「目標から逆算」は無意味。新卒3年、キャリアの悩みはこう解消せよ

2022年9月16日(金)

キャリアの不安は「当たり前」

高橋 今回は、若者キャリアの専門家である古屋さんに、キャリアの考え方についてぜひお伺いできればと思っています。

まず、少しだけ私の話をさせていただきますと、現在新卒3年目になり、ようやく仕事に慣れてきて日々充実感はあるものの、キャリアについては漠然とした不安を抱いています。

転職をしたり、起業をしたりと新たなチャレンジをする友人たちを横目に、今の仕事が自分に向いているのか、入社してから私は本当に成長できているか、と考えてしまうんです。

古屋 キャリアが浅いうちは、不安も多いですよね。研究の一環で若手社会人と話をしていても、「将来の不安がまったくありません」なんて人は、めったにいません。

ただ、キャリアが不安なのは、実はものすごく健全なことです。先が長い分、迷いが生まれるのは当たり前ですし、何より、自分の人生と真剣に向き合っている証拠ですから。

実は、今の若者は、上の世代と比べてキャリアに悩みやすい環境に置かれているんです。

これまでは「入社したら定年まで勤め上げる」のが一般的で、人生を30歳、40歳、50歳と、大まかに見通せましたが、終身雇用制も徐々に崩れ始め、今や転職や独立もスタンダードになってきている。

つまり、「キャリアの自由度が高くなった」のと同時に、「会社が安定を保証してくれなくなった」わけです。

高橋 たしかに、「自分のキャリアは自分で作る時代」とよく言われますよね。

古屋 そうなんです。加えて、ここ数年は働き方改革が進んだり、コロナ禍でリモートワークが普及したりして、仕事以外に使える「余白」が格段に増えました。

働きやすくなったのは非常にいいことなのですが、一方で空いた時間で副業をするのか、趣味に使うのか、それとも何か勉強を始めるのかを、すべて自分で考えなくてはいけなくなった。

キャリアだけでなく、日常の過ごし方まで、意識ある選択が否が応でも求められるようになり、若者を悩ませる大きな要因になっています。

「スモールステップ」が何より重要

高橋 誰しも不安があるという前提のもと、自分らしく、納得感を持ってキャリアを築けている人と、そうでない人には、どんな違いがあるのでしょうか?

古屋 結論からいうと、「小さな行動」を積み重ねられるかが分かれ目になります。

高橋 「小さな行動」ですか?

古屋 はい。言葉通りの意味ですが、本当に「一歩踏み出すかどうか」くらいの小さな行動が、実は後々の大きなキャリアの差を生むことが、研究でわかってきています。

たとえば、「気になることがあったらすぐ調べる」とか、「会社で他分野・他部門の人と積極的に関わってみる」とか。そういった小さなアクションが、非常に重要なんです。

我々が行った調査でも、イントレプレナーとして社内で起業したり、社外でさまざまなプロジェクトを立ち上げたりといった、いわば「大きな行動」を起こしている人は、普段から「小さな行動」を積み重ねている傾向がある、という結果が出ています。

高橋 たしかに、私が普段キャリアに関してインタビューをさせていただく人たちも、「きっかけは、本当に些細なものだった」と言う方が多い気がします。

それこそ、「たまたま気になって手にとった本をきっかけに転職をした」とか、「勉強会で知り合った人と意気投合し、一緒に起業することになった」とか。

古屋 まさにそういうことです。本を読む、勉強会に行くといった、身近な行動を何回か積み重ねていくと、それまで知らなかった世界を知れたり、新たな仲間ができたりする。

それがやがて「大きな行動」につながり、自分のキャリア観が変わったり、また次の小さな行動へと変化したりするのです。

私は、この「小さな行動」を起点とした行動モデルを、「スモールステップ」と呼んで、今後のキャリアづくりの参考にすべきものとして提唱しています。

スモールステップは、それ自体では「承認欲求」や「自己実現欲求」といった高度な欲求は満たせませんが、行動を積み重ねることで、自分の考え方や価値観に、確実にプラスの影響を与えてくれるのです。

高橋 キャリアを築くというと、どうしても昇進や転職といった大きなゴールに目が行ってしまいますが、まずは身近なところで行動を起こすのが大事なんですね。

「ビジョンから逆算」はしなくてOK

高橋 でも、実際にスモールステップを実践しようとした場合、具体的にどう行動を決めていけば良いのでしょうか?考えようとしたものの、パッと思いつかなくて……。

古屋  いざ意識的にやろうとすると、結構難しいですよね。そういう時は、まず自分の「動機」から探るのがおすすめです。

普段、何をしていて嬉しいと感じるかとか、人よりもこれは得意かも、と思うことは何かとか。そういう自分の中にある「動機」から問いを立て、行動のヒントを得ていくんです。

たとえば、高橋さんは普段どんな時に楽しいと感じますか?

高橋 やっぱり、編集という仕事柄もあって、人と会ってお話しするのは楽しいなと思います。今はコロナ禍で少し減ってしまいましたが、学生のときから飲みに行くのも好きでした。

古屋 なるほど。ならば、「そもそも、なぜ人と話すのは楽しいのだろう?」という問いを起点に、さらに自分の動機を掘り下げたり、そこで得たヒントから調べ物をしたりすると、また新しい発見があるかもしれません。

もしくは、人と会って話をする職業、たとえば、営業職やコンサルタントの人は「普段どんな話し方をしているんだろう」と、まずは実際に会って話してみるのもいいかもしれませんね。

高橋 普段仕事をしている時はあまり考えませんが、意外と身近なところからヒントは得られるのですね。

古屋 そうなんです。そして、スモールステップの特徴は、壮大な「ビジョン」がなくても、行動が起こせること。

よく、キャリアに関して自分のビジョン、たとえば「30歳、40歳の時点でどうなりたいか」とか「社会人人生で何を成し遂げたいか」から逆算しましょう、と説く方がいますが、個人的には懐疑的です。

高橋 えっ、そうなんですか!将来の目標からしなきゃ……と思いつつ、いつも目標が思いつかず、焦っていました。

古屋 もちろん、逆算型の目標設計を得意とする方も中にはいますが、10年スパンの計画を立てられる人は、極めて稀でしょう。

そもそも、1年、2年後に何が起こるかだって見通せないのに、10年後、20年後の目標を立てるなんて、結構無理がある話なんですよね。

会社の業績がどうなるかもわからないし、自分のプライベートの環境だって、大きく変わっているかもしれません。

なので、目標から逆算するよりも、いま自分を突き動かしている動機を起点に行動を決めたほうが、今に「効く」選択肢が選べるというわけです。

これは私が言っているだけではなくて、キャリア研究で有名な「計画的偶発性理論」や「キャリア・ドリフト」という考え方に近いので、気になる方はぜひ調べてみてください。

気持ちより、まず「行動」を変える

高橋 ちょっとずつ、何らかの行動ができそうな気がしてきました。

ただ、「小さな行動」とはいえ、はじめの一歩を踏み出すのって、難しいなとも感じます。なんというか、リスクもある気がして……。

古屋 たとえば、どんなリスクですか?

高橋 そうですね……思い切って誰かにTwitterでDM(ダイレクトメール)を送ってもスルーされるとか、何か発信をした時に、周りに「いきなり意識高いこと言ってるな」と思われるとか、ですかね。

古屋 最初は結構緊張しますよね。ただ、それって、よくよく考えてみるとリスクでもないかもしれないですよ。

DMをスルーされたり、意識が高いと思われたりするのも、一時的には悲しいですが、スモールステップで失うものって実はあんまりないんですよね。

もちろん、犯罪に巻き込まれたりするのは別なので、それは注意が必要ですけれども。

高橋 たしかに、それはそうかもしれません。

古屋 でも、高橋さんのおっしゃる通り、やっぱり「気乗り」しないというのは、ごくごく自然なことだと思います。

というのも、これまでは「気持ち」があって、初めて「行動」が起こると考えられてきましたが、近年は逆に、「行動」があるからこそ「気持ち」がわき起こると、実証され始めているんです。

つまり、実際に何らかの行動を起こして初めて、だんだんと気持ちが追いついてくる。

高橋 やっているうちに気分が乗るのはわかります。家事とか運動とかも、そうですよね。

古屋 そうそう、そんな感じです。スモールステップについてお話ししてきましたが、本当に特別なことではなく、実は読者のみなさんも、これまでの人生で必ずやってきているはずなんですよね。

改めてこれまでの出来事を振り返ってみると、ああ、たしかにこれはスモールステップだったな、と思う行動があるはずなんです。

そういう意味では、これまで実践したスモールステップを思いつく限り棚卸してみたら、また新たな気付きが得られるんじゃないかと思います。

高橋 なんだか、漠然とした不安がちょっと解消された気がします。早速、今日からできることを試してみたいと思います!

【参加型】安宅和人氏らと描く「3年後の自分を変える」シナリオ

取材・文:高橋智香、編集:伊藤健吾、デザイン:浅野春美、写真:遠藤素子