電通を支えるクリエーティブ力の源とは?現役&元社員に聞く企業文化
2022年1月12日(水)
博報堂と並ぶ日本最大手の広告代理店で、就職先としての人気も高い電通。その規模や存在感から「広告界のガリバー」とも呼ばれる。
2022年1月には、電通グループ社長に五十嵐博さんが就任。デジタル領域の強化を発表したことや、コロナの影響による2020年の赤字から黒字転換するなど、さらなる成長が見込まれる。
事業内容としては、企業の戦略プランニングやブランディング支援を行うマーケティング事業、テレビCMやグラフィック広告を制作するクリエーティブ事業、メディア戦略の立案を行うメディア事業など幅広く展開している。
「我々はもはや、広告会社だと思っていない」。電通で取締役副社長を務める榑谷典洋さん(取材当時。2022年1月、電通社長に就任)は、以下の記事でこう語っている。
【電通】我々は、もはや広告会社ではない2017年には企業コンサルティングを行う「電通ビジネスデザインスクエア」を立ち上げるなど、広告代理店とコンサルティング業界の境目はなくなりつつあるようだ。
榑谷さんによると、電通が提供するコンサルティングは、業務効率化やシステム化(DX)だけでなく、事業の存在意義から問い直し(BX)、顧客体験まで意識して(CX)売上を上げることにコミットしているという。
この業容拡大の中で、広告宣伝の変革(AX)は売上を出す手段の一つとなっている。

従来型のコンサル企業が行ってきた戦略・プロセス構築だけではない、コンテンツ制作力やプロデュース力が電通にはある。だからこそ、広告とコンサルが融合したサービスを実現できるのだろう。
しかし、こうした大胆なモデルチェンジや、就職・転職先としての人気とは裏腹に、「激務」といったマイナスイメージを持つ人がいるのも事実だ。
そこで今回は、JobPicksに経験談を投稿するロールモデルの中で、現役の電通社員と元社員の声を基に、仕事のやりがいや苦労、働き方に見る組織風土を探ってみた(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。
電通への就職・転職を考える際の参考情報として読んでもらいたい。
電通のみならず、広告業界の仕事には「激務」というイメージがある。
実際に、クライアントワーク中心でクリエーティビティが求められる環境では、良いアイデアが出るまで1日中考え抜く「生みの苦しみ」があるようだ。
現在、カヤックでクリエイティブディレクターを務める阿部晶人さんは、新卒で電通に就職した当時の苦労を生々しく語っている。
言葉でのアドバイスとはちょっと違うのですが、、 新人の頃、コピーを書く仕事があり、当時活躍していた数年上の先輩コピーライターと一緒に遅くまで2人でコピーを書き続けたことがありました。決め手に欠けたので、その日に出たコピーは一旦寝かせて翌日の朝9時にもう一度2人でそのコピーを眺めて検討会議をすることになり、お互い終電で帰宅しました。 新人だった僕は、その日にベストなコピーを出し切れなかったことが悔しくて、夜中も新しいコピーを考え続けました。そのコピーを早朝に会社に行ってパソコンでシート化(当時パソコンは会社にしかなかったので)し、先輩に再アタックしようと目論んだ訳です。 翌朝5時の電車に乗って会社のある築地駅で降りるときに、なんと、その電車に先輩も乗っていたことに気づきました。てっきり9時前ぐらいに来るのかと思っていたらどうやら先輩も同じことを考えていたらしく。 まだ人のいないオフィスでお互いに苦笑いをしたのは良い思い出です。先輩なのに変わらず自分を追い込んで努力し続けていることに衝撃を受けて、以降の僕の行動規範になっています。 今もその先輩コピーライターは大活躍しています。きっと見えない努力をし続けているのでしょう。
こうした苦労を乗り越える原動力は何なのだろうか。
電通の現役コピーライター阿部広太郎さんは、顧客ヘのプレゼンを通じて自身の提案が相手に伝わったと感じた瞬間に心が震えるという。
話を聞き、考え、言葉にし、提案する。 プレゼンテーションする時に、
阿部さんは自身のnoteでも、「恵比寿じもと食堂」の発足支援をした時のエピソードを紹介しているが、アイデアを総動員して顧客との関係性を築いたことに喜びを感じたという(参照エントリ)。
どの仕事も同じだが、クリーティブな作業に生みの苦労は付き物なのだ。
では、電通全体としての組織風土はどうだろうか。
電通社員の思考法と、昔から語り継がれる有名な「鬼十則」に、組織内部の価値観を理解するポイントが見られた。
「鬼十則」とは、電通4代目社長の吉田秀雄さんが作成した、かつての社訓のようなもの。現在は社員手帳からも削除され、電通グループの研修内容にも入っていない。
ただ、多くの社員の中に、今も行動指針として根付いているようだ。
【スライド】異端から王道に。電通の歴史と「鬼十則」事実、前述した電通ビジネスデザインスクエアの立ち上げメンバーである西井美保子さんは、下の記事で「常にクライアントと本音で話すことを意識し、事業のダメなところは指摘する」と語っている。
まさに「摩擦」を恐れず、「目的完遂」に必要な打ち手を考え抜いて支援しているということだ。

【コンサル】電通の新職種「ビジネス・デザイナー」とは
西井さんは電通総研に入ってすぐ、「電通ギャルラボ」や「電通若者研究部(電通ワカモン)」を立ち上げて『パギャル消費』(日経BP)という書籍を出すなど、自身の興味から新たな仕事を創り出すことにも成功している。
ちなみに鬼十則は、電通の社員以外にも役立つ心構えになっている。総合商社の丸紅に勤める細江康将さんは、モノを持たないビジネスという共通項もあってか、仕事のバイブルにしているそうだ。
自分は広告業界に身を置いていませんが社会人としての考え方を学ぶいい書
こうして社内外で語り継がれる「鬼十則」や、電通社員の仕事への姿勢を知ることで、企業理解が深まっていくだろう。
最後に、就職・転職倍率が高いと言われる電通に採用されるためのヒントを紹介しよう。
新卒で電通に入社し、クリエイティブ・ストラテジストとして活躍する用丸雅也さんは、電通社員の共通点として「戦略的な非常識人」というキーワードを挙げている。

【中の人に直撃】電通プランナーの仕事内容・面接対策を徹底解剖
あえて突飛な発想をしつつ、それがただの非常識で終わらないように納得感を持たせることが重要で、そのスキルは後発的に身に付けられるという。
上の記事では、電通の各職種の違いや、社員の1日のスケジュールなども動画で紹介している。ぜひ見て理解を深めてほしい。
【業界研究:広告】電通、博報堂を知るための10記事
文:平野佑樹、編集・デザイン:伊藤健吾、バナーフォーマット作成:國弘朋佳