【なぜ】残業も叱責もない「働きやすい職場」を去る若者の本音

【なぜ】残業も叱責もない「働きやすい職場」を去る若者の本音

    なぜ、若者は「働きやすい」職場を去るのか——。


    ここ数年、労働法の改正や働き方改革の推進などを背景に、労働時間の短縮やハラスメント対策が一気に進んだ。


    それに伴い、長時間労働や上司からの叱責がない、いわゆる「ホワイト」な職場が増えているが、実は今、こうした職場を離れる若手社員が増えているという。


    一体、なぜなのか。


    若者のキャリア形成や職場環境に詳しいリクルートワークス研究所の古屋星斗(ふるや・しょうと)さんに、当事者である若者とマネジメント層、それぞれに向けたアドバイスとともに聞いた。

    古屋さんプロフィール

    目次

    「ありのまま」と「何者」のジレンマ


    —— 長時間労働や上司による厳しいマネジメントがない、いわゆる「働きやすい」職場を去る若者が増えていると聞きます。一体なぜでしょうか?


    古屋 結論から申し上げると、働きやすいがゆえに、「本当にこの職場にいて大丈夫なのか」と不安を感じているからです。


    残業も休日出勤もないし、上司からの厳しい叱責もない。


    それ自体は望ましいことですが、一方で若者たちは「きちんとスキルが身についているのか」「社会にとって有用な人間になれているのか」と、自身のキャリアの「サステナビリティ」を、非常にシビアに考えています。


    私が入社1〜3年目の若手社員を対象に実施したインタビューでも、「業務量はほどほどで、会社の人間関係も良好。居心地はよいが、このままでは成長できないと感じて焦る」と答える方が一定いました。

    Photo:iStock /StockSeller_ukr
    Photo:iStock /StockSeller_ukr

    こうした不安の背景には、若者たちの持つ、とある複雑な感情があると考察しています。


    それは、「ありのままでいたい」「何者かになりたい」という、時に矛盾するキャリア観を、同時に抱いていることです。


    「好きな場所で、好きな時間に働きたい」「自分の強みを生かして、後悔なく仕事をしたい」と、世間など関係なく、“ありのまま”の自然体で過ごしたいと思っている。


    一方で、「この職種で一人前になりたい」「30歳までに自分だけの成功体験を得たい」といった、“何者”かになり、社会で認められたいという気持ちもある。


    SNSなどで、「ありのままに生きる人」と「若くして何者かになった人」のストーリーが繰り返しシェアされるなかで、こうした2つのキャリア観の間で揺れ動く若者が増えているのです。

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    現在の職場環境は、“ありのまま”への欲求には応えられていますが、“何者かになりたい”という欲求には、あまり応えられていません。


    過剰な労働がなく、自分の行動に対して否定的なリアクションが来ない、「心理的安全性」が高い職場は増えました。


    ですが、働きやすさを追い求めるあまり、他の職場でも通用するスキルが身につく、その後のキャリアの選択肢が増えるといった「キャリア安全性」の低い職場も、同時に増えてしまった。


    この「キャリア安全性」の低い職場のことを、私は「ゆるい職場」と呼んでいます。


    部下に「気を使う」上司たち

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