ただし、林さんのように学び続けるには、プログラミングや最新の開発手法に対する好奇心が欠かせない。中高や大学でソフトウェア開発をし続けてきた人たちと一緒に働く場合、より多くの学習時間が必要になるからだ。
自身にそれがあるかどうかは、学生時代に自問しておきたい。
最後に紹介するのは、院卒で経済学をより深く学んだ西田さんのケースだ。
明治大学の政治経済学部を卒業して一橋大学大学院に進み、2016年にみずほ情報総研に就職した後にSansanでデータサイエンティストになった。
近年、データサイエンティストは需要が高騰している職業の一つで、2020年の転職市場では有効求人倍率が11.9倍だった(パーソル調べ)。
同年の転職市場全体の有効求人倍率は1.18倍なので、データサイエンティストは約10倍もの倍率となっている。
書籍『JobPicks 未来が描ける仕事図鑑』で行った取材では、採用関係者から次のような証言も得ている。
大半が情報系か経済系の分野を大学院で専攻している。情報系であれば機械学習、経済系であれば、マーケティングの効果検証などに応用できる因果推論を中心に学んでいる学生が多い。 —— 書籍『JobPicks 未来が描ける仕事図鑑』より
経済学部卒の学生全員が当てはまるわけではないが、卒業後の進路が広まっている証拠といえる内容だ。これから仕事選びをする就活生は、ぜひ参考にしてほしい。
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