「新入社員の頃は上司に言われたことをやればよかった。しかし最近は自分の頭で考えて動くことが求められて、何をしたらいいかが分からずつらい」
そう悩んでいる若手社会人は多いのではないだろうか。この記事を読んでいるあなたは、もしかしたらタスク(課題)ベースで働くという罠に陥っているのかもしれない。
経営コンサルティングファームのA.T. カーニーに新卒入社した藤熊浩平(ふじくま こうへい)さんも、コンサルタント1年目の頃は、上司に振られた仕事をタスク的にこなしていた1人だった。
しかし2年目にかけられた言葉を機に、仕事への意識が大きく変化。のちにボストン コンサルティング グループやフィールドマネージメントで要職を務めるまでに成長した。
「タスクはあくまで手段でしかない。出すべき結果から計算するべき」と語る藤熊さんの経験談から、新人がやらされ仕事から脱却するヒントをひも解いていこう。
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—— コンサル1年目を振り返ると、どんな働きぶりでしたか?
私が新卒入社したA.T. カーニーでは、新人時代からクライアントの現場に出されます。そのためあれこれ考える余裕がないほど忙しく、睡眠時間の少なさと戦いながらがむしゃらに上司から振られた仕事をこなす毎日でした。
上司からの評価は、「言われた仕事はそつなくこなしてくれる人」みたいな感じだったと思います。
当時を振り返ると、さまざまな経営数字を調べてエクセルで分析したり、そこから見いだした考察をパワポにまとめるなど、とにかく目先の仕事に追われていたなと反省しきりです。
仕事のタスク管理をすること自体は間違いではありません。1年目に基礎的なビジネススキルを身に付けるという意味で、「タスクベース」で仕事のイロハを覚えていったのはよかったと思っています。
しかし、タスクというのはその先何かの価値を提供するための手段としてあるはずです。タスクがゴールではありません。
1年目はそれを意識することができていませんでした。
—— その「タスクベース」から脱却しようと思ったきっかけは?
入社して2年目に担当したとあるプロジェクトの終わりに、メンターだったマネージャーから1on1でもらった
「そろそろ、タスクベースではなく、バリューベースで仕事をしてみようか」
というアドバイスが、バリューを意識して働くきっかけになりました。
同業の先輩や同僚にアドバイスされたことで、最も仕事上の教訓になったことは何ですか?
バリュー(提供価値)ベースで仕事をする
「そろそろ、タスクベースではなく、バリューベースで仕事をしてみようか」
これは、私が新卒2年目の時に、当時のメンターだった人からいただいたアドバイスです。
私は新卒でコンサル業界に飛び込んだので、最初の1年は、ただ目の前の与えられた仕事に全力投球して、相手の期待値を超えることで精一杯の日々でした。
この時の「仕事」とは「タスクをこなす」ことで、今振り返ると当時の自分は、「便利な作業屋」になっていたと思います。
学生あがりだった私は、...
まだ何者でもなく、誇れるのは体力くらいだったので、コンサルスキル以前のビジネススキルを身につけるのに必要な期間だったとは思います。
ただ、この仕事の本分は、クライアントを介して世の中に新たな価値をつくり出していくことで、その目的のために目の前のタスクや作業がある、というのが本来の順序です。
そんな当たり前のことに、改めて気づかせてくれた言葉でした。
「バリューベースで仕事をする」、言うは易しですが、実際の行動に移すにはハードルがあります。
まず、そもそも何がクライアントや世の中にとっての「バリュー(価値)」になるのか、がクリアになっている必要があります。
その上で、自分がどういう活動に、どれだけの時間を使えば、どれくらいのペースで価値が積み上がっていくのか、が分かって初めて、リソース配分ができるようになります。
そういう意味では、今もなお、「バリューベース」で仕事ができているか、日々模索中ですが、その意識を持つことで、仕事に向き合う姿勢は間違いなく変わります。
「タスクベース」で仕事を受けると、「How(どうやるか)」が気になります。そのタスクありきで、いかに効率的にこなすか/いつまでに終えられるか、が関心事になるからです。
「バリューベース」で仕事をすると、「What(何をすべきか)」や「Why(なぜすべきか)」が気になります。最終的に価値につながる仕事でないと、意味がないからです。
時が経ち、私がチームを率いて、メンバーをマネージする立場になった時、先ほどの言葉をいただいた人から、また貴重なアドバイスをいただきました。
「メンバーを、スキルセットの集合体と捉えるか、バリューの集合体と捉えるか、それによってマネジメントの仕方は変わるよ」
コンサルファームでは、各コンサルタントは、プロフェッショナルとして日々成長が求められ、「Development needs」という言葉がよく飛び交います。
そうして、コンサルスキルのレーダーチャートのパイを、大きく、正多角形に近づけていこうとします。
なので、ともすると、コンサルタントを「スキルセットの集合体」と捉え、あれはできている/これはできていない、というような見方をしてしまいがちです。
他方、コンサルファームに集うメンバーは皆個性豊かで、好きなこと・得意なこと、情熱を傾けられるもの・夢中になれるもの、それぞれです。
プロジェクトも、クライアントの業種や取り組むテーマ、働き方など、さまざまです。
マネジャーの仕事は、チームとしてのバリュー(提供価値)を最大化することです。
そのためには、「スキルの塊」としてではなく、意思や感情を持った個性豊かなメンバーの力をいかに最大限引き出すか、そして、それを価値に転換するために、彼ら・彼女らを含めたチームとクライアントとの化学反応をどうデザインするか、が重要だということを教わりました。
世の中に対する「バリュー(提供価値)」を日々意識しながら、それに貢献しうる/矛盾しない仕事を、これからもしていきたいと思います。
コンサルタントの仕事とは、クライアントとともに世の中に新たな価値をつくり出していくのがゴールになります。そのために目の前のタスクや作業がある、というのが本来の順序です。
しかし、忙しさを言い訳に、本来のゴールから逆算して仕事をすることをおざなりにしていた。そんな大事なことに、改めて気付かせてくれました。
—— なぜタスクベースで働くのはよくないのでしょう?
分析結果や考察をきれいな資料にまとめることが目的化してしまったり、アウトプットするだけで満足してしまうからです。
例え話をすると、私は大学時代、野球に打ち込んでいて、筋トレも自主的にしていたんですね。
筋肉は頑張れば頑張った分だけつくので、筋トレをしていると、それだけで安心してしまうんです。次第に、野球をするのに必要ない筋肉も育てるようになっていました。
野球のために筋肉をつけていたのに、いつの間にか筋肉のためにトレーニングをするようになってしまったんです。本末転倒ですね。
「野球でライバルに勝つ」というゴールから逆算して筋トレをしていたら、こんな無駄なことはしなかったでしょう。
これと同じように、仕事でもタスクをこなすことが目的化してしまうと、本来の働く意味を見失ってしまいます。