「給料が上がらない」日本で、20代が市場価値を高める3つのヒント

2022年8月12日(金)

将来の市場価値を高めるために

日本の平均給料は、1997年をピークに上がっていない——。この悲劇的な現実を基に、原因と対処法をまとめた下の記事が、NewsPicksで多くの注目を集めている。

【完全図解】ニッポンの給料が安い 、5つの理由

会社に滅私奉公すればいずれ高給取りになれるという常識はとうの昔になくなっており、就活でも「知名度より自身の市場価値が高まる場所へ」という考えが一般的になりつつある。

近年の就職人気ランキングで、外資系コンサル各社やITメガベンチャーが上位に名を連ねるようになっているのも、将来の市場価値を気にする若者が増えていることの表れだろう。

だが、上の記事にある「給料を上げる3つの戦略」の中では、成長性の高い業種・職種に転職すること以外に「早いうちからマネジメント能力を鍛える」というアドバイスがある。個人的なスキルアップだけを追っていても、給料≒市場価値は上がっていかない。

そんな現実の中で、若い世代は何を意識すれば現状を変えられるのか。

本稿では、過去に掲載したJobPicks記事の中から、“給料デフレ”の全体傾向から脱するヒントを3つの切り口で探ってみた。

1. まずは「矢面力」を鍛える

はじめに紹介するのは、今年3月、パーソルキャリア「サラリーズ」の協力を得て作成した「年収800万円以上の人が持つワークタグ(仕事に限らず、人生においてやってきた経験とそこから得たスキル)」ランキングだ。

これは同社が蓄積した100万人以上の勤労者の職務経歴書を分析し、【年収800万円以上】の人が持つ経験に含まれるキーワードを抽出したランキングとなっている。

市場価値はこう決まる「年収800万円」以上の人が持つ経験ランキング

この結果を見ると、上記したようにマネジメントや事業運営関連のワークタグが多いことが分かるだろう。

若い年代のビジネスパーソンからすると、「管理職になってからじゃないと経験できない」と思うかもしれないが、そうとも言い切れない。

上で紹介した分析記事の中では、「矢面(やおもて)力」というキーワードで理由を説明している。

では、20代〜30代の時期からこうしたワークタグを手に入れるには、どんな動き方が求められるのだろうか。

正能さんは「矢面(やおもて)力」というキーワードを挙げながら、市場価値が高い人たちの共通項を説明する。

「事業の上のレイヤーからかかわろうとすればするほど、組織を超えて関係者の範囲が広くなり、利害が必ずしも一致しない中での調整が必要になります。つまり、複雑化していく業務の矢面に立って、調整し切れる人が求められる。

それらを遂行できる人の数は多くはない割に、どの業種・職種でも必要とされます。だからこそ市場価値が高くなるのです」

例えば、新卒から高給を得ることができ、クライアントの経営陣とやりとりしながら経営戦略に携われるという理由でコンサルタントが人気だが、高給となる理由にはさまざまな矢面力が含まれる。

想定通りに進まないプロジェクトでも、ゴールに向けて関係者を巻き込む。利害が異なる人がいても、時には「社会のため」という大義を示しながら動いてもらう。その上で、プロジェクトが終わっても成果が出るような組織体制をつくっていくetc……。

素晴らしい戦略を立案できるから高給なのではなく、人間関係も含めた複雑な調整業務をやり切るから高給を得られるというわけだ。

これはコンサルに限らず、あらゆる仕事に共通する。

そして、この矢面力を身に付けるには、どんなに小さなことでもいいので自ら仕事のPDCAを回す経験を“取りに行く”のが大切だ。

2.「売り上げ貢献」を考え抜く

この矢面力を重視する働き方について、中国生まれのグローバルメーカー「Anker」の躍進を支えるアンカー・ジャパン代表の猿渡歩(えんど あゆむ)さんは、下のインタビュー記事で次のように語っている。

【Anker代表】同世代の4倍成長する「35歳までの過ごし方」

アンカー・ジャパンに入社する前の私は、会社の看板を使って仕事をしていたと認めざるを得ません。それなりに評価された瞬間もあったかもしれませんが、会社を代表する社員だったわけではない。自分の名前だけで勝負できるかといえば、そうではなかった。

でも、当時日本では無名だったAnkerを成長させられれば、「猿渡歩」として、自分の名前で仕事ができる可能性があった。その可能性に賭けたのです。

学生の皆さんには、年収と市場価値はイコールではないということを知っておいてほしいです。上司が獲得してきた1億円の案件をサポートして年収1000万円をもらうことと、自分の名前で1000万円の案件を獲得することには、大きな違いがあります。

この案件は誰の名前で獲得できたものなのか、どうすれば自分にしか出せない価値を発揮できるのか。これを意識して働かない限り、再現性のある能力が身に付くことはないのです。

今もらっている給料のうち、どの程度が「会社の看板」によるものなのか。本質的な市場価値を高めるという意味では、この部分を理解しながら自らの経験・スキルを高めていく必要があるだろう。

そしてもう一つ、SNSを中心に「転職のカリスマ」として知られるmotoさんは、下のインタビュー記事で「売り上げに貢献する意識」こそが個人の市場価値を高めていくと述べている。

新卒では地元・長野県のホームセンターに就職しながら、そこからマイナビやリクルート、スポットライト(現:楽天ペイメント)など7社へ転職し、今は起業するまでになったmotoさんならではのアドバイスが詰まっている。

【moto】「10年で年収を50倍」にしたサラリーマンが語る、無理なく市場価値を上げる方法

僕の経験上、キャリアの土台をつくるのは、むしろ地味なことが多い気がします。SNSで情報発信をしていると、僕がとてつもない成果やとっぴなことをしてきたような理解をする人がいますが、完全に誤解です。

僕のキャリアは、ホームセンター時代から続く「売り上げに貢献する」というビジネスパーソンの基礎を積み重ねてきた結果です。

働いていると、どうしても楽な方を選びたくなるときがあります。でも苦しい方を選んだ方が、結果として得られるものは多いはずです。

「同じ給料で働くなら、与えられた仕事だけこなせばいい」などと考えてしまうと、仕事のスタンスがずっと受け身になってしまいます。

目先の時給や上司の評価を気にする以前に、プラスアルファの価値を出していくことが大切です。こうした姿勢を自分の中に持ち続けることがキャリアになっていくのだと思います。

売り上げに貢献するとは、具体的にどんな働き方なのかもインタビューに載っているので、ぜひ読んでもらいたい。

3. 年功序列の組織から抜け出す

最後に、ベストセラー本『転職の思考法』(ダイヤモンド社)などの著者で、就活情報サイト「ONE CAREER」を運営するワンキャリア取締役の北野唯我さんのアドバイスにも耳を傾けておきたい。

北野さんは下のインタビューで「就職によって得られる資産」について語っているが、その中で「年功序列の会社で働くのは(市場価値を高める意味では)おすすめしない」と述べている。

【北野唯我】就職で得られる「3つの資産」を賢く手にするヒント

理由はこうだ。

具体的にどうファーストキャリアを選んでいけばいいのか。

結論は、どこの会社がいいという話ではなく自分で選ぶのがベストなのですが、強いて挙げるとしたら、自分が尊敬できる、優秀だと思える人がなるべく多くいる会社に行くことをおすすめします。

「周りの5人の平均値が自分」という表現をよく耳にしますが、これは真実だと思います。ならば、自分の視座が自然に上がるような構造がつくれたほうが、得られるものが大きい。

ちなみに、私は以前、Sansan創業者の寺田親弘さんとの対談(以下参照)で、「年功序列の会社には行かないほうがいい」と話しました。

これも同じ理由で、本当に優秀な人は年功序列の会社にはいないから。正確にいうと、年功序列の会社に「居続ける合理的理由が何もないから」です。

【Sansan社長×北野唯我】22歳だったら、こんな会社は選ばない

1で挙げた「矢面力」を身に付ける仕事に携わる機会と頻度を考えても、年齢(社歴)を重ねないと責任ある立場で仕事ができないという環境はマイナスだ。

多くの大企業は、まだまだベンチャーに比べて給料水準が高いというのは事実だが、将来を考えて「目先の高給」を得るのが得策なのかはしっかり考えてキャリアを築いていきたい。

合わせて読む:【社名大公開】業界一、年功序列な会社はどこだ?

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