「事業開発でも個人のキャリア形成でも、『はやっているから』という理由だけで飛び付くと、大抵はうまくいかないものです」
こう話すのは、ZOZOテクノロジーズのAIプロデューサーで『文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要』の著者として知られる野口竜司さんだ。
2019年4月に現職に就く前の約19年間、野口さんはイー・エージェンシーというデジタルマーケティング企業で、13もの新規事業を担当してきた。
現在のように「デジタルマーケティング」という言葉が普及する以前から、デジタル技術を駆使した様々なマーケティング支援の仕組みをつくってきた、事業づくりの達人だ。
そんな野口さんが、これまでの経験を通じて痛感してきたことが、冒頭の発言につながっている。
では、どうすれば時代の半歩先を行くようなビジネスに携わるビジネスパーソンになれるのか。野口さん自身は、どういう経験を積むことでAIプロデューサーという最先端の仕事ができるようになったのか。
影響を受けた書籍と共に振り返ってもらった。
立命館大学に入った当初は「広告代理店やメディア企業で働くのが楽しそう」と考えていた野口さんが、デジタル領域の仕事に興味を持ち始めたのは2000年前後のことだ。
在学中、フリーのデジタルクリエイターとしてアート作品を作る活動をしていたこともあり、大きな社会変容を起こしそうなインターネットの技術に魅力を感じ、ネットビジネスに関心を持つようになった。
「そんなタイミングで、もともと知り合いだったイー・エージェンシーの社長に『野口くん、ウチに来ない?』と誘われたのが、入社のきっかけでした」
他に就職活動はせず、「社長が信頼できる人だったから」という理由で入社したイー・エージェンシーは、当時まだ10人程度の会社だった。
そこから、海外事業を含めて200〜300人規模に成長するまでの間に、先述の通り13もの事業を育ててきた。
「今で言うUXデザイナーが行うようなインフォメーションアーキテクト(情報構造設計)のコンサルティングサービスや、レコメンドエンジンのSaaSサービス、ビッグデータ活用を支援するサービスを立ち上げたり。新しい事業を育てることに奔走し、事業化してきました」
他社がやっているビジネスをまねるだけでは勝てない。そこで、野口さんは常に「市場にまだないサービス」を模索し続けた。
「UXコンサルティングの事業を立ち上げた時も、当時、体系立ったノウハウがまとまっている書籍や参考サイトは日本にはほとんどありませんでした。なので、顧客と一緒にプロジェクト進めながら、自分たちの手法を体系化していきました」
新卒社員の頃から、会社の屋台骨を支える当事者意識を発揮してきたことは、野口さんのキャリアに大きな影響を与えている。
異なる事業を担当するごとに、新しい知識を学ぶ習慣が身に付いたからだ。
「ベンチャーのように、事業をニーズに合わせ、ピボット(業容転換)をしなければならない環境だと、『私はクリエイターだから営業はやらない』などと言っている余裕はありません。
会社が生き残るために、新しい事業を始めたら、それに必要な知見を得なければならない。だから、自然と多様な分野のプロになっていきました」
ただ、未知の領域に挑む時は、本を読むことも助けになる。実践と知識という2つの土台が、野口さんのその後の複合的なキャリアをつくった。