ベンチャー就職のリアル「裁量が大きく成長できる」は本当か?

2021年9月22日(水)

ベンチャー企業に対する思い込みを捨てよう

裁量権、成長、大企業、違い、リスク、メリット・デメリット。

Web検索で「ベンチャー 就職」と打ち込む人が、合わせて入力するキーワードを調べると、こんな言葉がズラリと並ぶ。

大手よりも仕事を任される範囲が広く、早く成長できそうだが、研修制度の有無や安定の面では当然リスクも......。ベンチャーへの就職を考える就活生は、入社前にこれらの真偽を確かめたいと思うのだろう。

だが、一口にベンチャーと言っても、経営者の思いも違えば、事業フェーズも千差万別。

創業間もなく利益も出ていない状態のベンチャーと、一定以上の収益を上げ複数の事業を展開するメガベンチャーを比べても、新卒入社した若手社員の扱いは当然違う。

経営学者の入山章栄さんも、下の記事で「大手企業よりベンチャーやスタートアップに入ったほうが若くして裁量権を得られる」とは必ずしも言えないと指摘する。

【入山章栄】成長できる会社「通説のウソ」を斬る

その上で、「やりたいことを見つけ、実際にやれるようになるために、ベースとなる素養が身につきそうな環境を選んで働く」ことが結果的に成長をもたらすなら、下の4要素が働く場所選びで大事なポイントになると示唆している。

では、ベンチャーに入社後、この4つを軸に成長できる人とはどんなタイプなのか。どんな考え方で、ベンチャー就職の向き・不向きを自らに問えばいいのか。

JobPicksに経験談を投稿してくれたロールモデルで、ベンチャーに勤める人たちの声を通じて、実情を探ってみた(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。

良くも悪くも意思決定の機会は豊富

まず、ベンチャー勤務のロールモデルで、多くの人が経験談として述べているのが、上図の【4】にある意思決定の多さについてだ。

下の記事は、レバレジーズの綱島章人さん、サイバーエージェントの高田早記さん、DeNAの宋拓樹さんによる入社2〜3年目社員の座談会だが、3人が共通して挙げたのは「意思決定の数と質」が成長をうながしたという経験だ。

【新卒採用】人気メガベンチャーの仕事、社風の違いを徹底比較

また、ベンチャーで求められる意思決定には想定外の事柄も含まれると述べるのは、広告業界の新興企業GOの勝田彩子さんだ。

この仕事に向いている人・向いていない人は?という質問に、「何か想定外のことがあっても動じない、なんとかすると思える度胸も大切」と述べている。

「相手の視点を理解しようとする優しさがあり、葛藤に強い人」

あらゆるステークホルダー(社員や顧客含む自社に関わってくださっている全ての人)の視点に立ちながら、会社にとって一番良い意思決定ができるような支援をしていく仕事なので、相手の視点を理解しようとする想像力を持ちつつ、決めなければいけない時に決めるという葛藤に強い人が向いていると思います。人には優しく在りつつ、コトには厳しく冷静に向き合える人が向いているように思います。 あとは、何か想定外のことがあっても動じない、なんとかすると思える度胸も大切だと思います。特にベンチャー企業は毎日いろいろなことが起こるので、動じない心の強さも必要だと思います。 逆に視点が偏ったり、関わるステークホルダーへの視点への想像力や、想像しようとし続ける姿勢がない人は向いていないのではないかと思います。

中長期計画はあれど、日々の想定外(例えば顧客企業の都合や、社内のトラブルなど)に対応するため朝令暮改は当たり前。

そんな環境で、年齢や経験を問わず「自分ならどう動くか」を考えるのを求められる機会が、結果的に成長をうながすようだ。

難しいのは「腹落ち感」を持って働き続けること

反面、こうした環境を【1】職種ごとに必要なベーシック・スキルが身につくか、【3】センスメイキング(腹落ち)を持って働けるかの観点から見ると、全ての人に適しているとは言えない。

失注やサービス存続の危機、潤沢とは言えない人員のやりくりなどを理由に、腰を据えてじっくり仕事に取り組むことができない場合もあるからだ。

採用支援ツールなどを提供するベンチャー、ミツカリでインサイドセールスをしている渡邉理奈さんは、入社面接で「うちはベンチャーだから、幅広い範囲の仕事をやってもらうよ」と何度も言われたと明かしている。

【旬】女優志望の家電販売員が見つけた天職・インサイドセールス

実際、上の記事では、現在の業務範囲をこう説明している。

ミツカリは10名以下のベンチャー企業です。一つの職種だけを担当できるほど大きな組織ではないので、カスタマーサポートやフィールドセールスも兼任し、資料づくりからメルマガ作成、CRM(顧客管理システム)の導入・メンテナンスなど、幅広い業務に従事しています。 ——【旬】女優志望の家電販売員が見つけた天職・インサイドセールス

よく言えば「何でもやらせてもらえる環境」だが、特定の業務にじっくり取り組む暇はない。ここは向き・不向きの出やすい点だろう。

この話に関連して、ベンチャーの採用ではよく「大企業で実績豊富な人を採用したが、業務範囲の広さに適応できず早々に辞めてしまった」という声も聞く。

また、ベンチャーは大企業に比べてビボット(事業の方針転換)を行う機会も多い。

AIベンチャーのAutomagiや不動産テック企業のSREホールディングスで要職を担う清水孝治さんは、「普通の会社員からベンチャーに転職しCOOに就任したが、会社は既存事業の売上が毎年減少しており、新しい成長事業の立ち上げに取り組む必要があった」と語っている。

会社の成長を阻む難題に取り組むことを楽しめるか

会社のビジネスが成長するかはCOOの力量次第。 成長を阻む難題を見極め、その解決に戦略構築から組織設計、オペレーションまで広い範囲で取り組むことができるか、さらにそれ自体を楽しめないと、普通はプレッシャーで潰されてしまうと思います。 普通の会社員からベンチャーに転職しCOOに就任しましたが、会社は既存事業の売上が毎年減少しており、新しい成長事業を早期に立ち上げることに取り組む必要がありました。 一つ目の事業は失敗し追い詰められた時、社内の過去のプロジェクトで使われていたAI技術に着目し事業化に取り組んだところ、AIブームが図らずも到来した流れにのり、すごいスピードで事業を成長させることができました。 苦しいことも当然数え切れないほどありましたが、会社の仲間と難題に取り組むこと自体を楽しめる性格が幸いし、プレッシャーにも負けず難題を克服することができました

その渦中では、今まで取り組んできた仕事を捨ててでも、別の仕事に着手せざるを得なくなった人もいただろう。しかし、こうした状況で「入社した時の話と違う!」と主張したところで、チームの共感は得られない。

AIベンチャー・エクサウィザーズの人事Yoritaka Handaさんが下で述べる、「成長のフェーズに合わせて活躍する人材は変わっていく」という現実を受け止めなければならないシビアさもあるということだ。

自分が連れてきた仲間が船を降りるとき

ベンチャー企業は、成長のフェーズに合わせ活躍する人材は変わっていくため、事業の成長のために別れが必要になるフェーズも訪れます。事業が急成長すればするほど、成長スピードに合わせて個人が成長する必要があります。また、それぞれのライフステージややりたいことも変わっていきます。 苦楽を共にした人との別れは、頭の中では納得していても、心のなかで寂しさを感じてしまうのは人間としてはどうしようもないこと。ちょっとしたボタンの掛け違いだったり、会社の仕組みなどで防げたかもしれないときは結構辛いです。 ただ、くよくよしてても舟は前に進まないので、結局は更に漕いで進むのみです。人情と戦略のバランスをうまくとるのが人事のうでの見せ所だと思います。

乱気流の中を飛ぶ飛行機を、搭乗員の1人として自ら乗りこなす姿勢がないと、腹落ち感は得られない。そう覚悟した上で、変化を楽しむマインドが求められる。

入社前にやっておきたい「確認行動」とは

では、こうしたベンチャーならではの実情を、自分なりに受け止めながら働けるかどうかを確かめるには、どうすればいいのか。

これから就職する学生なら、インターンシップの機会を有効活用するのが一つの答えになる。

デジタルマーケティング事業を展開するオプトなどの持株会社デジタルホールディングスで人事を担当する渡邉舞さんは、学生時代に参加したITベンチャーのインターンで「PDCAサイクルを回す速さがまるで違う」と実感したそうだ。

そのスピード感が性に合うと感じ、IT業界で就職先を探し、オプトに新卒入社することになった。

PDCAが速いほうが楽しい!

私自身、飽き性なんです。 大学が理系で、研究室に所属していたのですが、研究自体は面白いもののなかなか長期で一つのことに取り組んでいくことに前向きになれない自分がいました。 周りも理系が多い中なので、それが当たり前だと思い込んでいた自分もいましたね。 そんな中、学生時代に数日間IT系のベンチャー企業でインターンをさせていただいて、はっとしました。PDCAのサイクルの大きさが、まるで違うぞと。 (もちろん研究にも小さいPDCAはありますが)比べ物にならないくらい、ITの世界でのスピード感に圧倒されました。いいと思ったことはやってみる。だめだったら次に行く。 この速さの中で働いたほうが、きっと私は楽しく働けるなと思い志望しました。

渡邉さんとは違うパターンとして紹介したいのは、組織・人事系スタートアップのアトラエでデータサイエンティストとして働く土屋潤一郎さんの経験談だ。

学生時代は「自称・意識低い系」だったという土屋さんが、アトラエで働くことになったきっかけは、学生時代の先輩からアルバイト感覚で誘われたインターンシップだった。

そこで働くことへの不安を払拭されたのが、入社の動機になったという。

アトラエには、互いの仕事観を尊重する思想が共有されていることが、インターンとして在籍するうちに見えてきました。(中略)各自がセルフコントロールを利かせて働いており、誰一人として「やりがい搾取」されているようには見えませんでした。「仕事はつらくて当たり前」だと思い込んでいた私には、衝撃的な光景でした。 ——【必見】全“意識低い系”に捧ぐ、自分らしい仕事の見つけ方

【必見】全“意識低い系”に捧ぐ、自分らしい仕事の見つけ方

この話が示すのは、全てのベンチャー企業がイケイケで成長第一ではないということ。こうした違いを各論で知ることができれば、土屋さんのように気負わず働き続けることも可能になる。

インターンシップを公募していないベンチャーだったとしても、応募を検討する企業がどんな風土で、社員がどんな思いで働いているかを可能な限り調べる行動が大切だ。

学生向け就活サービス「Goodfind」を運営するスローガン代表の伊藤豊さんも、下の記事でこうアドバイスしている。

SNSなどでその会社の人にアプローチして話を聞きたいと伝えて、インターンとして働いてみたいと熱意を伝えてみても良いと思います。企業としても、本当に情熱とやる気がある学生が働きたいと来た場合、断る理由は少ないでしょう。まずは行動し、門を叩いてみることが大切です。 ——【就活生必見】自分に合う会社は「ギブ&テイク」で見つけよう

【就活生必見】自分に合う会社は「ギブ&テイク」で見つけよう

人事制度が硬直化した大企業に比べれば、ベンチャーのほうが働く機会を得られる可能性は高いだろう。

実際、伊藤さんのアドバイスと全く同じ行動を取り、キャリアSNSを運営するYOUTRUSTに入社した堀内菜央さんのようなケースもある。

【仕事選び】いま22歳なら「なんとなく大手」はやめる

百聞は一見にしかず。ベンチャー就職のリスクを考え、あれこれ悩む前に、少しでも「中の人として働ける機会」を生かすのがベターチョイスだ。

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