出産・育児「ライフイベント」で働き方を変えたロールモデルの知恵

2022年3月8日(火)

仕事と育児の両立に唯一解はない

ZOZOで働く新井淳子さんは、子育てをしながら自分なりのワークスタイルを探してきた1人だ。「ZOZOCOSME」の企画営業を担当し、フルタイムで働きながら子育てにも奮闘している。

【時間術】ZOZOの営業に聞く、子育てしつつ「普通に働く」コツ

そんな新井さんは上の記事で、「仕事と家庭を両立したい思いはありながら、両立できていないというのが実際のところです」と語っている。

「もう少し家庭の時間があったらいいな」と思うこともありますし、「もっと子どもと過ごす時間があるとうれしいな」とも思います。

そんな本音を漏らす新井さんが大事にしているのは、「同時並行しない」ということ。

現在はリモートワークをする機会が多いからこそ、仕事と家事、育児を同時に進めることができる。しかし、それではメリハリが付かず、どれも中途半端になってしまうという。

新井さんも「子どもを迎えに行く途中に、仕事のメールを返したりしたくなる瞬間もある」というが、そこを我慢して目の前のことに集中するようにしてから、ぐっと効率が上がったそうだ。

また、1日の始めに、スケジュールを決めきることも大切にしている。家庭の時間と仕事の時間を明確に分け、そこにやるべきことを割り振る。すると、頭の中が整理され、迷いなくタスクに取り組むことができ、仕事とプライベートのどちらにも良い影響があるという。

新井さんは育児と仕事のバランスに悩む人へのアドバイスとして、「複数のロールモデルの“いいとこ取り”」を薦めている。

ロールモデルにならうことは一つの手段ですが、「自分にピタリと当てはまるロールモデルはいない」ということを前提にするのが重要だと思います。

例えば、子どもを育てながら営業としてバリバリ働く先輩がいたとします。そうしたスタイルに憧れることもありますが、自分が全く同じようにできるかといえば、そんなことはありえません。

子どもの性格はきっと違うし、仕事の役割や量も違うでしょう。

たとえ同じ会社で働く人でも、前提条件が全く一緒ということはないので、真似しようとすると、かえって苦しくなってしまうと思います。

ですから、私は、「仕事はこの人」「育児はこの人」と、複数のロールモデルの“いいとこ取り”をするようにしています。

子どもがいる生活を前提にしていても、子どもがいない人のワークスタイルが参考になることは、往々にしてあるのです。

多忙な女性の「1日の時間割」に学ぶ

続いて、アドビのマーケティング担当バイスプレジデントを務めながら、3児の母として育児もこなす秋田夏実さんの働き方を紹介しよう。

下の記事では、秋田さんの「1日の時間割」を基に、両立のコツを聞いている。

【CMO】仕事と子育て、どう両立する? アドビ副社長の答え

時差の関係で米国本社との会議が入るため、秋田さんの仕事は7時には始まる。

朝から夜までぎっしりと詰まったスケジュールだが、基本的には12時〜13時の間は家事をするために、18時〜21時の間は家族と過ごす時間として、どんなに忙しい時でも、ミーティングなどの仕事を入れないように調整しているという。

子どもたちに食事をつくり、お風呂に入れ、宿題の面倒を見る。時には、家事をしながら日中参加できなかったミーティングの録画を流し、議事録を読んで気になった部分を補足することもあるそうだ。

週2〜3回、信頼できる方に家事代行をお願いすることもありますが、気分転換としてのこの時間を大切にしています。例えば、あらかじめ野菜を切ってもらっておいて、最後の仕上げは自分でやるといったケースが多いです。最近は在宅ワークが中心なので、家事をできる時間がとれるのはありがたいです。

秋田さんいわく、家事をしている間は唯一脳が休まる「くつろぎの時間」。オンタイムは多忙を極めることもあり、起床後とお昼、夕方の数時間は意識的に頭を切り替える。

オンとオフの切り替えを意識的に行うことで、仕事にも良い影響を与えているのだ。

秋田さんほどのバイタリティとエネルギーを持って日々を過ごせる人は少ないかもしれないが、自分の1日の過ごし方を工夫すれば、何か1つでも、挑戦できることが増えるかもしれない。

産休をキャリアを振り返る好機に

次に、産休・育休を取ったことが、その後の仕事観に強い影響を与えたというワーキングウーマンの記事を紹介したい。

クリエイティブの力をビジネス・デザインに応用しながら、コンサルティング的なアプローチでクライアントの中長期的な事業展開を支援している電通ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)の西井美保子さんだ。

【コンサル】電通の新職種「ビジネス・デザイナー」とは

西井さんは上の記事で、次のように語っている。

自分の中で考え方が明らかに変わったと感じたのは、30代を迎えた時です。私は31歳で子供を授かり、産休に入ったのですが、その前後で内省したことで仕事感が大きく変わりました。

西井さんのファーストキャリアは、リサーチャーとして若者やギャルの消費動向を研究すること。自分の興味と重なったこともあり、「電通ギャルラボ」や「電通若者研究部(電通ワカモン)」を立ち上げたり、『パギャル消費』(日経BP)という書籍を出版するなど大活躍であった。

しかし、異動によって、職業がリサーチャーから事業開発に変わり、担当する案件も全く違う分野になったことで、仕事の勝手が分からず最初は戸惑いがあったという。そんなタイミングと産休が重なり、自分自身とゆっくり向き合う時間が良い方向に働いたそうだ。

内省を経て、これまでは自分の興味・関心が働く原動力になっていたが、出産を経て「自分以外のチームメンバーが輝ける場所をつくりたい」という思いが強くなったという。

BDSでも、私とは違う専門性を持つタレントを、もっと外に出したいという考えるようになってから、私自身もポジティブに今の仕事に取り組めるようになりました。

また、内省の時間を経て、社内でもクライアントにも、「嘘をついてはいけない」と強く感じた。

代理店業をやっていると、クライアントだからと「これは素晴らしい」と過度に褒めたり、関係性を構築するために建前で話すことが多いが、ビジネス・デザインの仕事は、本音で話さないと、課題が発見できず、結果として将来のマネタイズにも悪い影響を与えてしまう。

これらは、産休で一度職場から離れて、時間を取ったからこそ気付き、今の仕事観の柱になっている。

ライフイベントに「備える」働き方

最後に、将来のライフイベントに備えてファーストキャリアを選んだFinTのCEO・大槻祐依さんの記事を紹介する。

【大槻祐依】いま22歳なら、市場性よりも好きなことで起業する

大槻さんは、結婚や出産といったライフイベントを考えると、「28歳までにある程度のキャリアを確立させておきたかった」そうだ。

そのため、就職活動では、OB・OG訪問で50人以上の話を聞き、できるだけ28歳の人に会わせてもらっていたという。

当然、業界や企業の規模によって、事情が異なり、例えば大企業では、28歳はまだまだ「下積み」で資料作成に追われていたが、スタートアップの28歳は企業を担う「中核」の存在になっており、そこに魅力を感じた。

最終的には、28歳までは失敗してもいいから思い切り好きなことをやろうと決意し、起業という選択を取る。

ライフイベントに対して、企業やOB・OGはどのように向き合っているのか、大槻さんのように直接聞いてみることで、自分のロールモデルとなる存在が見つかるかもしれない。

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