【大槻祐依】いま22歳なら、市場性よりも好きなことで起業する

2021年6月24日(木)

成功の秘訣は「好き」への執着

—— 大槻さんは学生時代に会社を創業しています。これまでの経験を踏まえ、もし22歳に戻れるとしたら、どのようなキャリアを選びますか?

まずは、自分が「心から好きだ」と思えることを探して、その「好きなこと」で起業します。

私は昔から、世の中に大きな影響を与える仕事がしたいと思っていたんです。

「起業家」という職業には、多くの人に影響を与えるチャンスがあります。

ですから、ファーストキャリアを考えるタイミングに戻ったとしても、また起業の道を選ぶと思います。

—— 「好きなこと」にこだわるのはなぜですか? 

「好きじゃないこと」で事業を興して、結果を残せなかった苦い経験があるからです。

現在はInstagramの運用を軸にSNSマーケティング事業に取り組んでいますが、起業当初はフィンテック事業を運営していました。21歳の頃です。

若者向けのマネー系メディアと、給与の前払いサービスの事業を立ち上げたのですが、いずれも軌道に乗らず、1年もたたずにクローズしています。

うまくいかなかった理由はいろいろあるのですが、一番大きかったのは、そもそも私自身が「フィンテックに強い興味がなかった」からだと思います。  

「ビジネスチャンスがあるかも」という理由で始めたがゆえに、事業への熱量も維持できず、苦しいタイミングで踏ん張ることができませんでした。 

逆に、ピボット(方針転換)してつくった女性向けメディア「Sucle」は、立ち上げから順調に伸びました。 

2017年にオリジナルアカウント「@sucle_」をリリースし、現在は姉妹メディアを含め約65万フォロワーを獲得している。

おかげさまで、現在は約65万フォロワーを有する、国内でも有数の“インスタメディア”に成長しています。

さらに、Sucleの運用で得たノウハウを生かして、企業のSNSマーケティングを支援するBtoB領域の事業もスタートしました。

当時の私に「今後はInstagramが成長するだろう」といった見立てがあったわけではありません。

時流に乗れたのは間違いありませんが、「おしゃれやファッションが好き」という自身のピュアな動機で立ち上げたことが、大きな成功要因だったと思っています。

起業との出会いは「たまたま」

—— そもそも、なぜ「起業」をしたのですか?「好きなこと」をやっている会社に入るという手もあります。

もちろん、起業だけが選択肢だとは思いません。  

私が起業という選択肢を知ったのは本当にたまたまで、大学1年生のときに受けた「起業家養成講座」という授業がきっかけでした。  

受講した理由も、いわゆる「楽単」だと聞いたからです。

でも、授業を受けるうちにどんどん楽しくなって、夜中までプレゼンの準備をしたこともあります。  

一緒に受けていた友だちは「やっぱり楽単だった」と言っていましたが、本気で取り組んだ私にとってはハードな授業でした(笑)。  

でも、やっぱり好きだから頑張れたんだと思います。  

—— 「好きなことなら熱量を持って続けられる」の原体験ですね。  

その通りです。  

おかげで、その授業の成績優秀者だけが参加できる「シリコンバレー研修」のチケットを手に入れることもできました。  

GAFAのような、アップカミングなテック企業を見学する研修だったのですが、シリコンバレーに行って、起業家という存在がぐっと身近になりました。 

シリコンバレーは、多くの起業家が拠点を構える街です。研修中、「隣に座っていた人がたまたま起業家だった」という場面もあり、日本と比べて海外では起業が身近な選択肢であることを身をもって体感しました。  

当時の私にはビジネスのアイデアはありませんでしたが、とにかく起業について学びたい一心で、帰国後はベンチャーキャピタル(VC)の門を叩きました。  

長期インターンとしてジョインしたEast Venturesでは、多くのことを学びました。  

ビジネスモデルの考え方や、資金調達の仕組み、ピッチのトーク術はもちろん、なにより「起業家」という仕事への解像度が格段に深まりました。  

ビジネスを通して世界を変えてやるんだ、と意気込む起業家たちと接するなかで、私も起業をしてみたい、という気持ちが強くなっていったんです。

28歳の自分を想像してみる

—— それで、起業の世界に飛び込んだわけですね。21歳と言えば就職活動をスタートする年齢ですが、就活はしなかった?

実は、起業する前に本気で就活していました。

広告代理店や大手人材企業でも起業でもインターンをしましたし、特にOB・OG訪問は誰にも負けないくらい気合いを入れてました。  

人づてに紹介してもらい、50人以上は会ったと思います。  

そのときに決めていたのは、できるだけ28歳の人に会わせてもらうこと。  

結婚や出産といったライフイベントのことを考えると、28歳までにある程度のキャリアを確立させておきたかったんです。  

その会社の28歳の人を見れば、ある程度はキャリアの見通しが立ちますよね。  

—— 実際に会ってみて、どうでしたか?

業界や企業の規模によって、まったく事情が違いました。 

例えば大企業では、28歳はまだまだ「下積み」という感じで、資料作成に追われていました。 

一方、スタートアップの28歳は企業を担う「中核」の存在になっていて、責任範囲も大きかった。  

大企業でしかできないことも確かにありますが、私はできるだけ若いうちに経験を積みたかったので、就職するのであればスタートアップだな、と。 

最終的には起業という道を選びましたが、28歳までに経営に参画するくらいの意気込みでスタートアップに就職するのは、アリだったかもしれません。  

でも、自分の事業がうまくいっていなくて不完全燃焼でしたし、やっぱりシリコンバレーやVCインターン時代に出会った起業家たちの姿が忘れられませんでした。 

とりあえず28歳までは、失敗してもいいから思い切り好きなことをやろう。そう思って、起業に踏み切る決意をしたんです。 

「好き」の核を取り出す

—— そのようにして今の道を選び取った大槻さんですが、今22歳の人にアドバイスをするとしたら、どんなことでしょうか?

「とにかく好きなことをしたほうがいい」とアドバイスしますね。  

振り返ると、私の22歳は、人生の暗黒期でした。  

フィンテック事業をクローズしたばかりで、未来に希望が持てずにいました。  

周りの同級生は就職して、就職先でやる気に満ちて働いているのに、自分は新しい事業のアイデアも見つからず、古びたコワーキングスペースで寝泊まりする毎日。

キラキラした周りと自分とを比べて、「自分だけ、一生このままなのかな」と不安な気持ちで過ごしていました。

でも今は「あのとき踏ん張って、自分の好きな事業でリスタートしてよかった」と心から思います。

——  一方で、「好きなことが見つからない」という学生も多いです。どうしたら、大槻さんのように「好きなこと」が見つかりますか?  

今朝もちょうど就活中の後輩から、「好きが見つからない」「就活が終わらない」と相談を受けました。  

でも、その子に「どんなことに興味があるの?」と聞くと、たくさんの関心分野が出てきたのです。  

つまり、「就活」にとらわれているだけで、好きなことは誰にでもきっとあるはずなんです。  

また、仕事の輪郭を捉えられていないと、「好き」と「仕事」を結びつけることができません。  

そういう人にまずやってほしいのは、仕事そのものの解像度を深めること。  

私がOB・OG訪問でやっていたのも結局はこれで、たくさんの社会人に会うことで、働くってどういうことなのか、なんのために仕事をするのかを明確にしていました。  

だから、まずは親からでもいいので、とにかくたくさんの人の話を聞いてください。  

そのうち、仕事がどんなものかが見えてくるし、直感的に「自分には向かないな」ということも分かります。  

—— それらを除外するだけでも、かなり選択肢が絞り込まれます。  

そうなんです。  

それでも本当に手がかりがないなら、身の回りから「好きなこと」を絞り込んでいくといいでしょう。  

一番簡単なのは、自分がなにに一番時間を使っているのか、なにに熱中できるのかを棚卸しすること。  

それが直接仕事とつながらないなら、「なぜ熱中できるのか」を考えて、「好き」の核を取り出すんです。  

例えば、SNSを見ることに時間を使っている人は、センスのいい写真を見るのが好きなのかもしれないし、誰かと会話することが好きなのかもしれません。  

そこまでの「核」が見つかったら、具体的な「仕事」の選択肢が生まれると思いませんか?

起業でも就職でも同じなのですが、大切なのは「まずはやってみる」ことです。  

特に、起業に関して言えば、10年前とくらべて若手でもチャレンジしやすい環境になっています。  

若い起業家の成功例が増えてきて、資金調達もしやすくなっているし、テクノロジーも格段に進化している。  

自分でコードが書けなくても、ノーコードツールを使えば簡単にサービスをつくることだってできます。  

考え込む前に、まずは行動してみる。それが、結果に差をつけていくのではないでしょうか。 

—— 逆に、手を動かさないと、なにも始まらないというわけですね。

その通りです。  

そして、自分で手を動かした経験は、絶対無駄にはなりません。 

私は、アップルの創業者・スティーブ・ジョブズをリスペクトしています。 

彼は間違いなく、世界にインパクトを与える仕事をした人ですし、私のロールモデルの一人です。  

最後に、常に私の背中を押してくれた、ジョブズの言葉を皆さんにも贈ります。

Connecting the dots——あなたが今頑張っていることは、いつか成功につながります。  

やってみて、やっぱり違うなと思ったら、別のことをしてもいいんです。その経験もまた、将来のチャレンジに役立つ「ピース」になるはずです。

【漫画連載】成績ビリの私が「最高の起業家」になる物語

取材・文:齋藤知治、編集:高橋智香、デザイン:岩城ユリエ、撮影:遠藤素子