食のD2Cを始めた元サイバーエージェント営業の「未経験で結果を出す習慣」
2021年9月24日(金)
もちろんありましたが、それ以上に「新しいチャレンジができるぞ」と意気込んでいたので、ワクワクの方が大きかったですね。
そもそも、ヘルスケア領域に飛び込んだのは、創業メンバーで、前職の同期でもあるCEOの田邉(友則さん)に誘われたのがきっかけです。
当時、私は29歳だったのですが、ちょうど「キャリアを見直そうかな」と考えていたタイミングで。
新卒から8年間勤めたサイバーエージェントは、メディア営業や人事などいろんな仕事を経験して充実していた一方、かなりのハードワークでした。
深夜残業は当たり前だし、食事もコンビニで買って済ませるだけ。
気づいたら3食コンビニ、なんてことも日常茶飯事で、健康への不安や体を大切にできない自分への嫌悪感が強くなっていました。
だからこそ、30歳という節目を前に「そろそろ体や時間を大切にし、自分らしい人生を歩もう」という考えに至ったのです。
その頃は、子どもの頃から海が好きだったので、宮古島への移住も本気で検討していました。
現地の求人情報も取り寄せていて、環境をガラッと変えて新たな仕事にチャレンジするのもいいかな、と考えていたんです。
結果的に、創業期のスタートアップなので、またハードワークをすることになるのですが(笑)。
ただ、田邉の「アメリカでは当たり前に意識されている『セルフケア』の習慣を、日本でも定着させたい」という思いに強く共感しました。
彼も、私と同じように20代の頃は相当なハードワーカーでしたが、退職後に行った海外留学で「予防医学」の重要性に気づいたそうで。
いわく、海外では医療費の高さもあり、多くの人が「セルフケア」としてトレーニングを日常的に取り入れたり、健康的な食生活を意識したりしている。
反対に、日本では忙しい人ほど食事にあまり気を使わず、コンビニやファストフードで済ませる傾向があり、あまりにもったいない、と。
私も、まさにその1人だったので耳が痛くなるとともに、それを解決するプロダクトを作れたらいいな、と思いました。
もともとtoC事業に興味があったのもあり、「飛び込むなら今しかない」とジョインを決めたんです。
GREEN SPOONという去年3月にリリースした定額制のパーソナルフードサービスで、サプライチェーン全般を担当しています。
GREEN SPOONは、体の悩みや生活習慣に関するアンケートに答えてもらい、その人に必要な栄養素を特定。200種類以上の野菜やフルーツなどを配合したレシピから、一人一人に最適なフードを、冷凍して毎月自宅まで配送するサービスです。
ラインアップはスムージーとスープ、9月にはホットサラダの販売も始めました。
私は、食材の調達から工場とのやり取り、物流、品質管理まで、商品を作りユーザーに届けるまでの全ての工程に、一気通貫で携わっています。
現在は専任の商品開発担当と2人体制で取り組んでいますが、創業初期は開発も含め、私1人でサプライチェーンを管理していました。
もちろん、食ビジネスに関しては全くの素人でしたし、他の創業メンバーも全員IT業界の出身で、食品の知識はゼロ。
とにかく手探りで商品開発やオペレーションの構築をしてきました。
今でこそ自信を持って商品を届けていますが、当時は「本当に私たちだけで商品が作れるのだろうか」という不安もありました。
ですが、まずはやってみようとチャレンジを重ねた結果、少しずつ形にしていくことができたのです。
一番は、やはり商品開発ですね。栄養がとれておいしいスムージーを作ろう、と着手したのですが、ゼロからレシピを作るのは自分たちの想像の10倍、20倍大変でした。
途中からは管理栄養士さんとタッグを組みましたが、それでも100種類以上におよぶ野菜やフルーツを組み合わせて商品化するのは、簡単なことではありません。
さらに、パーソナライズをするには1種や2種の商品では足りないので、ローンチの段階で25種のスムージーを作ると決めました。
そこからは、朝から晩までスムージを作っては試食して、作っては試食して。そんな生活を4カ月ほど続けていたので、毎日夜になるとおなかがタポタポでしたね(笑)。
もう一つは、量産化です。
私たちのスムージーは7〜9種の原材料をブレンドしたレシピ。おいしさと栄養価を追求してのことでしたが、通常のスムージーは2〜3種が一般的なので、工場からも「作れない」「実現が難しい」と、断られる日々が続きました。
累計100社以上の工場に提案して、たった1社だけ「一緒に頑張ってみよう」と受け入れてくれたのが、現在の提携工場です。
商品化のために、原材料や試作品が保管してある「マイナス18℃の冷凍庫」に何度も入っては、見た目に問題はないか、味は落ちていないか、なども一つずつ確認しました。
寒さでまつ毛が凍ったりもしましたが(苦笑)、スピーディーなオペレーションを意識した結果、約半年で正式リリースまでこぎつけることができました。
今でこそ「ストイックに最後までやりきる人」というイメージを持たれることもありますが、実は新卒時代は真逆だったんです。
もともとtoC事業をやりたくてサイバーエージェントに入社したのに、配属されたのはメディア営業。はなから「営業が向いてない」と諦めていて、半年間は個人売上もほとんどゼロに近い状態でした。
そこで、当時の上司に「本当に営業をやりたくないので、toC事業に異動したいです」と言ったところ、「目の前のことを頑張れない人にチャンスはないよ」とスパッと言い切られて。
その時はじめて、「ああ、その通りだな」と、目が覚めました。
そこからは、現在も含めて一回も妥協したことがないくらい、一つ一つの仕事を全力でやってきたつもりですが、いつでもその一言が動力になっていますね。
実際、一念発起して営業を頑張ったところ、次第に成績がついてきて希望部署への異動がかないましたし、今もこうしてやりたい仕事ができています。
言葉にすると当たり前かもしれませんが、やはり手を動かすことで得られるメリットってすごく多いんです。
たとえ単純な作業だったとしても、少しでもいいアウトプットに近づけようと意識するだけで、今までは持てなかった新しい視点や気づきが得られる。
さらに、そうやって頑張っている様子が伝わると、周囲の人も自然と耳を傾けてくれるようになります。
実績と信頼を重ねていくうちに、いつかチャンスが巡ってくるんです。
そして、これは業界が変わろうと業種が変わろうと、結局同じなんですよね。
未経験ではじめた食品開発も、目の前の「やるべきこと」を一つ一つクリアしていった結果、今こうして商品を展開できているので、なおそう感じます。
なので、もしやりたい仕事ができていないと悩んでいる人がいたとすれば、「今は準備期間だ」と捉えて、まずは目の前の仕事に打ち込んでみることをおすすめします。
そのうちに、やりたいことをできる機会が必ず訪れるはずです。
私自身、まだまだ道半ばではありますが、業界での経験の有無など関係なく、頑張れば必ず結果はついてくる。
日々のチャレンジを通して、それを若い世代にも伝えられたらうれしいなと思っています。
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取材・文:高橋智香、編集:佐藤留美、デザイン:堤 香菜、撮影:遠藤素子