【旬】女優志望の家電販売員が見つけた天職・インサイドセールス
2021年6月4日(金)
早期離職を未然に防ぐ採用支援ツール「ミツカリ」のインサイドセールスを担当しています。
ミツカリは10名以下のベンチャー企業です。一つの職種だけを担当できるほど大きな組織ではないので、カスタマーサポートやフィールドセールスも兼任し、資料づくりからメルマガ作成、CRM(顧客管理システム)の導入・メンテナンスなど、幅広い業務に従事しています。
ファーストキャリアは、家電量販店です。
もともと3年間で退職するつもりでしたが、働いているうちに熱中してしまい、気がつけば5年間も在籍していました。
総合カウンターの受付や大型家電のまとめ買い担当者など、売り場の仕事をひと通り経験しています。
入社3年目に昇格し、主任になってからは、戦略立案や在庫管理など、管理職としての仕事をしていました。
ただ、入社5年で退職してからは、1年間、履歴書に空白期間があります。
女優を目指し、アルバイトで生計を立てていた時期です。
高校で演劇部に所属していて、キャストとして演じたり、脚本を書いたり、地元の劇団を手伝ったりしていました。
当時から女優を目指していて、高校卒業後は演技を学ぶため、専門学校に進学するつもりでした。
ところが家庭の都合で進学が難しくなってしまい、周りは進路をほぼ決めていた時期に就職へと方向転換しました。
事情は理解していましたが、女優になる夢はどうしても諦めきれず、働いてお金をためてから、女優業に挑戦しようと考え直したのです。
東京には女優になるチャンスが多いと思っていたので、就職先は東京に絞っていました。
でも、1人で東京に行くのは初めてで。丈の長い制服のスカートを履いて、緊張しながら面接を受けたのを、鮮明に覚えています。
当時は「自分にはどんな仕事が合っているか」なんて、考えもしませんでしたね。
「東京で働きたい」という、ただそれだけの思いでした。
その通りです。
年齢的にも最後のタイミングだと感じ、すっぱりと退職を申し出ました。
職場からは「生活はどうするのか」と反対されましたし、年収は150万円ほど下がりました。
それでも、高校の頃から決めていたことなので、一切の迷いはありませんでした。
派遣制の芸能事務所に登録し、パチンコ店のアルバイトで生計を立てていました。
女優業では、地方のテレビCMや、クイズ番組の再現VTRに出演することもありました。
23歳なのに、40歳の愛人役をやったこともあります。
生活に余裕があったわけではありませんが、夢を追いかける時間は、とても充実していました。
しかし、女優を目指して1年がたった頃に、将来への不安が大きくなってきました。
TV出演を中心にオーディションを受けていましたが、年齢制限があり、応募すらできない現実もありました。
シンデレラのように「いつか大きなチャンスに巡り合えるかもしれない」と期待していましたが、現実はそうもいきません。
この先ずっと、苦しい生活のまま演劇の世界にいる覚悟は、私にはできませんでした。
そうです。女優になる夢は諦めましたが、働くことは大好きだったので、気持ちを切り替えました。
過去を振り返ってみると、家電量販店の販売職も、仕事そのものは楽しかったことを思い出しました。
隣のライバル店に足を運んだお客様が、「やっぱり渡邉さんから買いたい」と戻ってきてくださったときのうれしさは、今でも忘れられません。
私には人と接する仕事が向いていたのです。
今までは「生活のため」に仕事をしていましたが、「人に接して役に立つ」ことを生きがいにする道もあるのではないかと考えるようになり、転職活動を始めました。
転職エージェントにこれまでの経験を相談してみたところ、「きっと向いている」と提案されたのが、営業職です。
いくつか求人があった中でも、「東京の営業チームで第一号の女性営業を採用します」というメッセージに心を引かれ、IT企業に転職してSES(技術者を派遣するシステムエンジニアリングサービス)の営業職を選びました。
特に不安はありませんでした。
秀でたスキルがあったわけではありませんが、「同じ人間にできるんだから、私にもできるだろう」くらいには楽観的だったと思います。
実際に、上司にフィードバックをもらいながら、仕事をマネして覚えていったところ、ひと通りの業務はできるようになりました。
大企業における社内調整の方法を知れたり、これまでとは桁の違う売り上げをつくる経験ができたり、働いていた3年間を通して多くの学びを得ました。
会社の方針と自分の考えが合わず、当時の私には、どうしても納得できない状態になったのです。
自分の中で納得がいかないまま、お客様に提案をするのがつらくなり、500円玉サイズのハゲが2つできるくらいにストレスを抱えてしまいました。
そのタイミングで、転職を決意しています。
いいえ、こんなにつらい思いをするくらいなら、もう営業は辞めようと思い、事務職を中心に転職活動をしました。
しかし、未経験から始める事務職は、ほとんどが契約社員からのスタートです。
給与も大幅に下がりますし、「正社員になれるのはひと握り」と説明を受け、先々のキャリアに厳しさを感じていました。
やはり正社員として勤務したいと転職エージェントに伝えたところ、1社だけ条件に合うものがあり、「インサイドセールス」の求人を紹介されました。
私がインサイドセールスという職業を知ったのは、このときが初めてです。
業務内容に目を通したところ、強い興味を持ちました。
過去の経験を生かしながら、お客様に寄り添える仕事だと感じたからです。
求人票の仕事内容には、「既存顧客からの問い合わせ対応、資料請求顧客へのトライアル案内、カスタマーサポート兼任」と書いてありました。
接客業や営業職で経験した業務内容に近く、サービスを理解すれば、未経験の私にもできそうなイメージが持てました。
「サービスに興味を持つお客様に寄り添って案内をする」仕事なら、「お客様が望んでいないことを、交渉せざるを得ない」という、私が持っていた営業職のネガティブなイメージも払拭できます。
面接では「うちはベンチャーだから、幅広い範囲の仕事をやってもらうよ」と何度も言われました。
「大丈夫です」とは言ったものの、ベンチャーの意味が分からなくて、面接後にこっそり検索しました(笑)。
とはいえ、今まで経験したことのない環境に飛び込む未来に心が躍り、インサイドセールスとしてキャリアを積み上げていこうと、転職を決めました。
「奥が深すぎる!」が率直な感想です。
入社前は、ひたすら架電するアポインターをイメージしていましたが、実際は違います。
問い合わせに対して資料を送るだけの仕事ではないですし、お客様に受注のYesかNoを迫るだけの仕事でもありません。
インサイドセールスは、お客様に必要なタイミングで思い出してもらえるよう、長期的な関係性を築く工夫を重ねる仕事です。
お客様の困りごとを伺って、適切な資料や事例を提示したり、メールマガジンで接点を増やしたりします。
すぐにアポにつながらなかったとしても、数カ月後、数年後にお客様になっていただける可能性があるからです。
営業プロセスの中でも、「お客様と長期的な関係性を構築する」という一点を追求できるインサイドセールスは、「困っているお客様に寄り添いたい」という私の志向に、とてもマッチしていました。
職場の先輩に薦められた本を読んだり、同業者たちのカンファレンスに参加したりして、日々勉強しています。
例えば、インサイドセールスについて詳しく書いてある書籍『THE MODEL』からビジネススキームを学んだり、質問の掘り下げ方であるSPINのフレームを試したり。
インプットとアウトプットを繰り返し、トライアンドエラーの毎日です。
インサイドセールスをするうえでは、CRMやマーケティングオートメーションの知識も必要になります。
ワークフローも学びましたし、きれいな資料を作りたくて、デザインも勉強するようになりました。
私は今までの仕事で、何かを深く調べたり勉強したりすることがありませんでした。
ノリと勢いで、なんとなく結果を出してきたのです。
しかし、インサイドセールスのプロとしてキャリアを積み上げていくのであれば、絶対的に勉強が必要です。
インサイドセールスはまだ歴史が浅く、日進月歩の職種です。
新しいシステムが生まれることも、インサイドセールスの役割がさらに細かく分かれることもあります。
勉強会に参加すると、会社によっても仕事内容に違いがあると気づきます。さまざまなインサイドセールスに出会うことが多々あり、学びが尽きません。
インサイドセールスの世界は、一度足を踏み入れれば、「もっと知りたい」と思えるほど奥が深い。
今はインサイドセールスのスキルをさらに磨いて、キャリアを積み重ねていきたいと考えています。
「手に職がつく」ことです。
今まで接客と営業を経験して、コミュニケーションスキルや調整力は身についたものの、「私のスキルの市場価値はどれくらいだろう?」「今後のキャリアはどうなるのだろう?」という漠然とした不安がありました。
しかし、営業職の中でも、インサイドセールスは「専門職」だと感じます。
知識とキャリアを積み上げていけば、再現性が生まれるだろうと、働きながら実感できるのです。
また、需要も伸びていて、食べていくのに困らない職種だと感じます。
また、インサイドセールスは、柔軟な働き方が実現しやすいのも魅力です。
私は在宅勤務が主流になる以前から、フルリモートで勤務しています。
パートナーの転職で地方に引っ越すことになったのですが、「このまま仕事を続けたい」と相談したところ、会社が快諾してくれました。
慣れてくれば、対面のときと全く変わらずに働くことができます。
もっと社会に、インサイドセールスを希望する人が増えてほしいです。
日本ではまだまだ「営業職=フィールドセールス」が主流です。インサイドセールスは、職種名も浸透しきっているとはいえません。
しかし、決してハードルが高い職種ではありません。皆さんにもなじみのある、営業職の一つです。
今ではトークスクリプト(営業台本)が整っている会社も増えているので、多少口下手でも努力次第で活躍できると思います。
また、繰り返しになりますが、学びの尽きない仕事で、やりがいにあふれています。
ニーズが増えていて、旬な仕事でもありますから、ぜひ未経験からでも挑戦してほしいと思います。
合わせて読む:『THE MODEL』著者・福田康隆「顧客は変化している。営業も変わろう」
取材・文:岡田菜子、編集:オバラ ミツフミ、デザイン:黒田早希、撮影:渡邉理奈(本人提供)