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【CFO】私をゴールドマン、コンサル、スタートアップに導いた5冊

  • アナリスト・エコノミスト
  • 経営コンサルタント
  • CFO(最高財務責任者)

この記事に登場するロールモデル

ゴールドマン・サックスのアナリストから、A.T. カーニーのコンサルに、そして企業のマーケティングのDX(デジタルトランスフォーメーション)を手掛けるスタートアップWACULのCFO(最高財務責任者)として、上場を目指す──


竹本祐也さんのキャリアは、絵に描いたようなエリートのプロフィールに見える。


だが意外にも、就活では苦労続きだったと明かす。

竹本祐也さんの経歴

もともと、経営のプロフェッショナルになりたいというボンヤリとした夢は抱いていた。そのため、コンサル会社とマーケティングで有名なP&Gを受けようと決めた。


「でもP&Gはインターンの手前で落ちましたし、その後に受けた外資系コンサル会社も1社は筆記で落とされ、2社目は1次面接で、3社目は2次面接で玉砕しました。4社目も落ちたあたりから、『東京にネズミは何匹いると思う?』なんて質問をしてくる意地悪な業界は願い下げだと、残りの2社は一次面接を“寝ブッチ”してしまいました(笑)」


そこで目指した新天地が証券業界だった。実は中学時代から投資をしていたほどの株好きだ。運よく、日系証券会社でインターンになった。


「この仕事は面白い。これを自分の仕事にしたい」


最後にたどり着いたのが、職種別採用を行っていた外資系金融機関で、唯一エントリーシートが日本語だったゴールドマン・サックス証券(以下、GS)だ。ここも、インターンに応募したものの落とされた会社だった。


GSの採用試験は面接の回数が多いことで、つとに有名だ。


苦手な英語力に対して、「できる?」と聞かれた時は焦った。


「苦し紛れに、京都大学の学生の平均値くらいですね、と答えると、では、試しに英語で話してみようと、英語で『週末は何をしていますか?』と聞かれてしまいました」


I go to GUSTO with my friends!


と答えるのが精一杯で、この時は「絶対に落ちた」と思った。


だが、後に聞いたところ、日本語による論文の評価が高く、無事採用された。


「ラッキーだとホッとしましたね」


迷ったら危険な道をゆく 


GSといえば、金融機関の頂点に君臨する企業だ。それだけ年収も、仕事量も凄まじいイメージがある。


「私は何かを選ぶ時、あえて危険な道を選んだほうが面白いと考えます」


だからこそ、雇用が安定した国内証券会社ではなく、パフォーマンスや市況によっては解雇もあり得る“危険な道”を選んだ。


「こうした思考に大きな影響を与えてくれたのが、画家の岡本太郎さんが書いた『自分の中に毒を持て』という本です」


人間はほんとうは、いつでも二つの道の分岐路に立たされているのだ。この道を取るべきか、あの方か、どちらかを選ばなくてはいけない。迷う。

一方はいわばすでに慣れた、見通しのついたみちだ。安全だ。一方は何か危険を感じる。もしその方に行けば、自分はいったいどうなってしまうのか。不安なのだ。しかし惹かれる。ほんとうはそちらの方が情熱を覚えるほんとうの道なのだ

──『自分の中に毒を持て』より


歓喜と驚きに満ちた人生を歩みたければ、自分で掴みとれ──同書はそんな、力強いメッセージで溢れている。


「関西出身なので、大阪にある『太陽の塔』やそれを作った岡本太郎さんの存在は知っていました。『芸術は爆発だ!』の人だ、と。だからこそ、大学生の時、書店でこの本を見つけ、タイトルにピンと来て購入し、一気に読みました」


その偶然の出会いが、人生を変える「座右の書」になった。


「敵は他人ではなく現状に甘えようとする己だとか、モノマネ人間になるなといった岡本太郎の考え方に共鳴しました。もともと私の中にあった価値観が言語化された感覚でした」


読後、ますます「人とは違う、変わった人間になりたい」と思うようになったと語る。

 「ハゲタカ」になりたい


ゴールドマン・サックス証券を選んだことは、小説『ハゲタカ』の影響も大きい。2007年にNHKでドラマ化され、2018年にはテレビ朝日でも再度ドラマ化された人気経済小説だ。

新装版 ハゲタカ

「私も『ハゲタカ』になりたいと思いました(笑)」


ここで言うハゲタカとは、破綻寸前の企業を安値で買取り、再建させた後に売却する投資ファンドのことだ。屍肉を漁るハゲタカのイメージから、そう呼ばれた。


当時の『ハゲタカ』の読者やドラマの視聴者は、拝金主義の投資ファンドと対決するメガバンク勤務の主人公に感情移入したものだ。でも、竹本さんは違った。


「ハゲタカの仕事に対してプロフェッショナルなところに憧れたんです。冷徹に見える行動の背景に、日本のことを救おうという信念が感じられたことにも共感しました。メガバンク勤務の主人公との対決も、世の中を良くしようというアプローチが違うだけで、喧嘩をしながらもお互いへの信頼はある、というのがカッコ良かったですね」


劇中、“ハゲタカ”は、買収する企業の財務を徹底的に分析するなどロジックを優先する一方で、日本の伝統技術を守るため破綻寸前の会社を守るといった行動を見せる。


「情熱とロジックの両方を兼ね備えた仕事があるのだと、俄然、興味を持ちました」


もっとも、新卒ではなかなか投資ファンドに行けない。ファーストキャリアとして、GSで株式アナリストになるのは、悪くない選択だと思った。2008年のことだ。


「入社後は素晴らしい上司と先輩に恵まれました。担当業界も、社業が多岐にわたる商社や、テレビ広告エンタメやネット企業など面白い業界ばかりで、毎日、刺激的に過ごしていました」


ところが、入社して半年ほどで「100年に一度」と言われた金融危機、リーマン・ショックが勃発。


この流れを受け、社内にリストラの風が吹き、派閥争いなどギスギスした雰囲気が蔓延するようになった。


そもそも外資系金融機関では、メンバーがどんな仕事のどのポジションに就くか、昇進や給料も上司の力次第、という側面が大きい。とりわけ、有事においては、社内での競争が激化することは想像に難くない。


「尊敬していた上司や先輩が去った後は、さみしい気持ちでいっぱいでした。そんな中、私の担当セクターも鉄鋼業界に変わりました。技術革新が起こりにくく、シクリカル(=景気連動型)の業界です。株式アナリストとしてのワクワク感が減ってしまいました」

コンサルにリベンジ


こうした理由から、次第に転職を意識するようになった。その候補として再浮上したのが、就活で連敗させられたコンサル業界だった。


「あれほど自分とは合わないと思ったのに、リベンジしたいという、単純な欲が湧きました(笑)」


愛読する『ハゲタカ』に登場するスタートアップの起業家が魅力的に見えたことも、もう一度、経営のプロを目指したいとの思いを駆り立てた。


こうして、就活時に“寝ブッチ”した経営コンサルティング会社の1つであったA.T. カーニーを受け直し、2013年に転職した。「ジュニアなポジションからの再スタートでした。給料は3分の1ぐらいになってしまいましたが、いわゆる外資金融の派手な暮らしはしていなかったので平気でしたね」


コンサルティング業界では、よく「仮説思考」が大切だと言われる。


「コンサルは顧客の経営課題に対して、決められた期間内に答えを出すことが仕事であり、対価はその期間に応じて支払われます。だから最速で優れた答えを出す必要があり、そのためには仮説思考が必要なのです」


限られた情報をもとに、まずは課題の解決に向けた仮の結論(仮説)を作り、それに基づいて実行と検証、修正をする──


転職してすぐは、この仮説思考をものにするのに苦労した。


「アナリスト時代は逆に、マクロ経済の状況、市場の状況、競合情報などを集め、それをもとに、深く掘る考え方がよしとされ、その思考法が得意でした」


ところが、コンサルの先輩から「まず、その思考をアンラーニング(捨て去り、学び直すこと)しろ」と指摘された。


その時勧められたのが、マッキンゼーのコンサルタントから脳神経科学の研究者となった安宅和人さんが書いたロングセラー本『イシューから始めよ』だった。

イシューからはじめよ

「著者は闇雲にデータにあたって、いつか解にたどり着くだろうとする、効率の悪いアプローチを“犬の道”と形容し、そこからを脱する必要があると説いています。私自身まさに“犬の道”に嵌っていました」


同書で言う「イシュー」とは、「2つ以上の集団の間で決着のついていない問題」であり、「根本に関わる、もしくは白黒はっきりしていない問題」の両方を満たすものだと定義される。


このイシューについて、著者は「考える」ことと「悩む」ことは全く違うと主張する。

「悩む」=「答えが出ない」という前提のもとに、「考えるフリ」をすること

「考える」=「答えが出る」という前提のもとに、建設的に考えを組み立てること

──『イシューからはじめよ』より


そして、仕事において「悩む」ことはバカげたことで、ビジネス・研究ですべきは「考える」ことであり、あくまで「答えが出る」という前提に立たなければいけないと説く。


「コンサルとしての車の運転の仕方と、証券会社のアナリストとしての運転の仕方はまるで違う。この本で、新しいドライブテクニックを覚えたぐらいの感覚でした」


幸運にも、面倒見のいい上司から、定例ミーティングを行うたびに1時間ほど”個別授業”もしてもらえた。


「おかげで、50メートル先ではなく1キロ先(長期的な)の『To Doリスト』を作ることの大切さや、その作り方、ロジカルシンキングに代表される物事を”構造化”する技術が身に付きました」


それらができるようになると、今目の前にあるイシューと別のイシューを混同しなくなる。


以来、「頭の中に入ってくる情報を格納する箱をイメージするようになりました」と振り返る。


「いっぺんにいろんな情報が入ってきたとしても、トマトが来たとしたら、野菜だから野菜の箱にしまおう。牛肉は肉の箱に入れよう。不意をついてポッキーが来たら、『あ、お菓子もあるんだ』と、お菓子の箱を用意しようという思考形式に変わりました」

「イシュー」のある・なしで変わる思考法
編集部が作成

イシューを起点に、論点を分解し、それぞれの論点に対する回答の仮説を立て検証をする。当然、仮説が正しいと証明されることもあれば、間違っていることもある。その場合は、また仮説を立て直す。


こうしたステップの繰り返しにより、仕事の精度が格段に上がった。


主に、通信業界やデジタルサービスの新規事業立案やテクノロジーを駆使した中長期成長戦略などを担当したが、その内容も面白く、仕事は軌道に乗り、短期間でマネージャーに昇進することができた。

一生、コンサルにいるべきか


コンサルは、よく言われるように「Up or Out(昇進か、さもなくば退場か)」の世界だ。


マネージャーになると、今度は「その次」はどうするかという話になる。


「 マネージャーの上は、パートナー(役員)といって、プロジェクトを売る仕事を目指すことになります。運よく、30代そこそこでパートナーになれたとしても、その後、ずっとパートナーをやり続けたいか自問しました。そして今なら、まだコンサルとは全く違うことができると思ったのです」


「全然違うこと」の魅力的な選択肢として浮上したのが、スタートアップのCFOになることだった。


金融アナリストとしての経験で得た、深い財務スキルや資金調達のノウハウに加えて、経営コンサルとして学んだ仮説思考や経営知識という武器もある。


経営の実践者として、スタートアップに飛び込むなら今ではないか──


そんな思いが交錯する中、竹本さんが転職の決断をする背中を押したのは、またしても本の存在だった。


ナイキの共同創業者で前会長だったフィル・ナイトが書いた、ナイキ創業物語の『SHOE DOG』だ。

SHOE DOG(シュードッグ)

「世界は馬鹿げたアイディアでできている。歴史は馬鹿げたアイディアの連続」

──『SHOE DOG』より


ナイトは、自分も馬鹿げたことをやらかそうと、20代の若さで単身神戸に乗り込み、品質に惚れた日本メーカーの運動靴をアメリカで売りまくった人物だ。


ところが、日本メーカーは、自社製品がアメリカで売れることを知るや否や、いきなり協力関係を反故にし、会社は資金難で破綻寸前に……。


訴訟、仲間割れなど相次ぐトラブルに心が折れそうになりながら、ナイキを創業、”靴の紐”を結び直す、というストーリーだ。


「もともとスタートアップの創業物語が大好きで、フェイスブック、アマゾン、ツイッターなど、たくさんの企業の本を読んできました。SHOE DOGもそうですが、会社の立ち上げ期に起きるドロドロが、私にとっては『なんて刺激的なんだ!』と思えたのです」


そろそろ、危険な道を選ぶ時期かもしれない──


「何かを選ぶ時、あえて危険な道を選ぶ」という信条が、心の中でこだました。

思わぬ偶然からCFOに転身


竹本さんがCFOを務めるWACULの代表取締役CEO大淵 亮平さんは、京都大学時代のゼミの後輩で、もともと知り合だった。


「当時の大淵は、経営参謀を採用しようと、求人サービスのWantedlyでそれらしい人が多そうな会社を検索していたそうです。その中の一つにDeNAがあり、たまたま私がWantedlyに『将来やりたいこと:横浜DeNAベイスターズを買いたい』と書いていたので、検索に引っかかったらしく(笑)。そんな偶然から私を思い出し、メッセンジャーで『竹本さん、うちのCFOにどうですか?』と連絡してきました」


キャリア形成についての有名な研究に、「個人のキャリアの8割は偶発的な出来事によって決まる」というものがある。竹本さんにとって、旧知の後輩から久しぶりに来た連絡は、まさに偶然の転機だった。


「人生は1度きりなので、やりたいと思ったことは、直感に従ってやってみよう」と、入社を決めた。


「COO(最高執行責任者)のポジションだったら、自分以外に適任者はたくさんいると思いましたが、アナリストとコンサルの両方を経験した私が競争優位性が発揮できるのはCFOだと思ったし、今後、その価値は上がると感じました」


実際、CFOは、コロナショック後、労働市場からのニーズがますます高まっている仕事の一つだ。


消費者の需要の減少や、サプライチェーンの変更、従業員や取引先の働き方の変化などにより、経営を取り巻く環境が目まぐるしく変わっている。


そんな中、CEOとタッグを組んで、経営のポートフォリオを見直したり、デジタル化を推進するなどして生産性を上げるような役目が求められている。


竹本さんは、現代的なCFOと、従来の財務・経理部長の違いをこう説明する。


「CFOは経営者の1人です。会社の財務を管理するだけではなく、今は攻める時か、逆にUターンするべきかと言った経営判断を下して、会社を連続的な成長に導くのが役目です。とりわけ私の場合、株式アナリスト、コンサル出身なので、今後、上場を目指すWACULにとって、企業価値を高め、様々な資金調達手法を提案したり、金融市場の投資家や株主を説得することができる、と考えました」


 だが、いざ入社してみると、会社は混沌の極みだった。


「今月の売り上げがいくらなのか、月次決算を締めてみなければ分からないぐらい、何も整っていない状況でした。GSやA.T. カーニーのような専門会社とは違い、多様な役割の人がいるため、文脈が違う人とコミュニケーションを取るのにも四苦八苦しました」


また、スタートアップはとにかく人手が少ない。竹本さんの守備範囲は、財務や経理に限らず、人事や組織課題の解決など多岐にわたる。かつての仕事との違いに、戸惑うこともしばしだった。


だが竹本さんはその違いを、前向きに受け止めている。


「たとえるなら、アナリストは会社の評論家。経営コンサルタントは、会社を良くしようとするアドバイザー。一方、CFOは会社の舵を握るCEOの伴走者です。日本にインパクトを与えるような大企業を自分で経営したいという思いがあるので、その目標への距離がだんだん近づいているな、と実感しています」

「トラブル解消オフィサー」


CFOという事業を実行する立場になる段階でも、本に学んだことは大きい。


中でも竹本さんが勉強になったと言うのが、『日本企業初のCFOが振り返るソニー財務戦略史』だ。

日本企業初のCFOが振り返る ソニー財務戦略史

「CFOという仕事は、その役割が曖昧です。ただ、海外進出を成功させソニーをNYSE(ニューヨーク証券取引所)の上場に導いたCFOだった著者は、CFOの役目を事業戦略と財務戦略を結びつける『企業価値の番人』だと定義しています」


GEのデニス・ダマーマン元CFOが、当時のCEOであったジャック・ウェルチに「Chief Financial Troubleshooter」と渾名を付けられたというエピソードも印象に残った。


竹本さん自身、WACULで何かトラブルがあれば真っ先に対応する”トラブルシューター”だからだ。


「スタートアップでは、日々、何かしらのトラブルが起きるものです。私は自分が手を動かして、何とかすることが、全く嫌いではないので、火が立つところには自然に行っています」

やりたいことの抽象度を上げよ


評論家からアドバイザー、そして経営の実践者へ


最初から意図してそのようなキャリアを作ってきたつもりはない。


だが、自律的にキャリアをつくっていくには、「自分が興味があることを抽象化して考える」ことが大事だと話す。


「例えば、ゲームが好きだからゲーム会社に就職しようという動くのは、ちょっと短絡的です。もう少し自分の価値観を掘って、問題解決が好きだからゲーム好きなのかもしれないと抽象度を上げて考えてみる。すると、コンサルにも向くかもしれないといった思わぬ適職に出会えるかもしれません」


思考の抽象度を上げる上で有効なのが、やはり本の存在だと語る。


「本の何が良いかというと、様々な人の追体験ができることです。多様な人の体験を知ることで、自分の本当の思いが言語化できる、という点でも、本を読む意義は大きいと思っています」


自分はどの人のどんな部分に感動したのか、あるいはなぜ心が動かなかったのかを知るだけでも、「自分を知る」ことの一助になる。


自分が本当にやりたいことは何かを理解できないことには、望みのキャリアは手に入らない。


本がそのきっかけを与えてくれる、ということは竹本さんが、今、心の奥底で求めていた刺激的な人生を送れていることが証明している。


(取材・文:佐藤留美、編集:伊藤健吾、デザイン:九喜洋介)


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