働く目的とは何か。人によって理由はさまざまですが、「働く」の語源は「傍(はた)を楽(らく)にする」、つまり自分以外の誰かのためになることが、働くことの本質だと私は思います。
この本質がぽっかり抜けたまま就活や仕事をすると、途中で「あれ、何のために働くんだっけ?」と目的を見失ってしまいます。
もっとも、誰かの役に立つことが目的だとすると、それはアルバイトも一緒のはずです。特に日本であればインフラも整っているので、アルバイトだけでも十分生計を立てられます。
では、アルバイトと就職は一体何が違うのか。結論からいうと、「差し出したものがどうなるか」が異なります。
そもそも、ビジネスや経済の大原則は「価値の交換」です。商売であればものとお金を、雇用であれば時間やスキルと賃金をトレードします。
そんな中、就労経験のない学生が唯一企業に差し出せるものは、「若さ」。具体的には、労働時間と体力です。
アルバイトはこの若さをそのまま差し出して消費するもの、就職は若さを「資産」に変える行為なのです。
では、就職で得られる資産とは何か。私は、大きく3つあると定義しています。
アルバイトの場合はこの「資産」をつくるのが難しい。仕事の性質上、時間の切り売りになってしまいやすいし、残念ながら体力はかならず年とともに衰えていってしまいます。
したがって、若さという資源を「資産」に変える手段として就職が有効なのだと思います。
ちなみに、価値の交換を通して資産や利益を得るという考え方は、投資の世界でよく使われます。VC(ベンチャー・キャピタル)は、これから成長するかもしれないスタートアップに対して1000万円とか、5000万円とか、場合によっては数億円を投資しますよね。
この金額は、スタートアップからしたら大金ですが、たくさんお金を集めてきたVCからしたら大した額ではない。でも、VCはエグジットした後のリターンを見据えているから投資をしますし、それが当たれば大金が入ります。
つまり、投資とは未来の価値と、現在の価値を交換すること。たとえ同じ1000万円でも、見る人や時間軸が違えばものの価値が変わる。この真理に早く気づいて、うまくレバレッジをかけられるかが、勝敗を決めるのです。
ですが、キャリアや人生にはROI(費用対効果:Return on Investment)だけでは測れない、いわば「感情的な価値」があります。
友情や愛情、他にも溢れんばかりの情熱や衝動など、数字や言葉では語りきれないその人の根底にある「思い」の部分とも言いかえられるでしょう。
私が思う一番望ましいキャリアは、ROIと感情、両方のバランスをうまく取りつつ、自分が幸せだと思える選択をする、というものです。
人はいつか死んでしまう。単純化して考えると、人間の営みは食べて、トイレに行って、寝る。これを80年、100年やって死んでいくので、効率だけを考えたら、今日ここで死ぬのが一番効率的になってしまいます。
でも、生きる喜びって、そういうことじゃないですよね。ROIを突き詰めて、仮に誰もがうらやむ会社に入ったとしても、やっぱりもう一方の「感情」が追いついていないと、ガタが来る。
だからこそ、キャリアを選ぶときは、ROIと感情のバランスが大事にしてほしいのです。
では、具体的にどうファーストキャリアを選んでいけばいいのか。
結論は、どこの会社がいいという話ではなく自分で選ぶのがベストなのですが、強いて挙げるとしたら、自分が尊敬できる、優秀だと思える人がなるべく多くいる会社に行くことをおすすめします。
「周りの5人の平均値が自分」という表現をよく耳にしますが、これは真実だと思います。ならば、自分の視座が自然に上がるような構造がつくれたほうが、得られるものが大きい。
ちなみに、私は以前、Sansan創業者の寺田親弘さんとの対談で、「年功序列の会社には行かないほうがいい」と話しました。
これも同じ理由で、本当に優秀な人は年功序列の会社にはいないから。正確にいうと、年功序列の会社に「居続ける合理的理由が何もないから」です。
もちろん、優秀の定義は人それぞれなので、まずは気になる会社の社員に会ってみて、自分がこうなりたいな、と思えるかどうかを確かめるのが一番でしょう。
人に会うことに加えて、もう1つお勧めしたいのが、その会社の商品やプロダクトに実際に触れてみることです。なぜか?
ホンダの創業者である本田宗一郎さんは、製品を通じて企業の本質が見えてくると話しています。
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取材・文:高橋智香、編集:佐藤留美、デザイン:すなだ ゆか、撮影:遠藤素子