【証言】A.T. カーニーでの経験は「次のキャリア」にどう生きたか

2021年8月13日(金)

A.T. カーニー(KEARNEY)の特徴

A.T. カーニー(グローバル・ブランド名:カーニー)は、1926年に米国シカゴで創立されたグローバルな戦略コンサルティングファームだ。

同社のWebサイトによると、2021年現在、世界41の国と地域でコンサルティングを提供しており、63拠点に約3600名のスタッフを擁している。

近年はビジネスのデジタル化などを背景に、コンサルティング業界のあり方も変わりつつあるが、A.T. カーニーの強みは何なのか。

特徴を知る一つのトピックとして、2020年1月、同社史上最年少の38歳で日本代表に就任した関灘茂さんのインタビューを見てみよう。

関灘さんは下の記事で、A.T. カーニーを「尖った個人」の集団だと述べている。

【A.T. カーニー】最後は「尖った個人」の勝負だ

また、「尖った個人」を重視するのは社内だけでなく、社外の「尖った個人」とも協業しながら、プロジェクトに応じてベストチームをつくることに妥協しないという。

こうして組成されるプロジェクトチームで活躍できる人の特徴として、3つの共通点があるとも説明している。

各領域の一流と言われる方々は、【1】論理的思考能力が高く、【2】本質を捉える習慣を持ち、【3】人の感情やデザインに対する理解も深いものです。一見大きく異なるようですが、実は似ているとも思います。 ── 【A.T. カーニー】最後は「尖った個人」の勝負だ

では、こんな環境で経験を積んだA.T. カーニーのコンサルタントは、退職後にどのようなキャリアを歩んでいるのか。

JobPicksに登録しているロールモデルの経歴をもとに、退職後のキャリアをまとめる(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。

他社で経営コンサルタントを継続

A.T. カーニーを”卒業”してからのキャリアとして、まず考えられるのは他のコンサルティングファームで経営コンサルタントを続けるパターンだろう。

この仕事を通じて身に付く問題解決力やロジカルシンキングは、普遍的でポータブルなスキルだ。それゆえ、場所を問わず、経営コンサルタントを続ける人は少なくない。

卒業生の1人である藤熊浩平さんは現在、スポーツマネジメントなどを手掛けるコンサルティングファーム、フィールドマネージメントでパートナーを務めている。

東京大学大学院を修了後にA.T. カーニーへ新卒入社し、同じ戦略コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)を経て現職という経歴だ。経営コンサルタント一筋のキャリアを歩んでいる。

藤熊 浩平藤熊 浩平

藤熊さんは、経営コンサルタントの仕事で一貫して重要なのは「バリュー(提供価値)ベースで仕事をする」ことだとコメントしている。

バリュー(提供価値)ベースで仕事をする

「そろそろ、タスクベースではなく、バリューベースで仕事をしてみようか」 これは、私が新卒2年目の時に、当時のメンターだった人からいただいたアドバイスです。 私は新卒でコンサル業界に飛び込んだので、最初の1年は、ただ目の前の与えられた仕事に全力投球して、相手の期待値を超えることで精一杯の日々でした。 この時の「仕事」とは「タスクをこなす」ことで、今振り返ると当時の自分は、「便利な作業屋」になっていたと思います。 学生あがりだった私は、まだ何者でもなく、誇れるのは体力くらいだったので、コンサルスキル以前のビジネススキルを身につけるのに必要な期間だったとは思います。 ただ、この仕事の本分は、クライアントを介して世の中に新たな価値をつくり出していくことで、その目的のために目の前のタスクや作業がある、というのが本来の順序です。 そんな当たり前のことに、改めて気づかせてくれた言葉でした。 「バリューベースで仕事をする」、言うは易しですが、実際の行動に移すにはハードルがあります。 まず、そもそも何がクライアントや世の中にとっての「バリュー(価値)」になるのか、がクリアになっている必要があります。 その上で、自分がどういう活動に、どれだけの時間を使えば、どれくらいのペースで価値が積み上がっていくのか、が分かって初めて、リソース配分ができるようになります。 そういう意味では、今もなお、「バリューベース」で仕事ができているか、日々模索中ですが、その意識を持つことで、仕事に向き合う姿勢は間違いなく変わります。 「タスクベース」で仕事を受けると、「How(どうやるか)」が気になります。そのタスクありきで、いかに効率的にこなすか/いつまでに終えられるか、が関心事になるからです。 「バリューベース」で仕事をすると、「What(何をすべきか)」や「Why(なぜすべきか)」が気になります。最終的に価値につながる仕事でないと、意味がないからです。 時が経ち、私がチームを率いて、メンバーをマネージする立場になった時、先ほどの言葉をいただいた人から、また貴重なアドバイスをいただきました。 「メンバーを、スキルセットの集合体と捉えるか、バリューの集合体と捉えるか、それによってマネジメントの仕方は変わるよ」 コンサルファームでは、各コンサルタントは、プロフェッショナルとして日々成長が求められ、「Development needs」という言葉がよく飛び交います。 そうして、コンサルスキルのレーダーチャートのパイを、大きく、正多角形に近づけていこうとします。 なので、ともすると、コンサルタントを「スキルセットの集合体」と捉え、あれはできている/これはできていない、というような見方をしてしまいがちです。 他方、コンサルファームに集うメンバーは皆個性豊かで、好きなこと・得意なこと、情熱を傾けられるもの・夢中になれるもの、それぞれです。 プロジェクトも、クライアントの業種や取り組むテーマ、働き方など、さまざまです。 マネジャーの仕事は、チームとしてのバリュー(提供価値)を最大化することです。 そのためには、「スキルの塊」としてではなく、意思や感情を持った個性豊かなメンバーの力をいかに最大限引き出すか、そして、それを価値に転換するために、彼ら・彼女らを含めたチームとクライアントとの化学反応をどうデザインするか、が重要だということを教わりました。 世の中に対する「バリュー(提供価値)」を日々意識しながら、それに貢献しうる/矛盾しない仕事を、これからもしていきたいと思います。

これは、新卒2年目に、A.T. カーニーの先輩コンサルタントからもらったアドバイスだそう。一人一人が結果に責任を持つ「尖った個人」の集団だからこそ、語り継がれている助言ともいえる。

自ら経営を担うCxOへ転職

次に紹介するA.T. カーニー卒業生のネクストキャリアは、「CxO(経営業務の最高責任者となる職)」になるパターン。クライアントの事業戦略やビジネスモデルづくりを支援する経験を、自ら実践する立場で生かす形だ。

北野雅史さんは、慶應義塾大学の経済学部を卒業し、新卒から約8年間、A.T. カーニーに在籍。その後、1904年創業の老舗花屋である青山花茂本店に転職し、2019年からCEO(最高経営責任者)に就任している。

北野 雅史北野 雅史

> 北野雅史さんの経験談を読む

また、現在AIベンチャーのWACULでCFO(最高財務責任者)を務める竹本祐也さんは、ゴールドマン・サックス証券のアナリストやA.T. カーニーでのコンサル経験から得た知識を生かして財務の責任者となった。

竹本 祐也竹本 祐也

そんな竹本さんは、プロフェッショナルなCFOとして必要な能力を、「空・雨・傘」の思考とコメントしている。

経済環境や事業領域の変化を「空を眺める」ように見続けながら、一方で事業やプロダクトの現況がどういった数値に表れるかも把握し、「雨が降った時に傘を差す用意」をしておくべき、ということだ。

「空・雨・傘」の思考で、傘を差しだせる存在になる

CFOは参謀として兵站を担うものである、ということをよく言われます。 CFOはCEOの参謀です。CEOは常に非連続な成長を求めます。しかし、“非連続な”成長だからと、偶発的に起こってラッキーだ、起こらなかったのは残念だと、環境に身をゆだねるは間違いです。その偶発的とも思える”非連続なもの”が起こる可能性をあげるためのアセットの調達から配賦までを、リスク・リターンに目を光らせならが行うのが、CFOの役割だと思います。 実現可能性をあげるためにCFOが行うことは「空・雨・傘」の思考です。 CFOは「空を眺める」ように、マクロ環境はもちろんCOOからの現場報告や、実際にトラックしているKPIなどの変化をみます。 そして、そこから戦況の行方を予想します。例えば、新しい事業が好調に推移しているとします。今までの事業に比べると運転資金が大きくなるその事業が、順調に拡大していることで、運転資金の回転期間が長期化しているとします。ビジネスモデルやKPIの状況を鑑みれば、キャッシュが心もとないくなるのではないか、これはまさに「雨が降ることを予想する」ことです。 キャッシュがないからと順調に拡大する事業の拡販をとめるというのはおかしな話です。そのため、財務基盤強化のために資金を調達し、なんならさらにその事業を後押しするような先行投資の資金も集めてくるようなことが、「傘を用意する」ことです。 上記を実現するために、ビジネスサイドではなくとも、事業やプロダクトそのものの理解を深め、そしてそれらの現況がどういった数値に表れるかを横断的に把握し、外部とのコミュニケーションも行うことが求められていると感じます。そのため、自分の管掌するコーポレート部門を超えて、ビジネス部門はもちろんのこと、株主や金融各社、提携先など社外のステークホルダーと密にコミュニケーションをとることを強く意識しています。 すべては、まわりのステークホルダーに価値を届けることに通じます。CFOはその価値を生み出す起点となるべきだと信じています。

竹本さんの取材記事を読むと、このような思考は、A.T. カーニーで数多くのプロジェクトを経験する中で身に付いたものだと分かる。

【竹本祐也】私をゴールドマン、コンサル、スタートアップに導いた5冊

事業企画・事業開発職に転職

さらに、A.T. カーニーのコンサルタントから事業企画・事業開発に転じるパターンも多いという。

JobPicksのロールモデルの中では、クラウドファンディングのREADYFORで事業開発を行う中山貴之さんが、このパターンに当てはまる。

東京大学大学院を修了し、2013年から約6年間A.T. カーニーで働いたのち、READYFORに転職している。

中山 貴之中山 貴之

中山さんは、今の仕事でやりがいを感じる点として、「無限の選択肢の中から“これだ!”というものを取り出す感覚」を挙げる。

サービス設計したとき

個人によってかなり好みが分かれるのだろうと思うのですが、 僕の場合は

「コンサルタントと事業会社の仕事は別物」と指摘する人がいるのは事実だ。しかし、中山さんのコメントを読むと、コンサルタントとして身に付けた分析や戦略構築の知見は、自ら実践する立場になっても生かせるものだと推測できる。

その際、具体的には「論点思考」が生きると話すのは、A.T. カーニーを経てOYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN(現OYO Japan)の事業開発職に転じた経験を持つ菊川航希さんだ。

下で紹介する菊川さんのコメントを読むと、コンサルタント時代に学んだ論点思考は、事業会社に移ったあとも必要不可欠だと分かる。

論点思考

「仮説よりも論点」 戦略コンサルタントというとどうしても、ロジカル

経営コンサルタントと事業開発それぞれで必要なスキルという意味で、これから経営コンサルタントを目指す人や、コンサルタントから事業会社への転職を目指している人にとって、キャリア選択の参考になるコメントだ。

UXやデータ分析のプロになる人も

ここまでに紹介したキャリアパターンは、どれも「企業経営」や「事業推進」にかかわるものだったが、最後に少し意外なキャリアも紹介しよう。

JobPicksのロールモデルの中には、A.T. カーニーを卒業したのち、UXやデータ分析のスペシャリストになる人が散見されたからだ。

例えば現在、通信教育サービスのワンダーラボで事業マネージャーを務める鳥居亜紀さんは、三菱商事から中途採用でA.T. カーニーに入ったのち、同社にUXデザイナーとして転職している。

鳥居 亜紀鳥居 亜紀

> 鳥居亜紀さんの経験談を読む

また、浜崎皓介さんは早稲田大学大学院の先進理工学研究科を修了して新卒でA.T. カーニーに入り、その後はリクルートでデータサイエンティストの仕事に従事している。

浜崎 皓介浜崎 皓介

> 浜崎皓介さんの経験談を読む

浜崎さんと同じく、データ関連のスペシャリストに転身した人として、矢守亜夕美さんのケースもある。

矢守さんはコンサルティングファームと事業会社を行き来するキャリアを歩んでいるが、新卒入社したA.T. カーニーの次は、グーグルのデータアナリストに転じている。

矢守 亜夕美矢守 亜夕美

3人とも、経営コンサルタントとして企業戦略の最上流を見てきたからこそ、その実行に密接にかかわるUXやデータ分析の仕事にも適応できたのだと推察される。

特に矢守さんは、下の取材記事で次のように語っている。

コンサル時代は、どうしても事業に「手ずから」携わったことがないのがコンプレックスでした。(中略)だから、事業会社に入って、いわゆるプロダクトやサービスをゼロからつくり、動かすモノづくりに携われたのは、貴重な経験でした。 同時に、一つ気づいたことがあるんです。それは、コンサルタントは何か特定のプロダクトをつくるわけではないが、「ストーリーテリング」という一種のモノづくりをしているということです。 ── 【座右の書】脱・競争社会をつくりたい。負けず嫌いの東大卒コンサルを変えた5冊

【座右の書】脱・競争社会をつくりたい。負けず嫌いの東大卒コンサルを変えた5冊

このコメントから、矢守さんには、関灘さんが尖った個人の共通項として挙げる「本質を捉える習慣」が身に付いていたのだと読み取れる。

A.T. カーニーでの経験が、その後のキャリアに広がりを与えたともいえるだろう。

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