社会に価値を生み出す“仕事のプロフェッショナル”として活躍するには、職業への理解が必須だ。
しかしながら、社会人になるおよそ22年の間に、職業について理解を深める機会はそう多くないだろう。
社会の第一線で活躍する先輩たちは、自分の職業をどう定義し、どのような仕事論を持っているのか。
吉野家CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の田中安人さんは、自身の仕事を「本質的な課題を見つけ、解決する仕事」と定義する。
飛び込み営業からマーケターとしてのキャリアを切り拓いたエピソードを紐解き、マーケターに求められる素養を考えた。
マーケターという職業を僕なりに表すと、「本質的な課題を見つけ、解決する仕事」です。
日本マクドナルドの上席執行役員マーケティング本部長として活躍された足立光さん(現・ファミリーマートCMO)はマーケティングを「商売そのもの」と訳しましたが、その言葉が指し示す通り、何も販売促進だけを担う職業ではありません。
その実、僕の仕事は戦略PRから商品企画、組織開発まで多岐に渡ります。僕の吉野家CMOのミッションは、組織内のあらゆる仕事に顔を突っ込み、本質的な課題を見つけては、忖度や躊躇なく切り込むことです。
まだマーケターの肩書きを持つ以前、当時はなまるうどんで経営企画室長を務めていた河村泰貴(現・吉野家ホールディングス社長)に飛び込み営業をしました。
僕は広告エージェンシーを経営しており、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していた同社にお客さんになってもらおうと考えたのです。
まだまだ若造で勢いだけが売りだったものですから、四季報を読み込んで得た仮説をもとに、はなまるうどんの経営課題を話しました。
すると河村は「田中さんは生意気だけど、せっかくだから話を聞くよ。どうすれば、はなまるうどんは成長する?」と問いました。そのタイミングで、僕はイチかバチかの勝負で仮説を提言したのです。
すると河村は「田中さんのことが気に入った。今日から弊社の広告まわりを全て担当してくれ」と言って頂きました。
それからずっと広告代理店としてお付き合いをし、僕が自分の会社をつくって独立したその日に、河村から「うちに来い」とオファーをもらっています。
とはいえ会社をつくったばかりです。断りを入れたところ、「それならうちの顧問になってくれ」ということで、はなまるうどんのマーケティング部長になりました。
これが、マーケターという肩書きを背負った瞬間です。
ちなみにその後、河村が吉野家ホールディングスの社長になった少し後のタイミングで、僕も吉野家のCMOに着任しています。