市場価値はこう決まる「年収800万円」以上の人が持つ経験ランキング

2022年4月25日(月)

高給を得る人の共通項は?

「サラリーズ」が持つキャリアデータの中でも、【年収800万円以上】の人が持つワークタグのトップ20を表にすると、次のような結果となった。

1位は「管理」、2位は「事業」、3位は「運営」で、他の上位タグを見てもマネジメントを想起させる言葉が並ぶ。

20代〜30代がキャリアアップの際に想像しがちな「専門スキル」より、チーム運営や事業運営にまつわるワークタグが多い理由を、正能さんは次のように説明する。

「一般的に年収アップという観点で見ると、自分1人で成果を出すこと以上に、チームとして成果を出せるかが問われます。だから、組織として力を最大化することができる経験を持っている人のほうが、年収も高くなるのです」

組織で働く以上、「チームで成果を出す」ための経験が評価されるというわけだ。

こう書くと、管理職としての経験が市場価値を高めると考える人がいるかもしれないが、必ずしもそれだけではない。

2位の「事業」や4位の「設計」の意味を深読みすると、そもそも「チームを統率・けん引する」仕事には2つの文脈があるからだ。

  1. 組織のリーダーとして仕事をする 

  2. 事業の上流から携わる

このうち、2に関する仕事は「課題を見つける」「戦略を立てる」「ルールメイキング」などもある。

「例えば新規事業でルールメイキングから携わるには、個人の成長だけを追うだけでは難しい。社内外の関係者とタフな交渉をして、利害関係が異なる他部署とも調整をしながら前に進んでいくことが求められるからです」

Photo:iStock/Natee Meepian

特に若い時期は、こうした経験は会社から与えられたタスクをこなすだけでは得られないと正能さんは言う。

「大学時代にハピキラFATORYでの活動を始め、今はパーソルキャリアでサラリーズという事業の責任者をやっている私も、最初から事業運営のノウハウを持っていたわけではありません。

まずは自分が事業を通して社会に実現したいことと、社会的にインパクトを出すための数字目標を考え、それを達成するにはどういうリソースが必要か?を逆算しながら社内外の人たちと交渉する。

例えばこんな動きは、『ポジションを与えられたからできた』というより、自ら事業の存在意義とその実現方法を考え続けたからできること。年齢は関係ないように感じます」

市場価値を上げる「矢面力」

では、20代〜30代の時期からこうしたワークタグを手に入れるには、どんな動き方が求められるのだろうか。

正能さんは「矢面(やおもて)力」というキーワードを挙げながら、市場価値が高い人たちの共通項を説明する。

「事業の上のレイヤーからかかわろうとすればするほど、組織を超えて関係者の範囲が広くなり、利害が必ずしも一致しない中での調整が必要になります。つまり、複雑化していく業務の矢面に立って、調整し切れる人が求められる。

それらを遂行できる人の数は多くはない割に、どの業種・職種でも必要とされます。だからこそ市場価値が高くなるのです」

例えば、新卒から高給を得ることができ、クライアントの経営陣とやりとりしながら経営戦略に携われるという理由でコンサルタントが人気だが、高給となる理由にはさまざまな矢面力が含まれる。

想定通りに進まないプロジェクトでも、ゴールに向けて関係者を巻き込む。利害が異なる人がいても、時には「社会のため」という大義を示しながら動いてもらう。その上で、プロジェクトが終わっても成果が出るような組織体制をつくっていくetc……。

素晴らしい戦略を立案できるから高給なのではなく、人間関係も含めた複雑な調整業務をやり切るから高給を得られるというわけだ。

逆に、それができないコンサルが会社に居づらくなるのはよく知られた話だ。

Photo:iStock/SARINYAPINNGAM

これはコンサルに限らず、あらゆる仕事に共通する。

そして、この矢面力を身に付けるには、どんなに小さなことでもいいので自ら仕事のPDCAを回す経験を“取りに行く”のが大切だ。

その具体的な方法を、正能さんは自チームの若手メンバーから「営業ではなく戦略立案の仕事に携わりたい」と相談された時のやりとりを例に挙げて説明する。

「そもそも『事業戦略を形にする仕事とは何か?』を因数分解して考えれば、チーム内の役割や肩書が何であれ、戦略立案から携わることができるようになると思うんです。

役割や肩書のWhatにとらわれず、やりたいことと業務をHowで結ぶ力が必要なのかもしれません」

正能さん自身、「サラリーズ」の事業責任者とはいえ、日々の業務の大多数が社内外での調整作業だという。

大事なのは、どんな全体像の中で、目の前の仕事をしているのかを分かっていること。それが見えていると、一つ一つの業務は調整作業でも、「点」がつながった先に戦略が実現される。

「会社員をしていると、やっている仕事そのものは自分の希望だけでは変えられないけれど、『何を実現するために、どこに向かうためにやっているのか?』から逆算できるようになれば、目の前の仕事へのアプローチを変えることはできる。

常に向かう先を考えて、日々の会議での発言を変えたり、求められていない仕事にも手を広げたりしていくことで、結果、事業の上流にも携われるようになるのだと思います」

専門職にも「組織貢献」が求められる

コロナ禍でリモートワークや業務のオンライン化が進む今は特に、「業務の効率化はしやすくなったので、それだけでは人材としての差別化ができなくなっている」(正能さん)。

だからこそ、組織でも事業でも上のレイヤーからかかわるために、自ら「より複雑な業務を巻き取りに行く姿勢がカギになる」そうだ。

Photo:iStock/peshkov

これは、金融系専門職やエンジニアなど、特定のスキル・知識が収入の高低を分けると思われがちな職業でも同じ。

「どんな仕事でも、社会や組織に高い価値を提供できる人の給料が上がるというのは変わりません。そしてこの『価値』を出すまでには、2つのプロセスがあるのです」

正能さんはこれを

  1. 価値を定義する 

  2. 価値をスケールさせる

だと説明する。業種や職種ごとに求められる価値を定義するには専門のスキル・知識が必要だが、価値をスケールさせるにはチームの力が必要となる。

だから、高給になる人たちのワークタグも、事業や組織運営にかかわる内容が多くなるそうだ。

以下のNewsPicks記事では、

の5職種に分けて、年収800万円以上の人が持つワークタグを紹介している。それぞれ何が違い、どんなタグが共通しているのか、チェックしてみてほしい。

【データ】職種別、「年収800万円以上の人のスキル」一挙公開

取材:佐藤留美、宇津木 風南、文:伊藤健吾、デザイン:堤 香菜、撮影:正能茉優(本人提供)