職種別「スタートアップで働く」のリアルを知る、中の人の投稿15選

2022年7月20日(水)

就職・転職前の不安を解消

2018年度は8.6%だったのが、2021年度の上期には21.4%に。

これは大企業からスタートアップへの転職比率を示す数字だ(ハイキャリア向け転職サイト「AMBI」調べ)。

「日本にはシリコンバレーのようなスタートアップ文化が根付かない」と言われていたのは今は昔。下の記事を読むと、スタートアップで働くことは多くのビジネスパーソンにとって「普通の選択肢」になっている。

【完全解説】今、スタートアップ転職は「正しい」のか?

裁量が大きい、個人としても成長スピードが速い、面白い事業に直接携われる、働いている人たちが魅力的etc……。スタートアップへの就職・転職を考える理由は人それぞれだが、よくある不安はある程度一致している。

ズバリ、不確実な経営環境の中で(会社も自分も)サバイブできるのか?という懸念だ。

起業経験者やベンチャーで働く人たちからすると「それは全てあなた次第」と言いたくなるのも分かるが、どんな挑戦にも不安はつきまとうもの。

働くイメージくらいは、ある程度描いてから入りたい。それが本音だろう。

そこで本稿では、JobPicksに経験談を投稿しているロールモデルの中で、スタートアップで働く人たちの声を「職種別・役割別」にピックアップ。

就職・転職後の仕事ぶりを想像する一助にしてほしい(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。

経営・組織運営のリアルを知る

まず取り上げるのは、スタートアップの経営にかかわるCxO(最高責任者)たちのコメントだ。

景況や市場の変化という荒波の中で“小さな船”を漕ぎ出すには、どんな心構えが必要なのか。4人のロールモデルをピックアップして紹介していこう。

■ 経営者と◯◯人を使い分ける

2014年にサイバーエージェントへ新卒入社して以来、BASEやペイミーなどでWebマーケターとして活躍してきた宮脇啓輔さんは、2019年に自ら起業。

マーケティング支援を手掛けるunnameの代表として舵取りを担う中で、次のような発見があったという。

経営者と◯◯人を使い分ける

経営者かつ一人で創業した場合、個人と会社のWillが混ざっていること

事業フェーズや状況に応じて、人格を使い分ける。シビアな意思決定を下さなければならないことも多い立場で仕事をしていく上で、参考になる考え方だ。

■ 常に冷静に、Plan Bを

育児・保育関連の課題をテクノロジーで解決する「Childcare-Tech」スタートアップのユニファ。同社でCFO(最高財務責任者)を務めるHoshi Naotoさんの前職はモルガン・スタンレーだ。

世界的な大企業からスタートアップの経営陣に転身してから、最も印象に残っている「先輩からのアドバイス」は以下のような内容だった。

常に冷静に、Plan Bを。

メルカリの会長である小泉さんから頂戴したアドバイスとなりますが、

「どんな素晴らしいスタートアップでも、全てのチャレンジを成功させることは不可能」。この前提に立った上で戦略を考えるのが大事ということだ。

■ 今が一番暇だと思って取り組んだほうがいい

経営を支援する立場から、実践する立場へ——。

A.T. カーニーから支出管理のSaaSプロダクトを運営するLeaner Technologiesに転職した田中英地さんは、スタートアップCOO(最高執行責任者)としての心得を先輩COOから学んだ。それが、下のアドバイスだ。

”今が一番暇だと思って、何事にも取り組んだ方がよい”

これは、創業メンバー兼アドバイザーである成田さん(クラウドワークスC

この視点はどんな職種でも求められるだろう。

■ コントロールできる悩みはストレスにはならない

MBA留学を経てスキルマーケット「ココナラ」を創業した南章行さんの投稿は、スタートアップの経営で突き当たる問題を端的に示している。

次の2つが、理屈では捉えにくい「最もアンコントローラブルな事柄」だからだ。

実は、コントロールできる悩みはストレスにはならない

自分でコントロールできる悩みは、どうであれ自分で決めるだけなので、さ

南さんの経営者としての考え方は、以下のインタビューで深掘りしているので、ぜひ読んでもらいたい。

【必読】「人生の経営者」になれば、誰もが自分らしく生きられる

BizDev・マーケのリアルを知る

続いて取り上げるのは、多くの就職・転職希望者が「憧れの仕事」として挙げることの多い事業開発やマーケティングについて。

キラキラしたイメージとは異なり、スタートアップの中の人たちはこんな日常を送っている。

■ 失敗はない。成功か学び

2019年からクラウドファンディングの「READYFOR」で事業開発を行う中山貴之さんは、あるVC(ベンチャーキャピタリスト)からもらったアドバイスが教訓になっているという。

失敗はない。成功か学び

スタートアップなので、会社にこの職業の先輩や同僚はいないのですが、 もともと新規事業をたくさん手掛けられた、あるVCの方から教わった “新規事業に想定外はつきもの。成功か学びしかないと思え” という言葉は仕事上の教訓になっていると感じます。 新規事業はとにかく凹むことが多いです。 企画は社内で没になるし、営業に行っても売れないことも多いです。 いざ事業が始まっても、最初の想定の甘さから思わぬ不手際でお客様に迷惑をかけてしまうことや、仲間にハードワークを強いらざるを得ないことも少なくありません。 昨年初めて、新規事業におけるサービスオペレーションの構築を行った際に お客様の要望の細部までの理解が十分でなかったためにサービスを世に出す前日に深夜までお叱りを頂いたこともありました。 この時は社長に連絡してお客様に謝ってもらい、何とか場を納めてもらったのですが、お客様にも、一緒に謝ったチームメンバーにもふがいない気持ちになりました。 ただ、そこで“失敗”ととらえて落ち込んだところで事態は好転しないので、 それ以降毎週、“今後起こるかもしれないこと会議”という ただただ今後起こりそうな“しくじり”をブレストしてそれが起こらないような対応策を考えるようにしました。 それ以降は、お客様からお叱りを頂く機会は減り、連続して複数社に対して提供させて頂く形のサービスだったのですが2社目以降のお客様からはお叱りを頂くことなく進行することができました。 業界の大先輩が“新規事業に想定外はつきもの。成功か学びしかないと思え” とおっしゃってくれていたおかげで、 僕も“あんなスゴイ事業を起こした人でも失敗するとか言っていたな、まあ凹んでいてもしょうがないし頑張ろう”と気持ちを立て直すことができたのは良かったと思います。

コメントにある「今後起こるかもしれないこと会議」のエピソードは、乱高下を繰り返すスタートアップで事業運営をリードする上でとても参考になる。

■ 実行力「だけ」を強みにするな

スタートアップは小さな組織だからこそ、個々のスキルと実行力が問われるのは事実。しかし、それだけを強みにするのは危ういと語るのは、観光スタートアップの一つBuddyCompassのCMO(最高マーケティング責任者)田井中友裕さんだ。

下の投稿を読むと、ゼロベースで仕事を生み出すことが問われるスタートアップならではの特徴が垣間見える。

思考するのを楽しめるかどうか

向いている人と向いていない人の資質は、思考することを楽しめるかどうかが一番大きな特徴だと考えています。 ブランディングで向き合う対象はとても抽象的です。クライアントの思想や理念、複雑で先が見えない社会環境や人々のインサイトなどなど、膨大な情報源をどのように解釈してクライアントの事業やサービスに結びつけていくのかが鍵になります。 この設計は最初は先が見えないのでかなりプレッシャーを感じる瞬間もあります。その中でも考え抜いて自分たちなりのひとつの解を見つけることが大切で、そのためには常にクライアントのために思考し続けることが重要な資質になると思います。 逆に答えを受け身で求めること人や、強みが実行力にあるタイプの方は、あまり合わない可能性があります。

「こうやれば仕事が回る」という模範や事例がない中で働く苦労があるということだろう。

■ 相手にしているのは「市場とチームメンバー」

世界にイノベーションを!と意気込むBizDev担当者には、つくばと新潟を拠点にデジタルソリューションを提供しているフラーの事業開発執行役員・林浩之さんのコメントをぜひ読んでほしい。

事業開発は何と向き合わなければならない仕事か?が読み取れるからだ。

制約によって「イケる」と思った事業が形にならないこと

自分はモノを作れない。 その前提で事業を考えるため、時に「これは絶対

変化への適応力を高めるには、市場と組織、両方に目を配らなければならない。

そのために問われるスキルセットなどについては、林さんが登場する下のインタビュー記事も参考にして学んでほしい。

事業開発とは?求められるスキルは「考え方の引き出し」を増やすこと

プロダクト開発のリアルを知る

自分たちが生み出すモノやサービスで、産業に破壊的イノベーションを起こすのがスタートアップの醍醐味だが、アイデアを形にするまでには途方もない苦労がある。

ここでは、そんな環境で働くエンジニアやデザイナーの経験談を紹介していこう。

■ ユーザーの意見や提供者の妄想でプロダクトを作るな

見出しだけでドキっとする投稿をしてくれたのは、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を手掛けるShippioのUXデザイナー・西藤健司さん。

今年3月に同社に転職する前から、エクサウィザーズなど数々のスタートアップでプロダクト開発に携わってきた彼は、次のような視点を大事にしているという。

ユーザの意見や提供者の妄想でプロダクトを作るな

顧客志向の重要性について学びました。 中でも、下記2点は今での仕事をする上で重要視しています。 ・顧客の意見ではなく、行動を見る ・提供者の思い込みは信じない(だからこそできるだけ早く顧客からのFBを貰いに行く) UXリサーチを、「顧客の意見を聞くこと」と捉えていた私にとっては印象深かったです。 結局「意見」は第三者目線の他人事にしかならず、「本当に自分の生活/仕事の中で使いたいと思っているか」からしか 良いインプットは得られない、その「自分の生活/仕事の中で使いたいかどうか」を考えさせるためのTipsなりテクニックは、 地味に生活でも役立っている気がします。 「顧客のため」といいつつ、要望を色々取り入れるのではなく、重要な指針を持って、 かつ深いインサイトを持って体験を設計していく「UXデザイン」のロールは今後も 非常に大切になってくると感じています。

■ PMF(プロダクトマーケットフィット)を生む3つの視点

西藤さんの言う「インサイト」を見いだす上で、HRスタートアップのアトラエで働くUIデザイナーの竹田哲也さんが重視しているのは「アウトプット・批判・質」だそうだ。

特にアウトプットは「100%完璧なモノでなくても議論の呼び水になればいい」と考えるのが大事だという。

いかに価値ある失敗(プロトタイピング)を繰り返し、チームと対話できるか

これまでの経験から以下の3つのマインドセットが大事だと思っています。 ▼アウトプットは議論の材料 プロトタイプやモック、図解などのアウトプットは、デザイナーとエンジニア、開発チームとカスタマーサクセスチーム、上司と部下、などいろんな役割同士のハブになります。アウトプットを中心に対話や議論をすることで、個々の認識が合ったり、違和感を共有したり、新たなアイデアが出てきたりします。言葉だけでは議論は空中戦になりがちですが、パッと図解でもUIでもデザイナーがアウトプットすることで対話や議論を誘発することができるのです。 そう捉えるとアウトプットは100%完璧なモノでなくても議論の呼び水になればいいとも思うのです。 ▼批判は磨く種 前述したアウトプットで議論がうまれると、時には他者からのいろんな批判や指摘をされることがあります。やっぱり批判はデザイナーにとって辛く、ネガティブになってしまったりで、聞きたくないものです。しかし、「この批判は良くする為の種である。」「もっと良くできる箇所を教えてくれた。」と捉えられると、少し受け止めやすくなりますし、カイゼンして課題を乗り越えられるとアウトプットのクオリティも耐久性もグッと上げられます。どんな時もピクサーのブレイントラストだ。というイメージですね。 ▼質は磨いた回数 プロトタイピングなどカイゼンを繰り返しアウトプットすると、その度に新たな気づきがもらえます。今までわからなかった未知の発見があったり、改善したことがうまくできているか確認できたり、繰り返すことでアウトプットのクオリティは上がっていきます。最初のアウトプットで一発OKは、ほぼないと思います。フィードバックやリフレクションしながら、カイゼンを繰り返すことでクオリティが上がっていくので、質は回数に比例すると言えます。 今の時代、デジタルプロダクトづくりにおいて一人で完結することはほぼありません。UIと機能はセットで考えて落とし込んでいくことが求められます。その為、デザイナーからすると必ずエンジニアと共創することが必要です。3つのマインドセットを持ちながら、チームと対話できると良いですね!

今の時代、デジタルなプロダクトづくりにおいて「UIと機能はセットで考えて落とし込んでいくことが求められる」(竹田さん)。

だからこそ、この3つのマインドセットを持ちながらエンジニアと共創するのが大事なのだ。

■ 自分が成長したければ、会社の成長に貢献することだけを考えよう

そのエンジニアサイドの声として、同じくアトラエの佐藤夢積さんは、こんな教訓を大事にしているそうだ。

スタートアップで働く意味を象徴するような考え方を強く意識するようになったきっかけ(1人でAndroidアプリの開発を担当することになった時のエピソード)も興味深い。

「自分が成長したければ、会社の成長に貢献することだけを考えよう」

会社の先輩が書いたブログです。 ぜひ検索して原文も読んでみてください

■ 会社よりも自分優先

佐藤さんが書く「求められる成長」とは、一見真逆のように感じるかもしれないが、ECサービスのBASEでエンジニアをする炭田高輝さんのコメントも示唆深い。

いつ、どんな変化があるか分からない状況で存在意義を発揮するためには、次のような姿勢も求められるのだろう。

会社よりも自分優先

「仕事量をコントロールして、自分の勉強の時間は確保しろ」 エンジニ

日々の仕事に忙殺されるだけではない時間マネジメントも問われる世界ということだ。

コーポレート部門のリアルを知る

最後は、拡大か撤退かの二択を迫られることの多いスタートアップで組織運営を支える、人事や経営企画のロールモデルに学んでみよう。

■ “ひとり人事”が実感する向き・不向き

勤務シフト自動作成サービスの「Shiftmation」などを手掛けるアクシバースで“ひとり人事部”として働く小野雄太さんは、この仕事の向き・不向きを次のように語っている。

強いて言うなら・・・

個人的に前から思っているんですが、人事の担当領域は幅広で、全てを網羅

自社の労働環境も目まぐるしく変わっていく中で、いかに適応力のある組織を作り上げるか。

この課題に相対する立場として、過去のやり方に固執してしまう人は向いていないというのもうなずける話だ。

特に大企業からの転職者は、気を付けたいポイントだ。

■ 相手の視点を理解しようとする優しさと葛藤

広告ソリューションを提供するThe Breakthrough Company GOで経営企画を務める勝田彩子さんは、「何か想定外のことがあっても動じない、何とかすると思える度胸も大切」だと投稿している。

「相手の視点を理解しようとする優しさがあり、葛藤に強い人」

あらゆるステークホルダー(社員や顧客含む自社に関わってくださっている全ての人)の視点に立ちながら、会社にとって一番良い意思決定ができるような支援をしていく仕事なので、相手の視点を理解しようとする想像力を持ちつつ、決めなければいけない時に決めるという葛藤に強い人が向いていると思います。人には優しく在りつつ、コトには厳しく冷静に向き合える人が向いているように思います。 あとは、何か想定外のことがあっても動じない、なんとかすると思える度胸も大切だと思います。特にベンチャー企業は毎日いろいろなことが起こるので、動じない心の強さも必要だと思います。 逆に視点が偏ったり、関わるステークホルダーへの視点への想像力や、想像しようとし続ける姿勢がない人は向いていないのではないかと思います。

最後は気持ちと言ってしまえばそれまでだが、あらゆるリソースが足りない状況下で「やり抜く姿勢」が問われるのは間違いない。

この現実を表す投稿として、次に紹介するエクサウィザーズの人事・Yoritaka Handaさんの経験談もぜひ読んでほしい。

■ 自分が連れてきた仲間が船を降りるとき

自分が連れてきた仲間が船を降りるとき

ベンチャー企業は、成長のフェーズに合わせ活躍する人材は変わっていくため、事業の成長のために別れが必要になるフェーズも訪れます。事業が急成長すればするほど、成長スピードに合わせて個人が成長する必要があります。また、それぞれのライフステージややりたいことも変わっていきます。 苦楽を共にした人との別れは、頭の中では納得していても、心のなかで寂しさを感じてしまうのは人間としてはどうしようもないこと。ちょっとしたボタンの掛け違いだったり、会社の仕組みなどで防げたかもしれないときは結構辛いです。 ただ、くよくよしてても舟は前に進まないので、結局は更に漕いで進むのみです。人情と戦略のバランスをうまくとるのが人事のうでの見せ所だと思います。

「人情と戦略のバランスをうまくとるのが人事の腕の見せどころ」。

このバランス感覚の重要性は、小売DXを手掛ける10Xの広報・中澤理香さんのコメントからも読み取れる。

■ 広報はサーフィンのような仕事

事業を強力にドライブできる

企業における広報の目的は、事業の成長に寄与すること。つまり。事業やサ

波を見極め、良いタイミングで波に乗り、一気に加速する。これはスタートアップにおける全ての職種に求められる視点だ。

事実、米国で数々の成長スタートアップを育てたインキュベーション企業Idealabの創業者ビル・グロスさんは、「新規事業を成功させる一番の要因はタイミングだ」と断言している(下のTED動画参照)。

このタイミングをつかむために、狙う市場の動きや自社の現状をつぶさに観察するのも大事な仕事になるのだ。

合わせて読む:【Q&A】スタートアップ転職の「不安」に答えます

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