【座右の書】脱・競争社会をつくりたい。負けず嫌いの東大卒コンサルを変えた5冊

【座右の書】脱・競争社会をつくりたい。負けず嫌いの東大卒コンサルを変えた5冊


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目次

経営コンサルタントは、企業の課題を特定し、その解決策を提案・実行するプロフェッショナルな職業だ。


しかし、特に若手のコンサルタントほど、「事業を動かした経験が少ない」「特定の業界への専門知識は身につきにくい」といった悩みを抱えているのも事実。


サステナビリティ戦略の構築に強みを持つコンサルタント・矢守亜夕美(やもり・あゆみ)さんも、そうした悩みの中で、自らキャリアを切り拓いてきた一人だ。


大学卒業後、戦略コンサルティングファームのA.T. カーニー(グローバル・ブランド名:カーニー)に就職。その後グーグル、スタートアップを経て、デロイト トーマツ コンサルティングにて再びコンサルの門を叩いた。


現在は人権・サステナビリティ戦略に強みを持つオウルズコンサルティンググループで働いている。


事業会社を経て、再度コンサルに戻ったのはなぜか。また、サステナビリティという自身の専門テーマを見つけた経緯とは。


キャリアの節目に読んだ5冊の書籍とともに、これまでの仕事人生を振り返ってもらった。

矢守亜夕美さん 経歴

まずは「飛び込んで」判断する


── コンサルから事業会社に行き、またコンサルに戻るというキャリアは、戦略的に築いてきたものですか?


むしろその逆で、悩みながらキャリアを築いてきました。


今でこそサステナビリティ戦略を軸に、クライアントの経営戦略の提案・実行を支援していますが、20代の頃は自身の強みややりたいことさえ、つかめていませんでした。


サステナビリティ戦略とは

主に社会・経済・環境の3つの観点から、企業活動を良好で「持続可能」な状態に保つための戦略のこと。 脱炭素やサプライチェーンでの人権配慮といったトピックを取り扱う。


新卒でA.T. カーニーを就職先に選んだのも、学生時代に、自分が一生コミットしたいと思う事業や業種が絞りきれなかったから。


ならば、経営やビジネスの汎用的なスキルが身につきそうな戦略コンサルに入ろうと考えたのです。


その後も、どこなら自分の介在価値を最大化できるのか、どんなテーマなら一生をかけて取り組みたいと思えるのか。それを見極めるために、さまざまな企業で働いてきました。


── これまでのキャリアを振り返って、転機はどこにあったのでしょうか?


転機は、2つあります。


1つは、A.T. カーニーから2社目のグーグルに転職したことです。


4年ほど在籍したA.T. カーニーでは、仕事の右も左もわからない状態から、プロジェクトの重要なパートを任せてもらえるまで、社会人としての基礎を叩き込んでもらいました。


今から10年前の戦略コンサルなので、働く環境は幾分ハードでしたが(笑)、ひたすらに目の前の仕事に打ち込んでいましたね。


オウルズコンサルティング矢守亜夕美さん-image1
Photo:iStock / Prostock-Studio

一方で、あまりにも前だけを向いて仕事をしてきた結果、キャリアに対して、近視眼的になっているという焦りもありました。


そこで一度立ち止まって、コンサル以外の選択肢も見てみたいと思うようになりました。その矢先、たまたまグーグルの方にお声がけいただいたこともあり、転職することにしました。


── グーグルではどんな仕事をしていたのですか?


法人向けのセールス部署で、業界アナリスト兼マーケティングコンサルタントとして働いていました。


ユーチューブやグーグルの広告プロダクトをクライアントに提案したり、広告運用効果のデータを分析してその後の戦略を立てたりする仕事です。


仕事はとても充実していたのですが、さらに小さな組織でも力試しをしてみたいという気持ちが湧いてきました。


そこで、4年後に社員100名程度のスタートアップに転職。経営企画のポジションで、会社の経営計画の策定からバックオフィス業務まで幅広く取り組みました。


ここで、2つ目の転機が訪れました。スタートアップから、再びコンサルティングファームのデロイトトーマツ コンサルティングに転職したのです。


スタートアップでの仕事は刺激的で、事業や組織を主体的に引っ張っていく経営者の姿を間近で見ることができました。


彼らにリスペクトを感じる一方で、私はそういう立ち回りより、参謀的な立場でいろいろな企業の経営者と並走するほうが性にあっているな、と感じるようになったんです。


そこで、もう一度コンサルの世界に戻ってチャレンジしよう、と決意を固めました。


「モノづくりコンプレックス」を解消


── コンサルから事業会社に転職し、再びコンサルへ。それぞれの転機で、環境を変えることへの不安はなかったのですか?


もちろん、ありました。ですが、それ以上に自分に合う仕事や職場とは何かを早めにクリアにしておきたかったんです。


個人的に、キャリアで最も大切なのは「一度選んだからといって、その選択肢に固執しないこと」だと思っています。


その考えを支えているのは、グーグルに転職するときに1社目の上司にもらった『きみの行く道』(河出書房新社)という絵本です。



この絵本は、ピュリッツアー賞などの受賞履歴もある、著名なアメリカの児童文学作家・ドクター・スースが86歳のときに書いた作品です。


一見すると子ども向けの絵本なのですが、実は大人でも勇気づけられるフレーズがたくさん載っています。


「新しい選択をして環境が変わるとき、あなた自身も変わっていくのだから大丈夫。不安に思うことはないので、どんどん前に進みなさい。そして、違うと思ったらいつでも方向転換していいんです」


こうしたメッセージが、語りかけるようなイラストとともに展開されています。


この本を読んで以来、不安があったとしても、まずは一度新しい環境に飛び込んでみよう。そんなマインドセットが、身についた気がします。


── それで、環境を変えてきたと。ただ、事業会社とコンサルでは仕事の内容が相当違ったのではないでしょうか?


まず、両者は仕事における時間軸がまったく違います。


事業会社では、中長期的なサイクルで結果を出すことが求められます。時には、10年、20年単位で大きな目標を打ち立てることも珍しくありません。


一方、コンサルはプロジェクトの期間が限られているので、短期間でアウトプットを出す必要があります。これは、どちらが難しいという話ではなく、どちらが好きかどうかの問題です。私は、短期間でアウトプットを出すほうが向いていました。


それから、事業会社でサービスやプロダクトの立ち上げ経験を積めたのは財産でした。


というのも、私はそれまで、なんとなく「モノづくり」に対するコンプレックスがあったんです。


── モノづくりに対するコンプレックス、ですか?


コンサル時代は、どうしても事業に「手ずから」携わったことがないのがコンプレックスでした。これは、多くの若手コンサルタントが持つ悩みでもあります。


もちろん、戦略の実行フェーズまでお手伝いはします。ですが、クライアントと同等に「当事者」として、長く事業に関わり続けられるかというと、それは難しい。


だから、事業会社に入って、いわゆるプロダクトやサービスをゼロからつくり、動かすモノづくりに携われたのは、貴重な経験でした。


同時に、一つ気づいたことがあるんです。それは、コンサルタントは何か特定のプロダクトをつくるわけではないが、「ストーリーテリング」という一種のモノづくりをしているということ。


それに気づいたきっかけは、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが書いた書籍『ホモ・デウス』(河出書房新社)を読んだことです。


ホモ・デウス

『ホモ・デウス』は、『サピエンス全史』(河出書房新社)とともに、世界的にベストセラーになった作品です。


人類の誕生から、現在までに至るまでの2000年以上の歴史および展望を、上下巻にコンパクトにまとめています。その内容は重厚ですが、文章はどうかというと、歴史書とは思えないほど詩的でダイナミック。


言葉だけでここまで大局観を表現できるのかと、感動を覚えました。


同時に、コンサルタントの仕事も、言葉と仮説、そしてストーリーテリングで社会に大きなインパクトを与えられるのでは、と考えるようになりました。


── コンサルタントの「ストーリーテリング」とはどういうものでしょう?


たとえば、私は企業のサステナビリティ戦略のコンサルティングを担当しています。


でも、経営層へのオリエンテーションや企業研修の場で、単に「サステナビリティが大事ですよ」といっても、ほとんど響きません。数字やデータを淡々と並べてサステナビリティ戦略の必要性を訴えても、どこか他人事になってしまうものです。


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Photo:iStock / courtneyk

ところが、こちらの語り方次第で伝わり方は一変します。


「ビジネスにおいて、QCD(クオリティー・コスト・デリバリー)という『旧来型のものさし』が支配する時代は終わりました。これからはSDGsという新たな指標が重要になってきます」


「 ちなみにSDGsというのは、世界の覇権争いで米中に遅れをとった欧州から生まれてきた面もありましてね……」


などと、ストーリー仕立てで説明していくと、がぜん興味を持ってもらえるんです。


この本を読んで以来、提案やプレゼンテーションをする際は、いっそうストーリーテリングを意識するようになりました。


「強さ」が「優しさ」になる社会をつくりたい


── サステナビリティや社会課題をテーマにしたいと思ったのはなぜですか?


グーグル時代の経験が大きいですね。


グーグルは、タイバーシティに富んだ組織で、さまざまな人が働いていました。国籍や人種の多様さはもちろん、LGBTQの方や障害のある方がインクルーシブに働いていて、自分の視野の狭さに気づかされる機会が多くありました。


一つ、忘れられない経験があります。


入社したての頃にあったチームの飲み会で、同僚から「ちなみに僕はゲイなんですよ」と、いたって自然にカムアウトされたのです。


あまり慣れないシチュエーションだったので、とっさに自分の口から出てきた言葉は「そうなんですね、全然…...」でした。


そこで、ハッと口をつぐんだんです。「全然」の次に、私は何を言おうとしていたんだろう、と。


「全然気にしないですよ」もおかしいし、「全然そう見えないですね」も違いますよね。


我ながら、自分の発言の配慮の至らなさにショックを受けました。「こんな時に返すべき言葉すら分からないのか」と恥じ入ったのです。


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Photo:iStock / sdominick

そこから、狭い世界の中で、自分だけの小さなものさしで物事を測っていたことに気がつきました。


── 小さなものさしで、物事を測っていたとは?


それまでの私は、大学受験や戦略コンサルファームでの競争など、いわゆる弱肉強食の環境に積極的に身をおいてきました。


図らずも、「勝ち負け」や「優劣」で物事を判断するきらいが強くなっていたようです。


生まれが地方の母子家庭で、あまり裕福でなかったこともあり、生育環境や自身に関するコンプレックスが強い側面がありました。そして、いつしかそれを力でねじ伏せて、「下剋上」でのし上がってやるんだ、という意識にも囚われてました。


ですが、グーグルで自分の小ささを知った経験から、「なんて競争ばかりで、優しくない世界で生きてきたのだろう」と省みたのです。


そして、もっとありのままに人々が暮らせる社会を実現するべきではないか、ただ強い者が勝つのではなくもっと優しい社会を作りたい、と考えるようになりました。


これは、グーグル時代に読んだ『反応しない練習』(KADOKAWA/中経出版)という本にも影響を受けています。


反応しない練習

原始仏教の出家僧の方が書いた書籍なんですが、さまざまなことに「反応しない」ことで、悩みや苦しみから解放されると説いています。


というのも、怒りや悲しみといったネガティブな感情は、ささいなことに「反応してしまった」結果かもしれません。


また、我々はどうしても目の前のできごとに反応したり、判断したりしていくなかで、どんどん執着にまみれてしまいます。


私に定着していた「勝ち負け」による判断や執着も、この本を読むと、そうした悩みを生む最たる例、だということがわかります。


たまたま手にとった本でしたが、本では「外資戦略コンサルティングで働いていて、日々の競争や勝ち負けにとらわれて幸せじゃない人」の話も出てきて、まったく他人事には思えませんでした。


人生は競争ではない。そして、人間一人一人に優劣はないのだから、仕事でも誰かのお役に立てればそれでよしなんです、と本からメッセージを受け取り、その通りだなと。


もっと、優しくて誰もが住みやすい世界をつくるために仕事がしたい。そう考えるようになりました。


「経済合理性」はデザインできる


── そこで、社会課題にアプローチしようと考えたわけですね?


はい。今勤めているオウルズコンサルティンググループは、社会課題解決へのアプローチをクライアントとタッグを組んで行うので、ぴったりだなと感じています。


新たなルールメイキングや政策提案、NPO/NGOとの連携などを通して、ビジネスの面から人権や環境などの問題の解決に取り組んでいくのです。


最近読んだなかで、普段の活動へのインスパイアを受けた本があります。それが、『マイノリティデザイン』(ライツ社)です。


マイノリティデザイン

著者は、澤田智洋さんという広告代理店出身のコピーライター。彼は、息子さんに視覚障害があるとわかって、以来マイノリティの「弱さ」を「強み」に変えられないかと考えていたそうです。


その筆頭が、澤田さん自身が提唱する『ゆるスポーツ』。身体差があっても誰でも楽しめるような「ゆるい」スポーツをつくる取り組みです。


たとえば、「イモムシラグビー」という競技があります。イモムシのような入れ物に入って、ラグビーを行うのです。


イモムシラグビー
出典:世界ゆるスポーツ協会Webサイト

ここでは足が速い、背が高いなど、従来のラグビーにおける身体的な優位性は通用しません。


逆に、普段車椅子に乗っている人のほうが、イモムシラグビーでは強い。毎日手を使って車椅子を漕いでいるから、筋肉も仕上がっているし、這う動きのコツも分かっているのです。


このように「弱さを強さに変えるルールのデザイン」というのは、我々が打ち出している考え方とも重なるので、とても共感しましたね。


── 弱さを強さに変えるルールのデザイン。ビジネスに置き換えるとどうなるのでしょうか?


たとえば、児童労働をなくしたいのではあれば、企業に頭ごなしに「児童労働はいけません」というのではなく、どうすれば児童労働がなくせるのか、ルール自体を変えていくのが効果的です。


企業が児童労働をさせればさせるほど、その結果できた製品を輸出する際の関税が高くつく、つまり「コストがかかる」社会になったら、誰もしなくなるはず。


例えば関税のルールをデザインしていくことで、企業にとっての経済合理性が根本から変わり、社会が変わるはずなんですね。


これを、私たちは「経済合理性のリ・デザイン」と呼んでいます。


今注目されている、ESG投資も近いですね。環境に対して優しい会社のほうが強くなる、資金が集まりファンもついてくる、そういうルールをつくることが大切なのです。


プロをプロたらしめる「唯一」の条件


── これまでの経験を踏まえて、コンサルを目指す学生や若手のコンサルタントに向けて、コンサルタントの必須スキルがあれば、アドバイスをお願いします。


コンサルタントとして、求められるスキルやマインドセットがあるとしたら、まずは「プロフェッショナリズム」だと思います。


この考えの根底にあるのは、『G戦場ヘヴンズドア』(小学館)というプロの漫画家を目指す高校生たちの姿を描いた漫画です。


G戦場ヘヴンズドア

ファーストキャリアであるA.T. カーニー時代、この漫画を読んで、何度も奮い立たされました。


作中のセリフである「読者はあんたのファンじゃないのよ。がんばって読んでくれるなんて思わないことね」という言葉は今でも思い返しています。


資料作り一つとってもそうです。クライアントの立場に立って、どんな見せ方をするのが一番わかりやすいか、メッセージのコアが伝わるのかを考え抜く。


「これくらいの完成度でも読んでもらえるだろう」と甘えて作った資料って、やっぱり見ただけでわかるんですよ(苦笑)。でも、それはプロの仕事とは言えません。


思うに、プロをプロたらしめる要素とは、究極的には「プロたらんとする意思」でしかないんですね。


もちろん、スキルや知識なども必要な条件ではありますが、その前提としてプロフェッショナリズムを持てるかどうか。それを備えているのが、真のコンサルタントだと思います。


── ありがとうございます。ここまで、さまざまな本を紹介してもらいましたが、フレームワークの解説書など「コンサルっぽい本」がないのが印象的です。


もちろん、そういう本も読むには読みます。


ですが、小手先のテクニックに終始してしまうこともあるので、そればかりに固執するのは良くないかなと思っていまして(笑)。


それよりも、先ほど申し上げたストーリーテリングだったり、言葉の価値を認識させてくれる書籍だったりのほうが、私は好きですね。


先人たちが試行錯誤しながら絞り出したエッセンスを読み、そこから自分の人生のスタンスを決めていく。本は、その羅針盤になると思います。


JobPicks未来が描ける仕事図鑑_01

取材・文:高橋智香、編集:佐藤留美、デザイン:黒田早希、撮影:矢守亜夕美(本人提供)

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