広告業界を志望する就活生や、クリエイターへの転身を目指す未経験者の憧れとされるクリエイティブディレクター。
しかし、その仕事内容については「テレビCMを作る人」や「広告制作を統括する人」など、曖昧なイメージしかないという人も多いのではないだろうか。
そこで詳細を探るべく、カンヌ国際広告祭ほか200以上のデザイン賞・広告賞を受賞してきた著名ディレクターの伊藤直樹(いとう なおき)さんに話を聞いたところ、「2020年代になってクリエイティブディレクターの仕事は様変わりしている」という。
事実、クリエイティブディレクターは活躍の場を広げており、広告業界だけでなく、事業会社やコンサルティング会社でも頭角を現している。
伊藤さんが代表を務めるクリエイティブ集団「PARTY」も、最近は成田空港第3ターミナルの体験デザインや、神山まるごと高専のカリキュラム設計を手掛けるなど、広告案件にとどまらない活躍を見せている。
この進化の背景にある事柄を伊藤さんに聞きつつ、これからのクリエイティブディレクターに必要なスキルや、向いている人はどんな人なのかをひも解いていこう。
—— クリエイティブディレクターの仕事内容がよく分からないという人は多いと思います。そもそもどんな役割なのでしょう?
クリエイティブディレクターという職業は、ここ20年ぐらいをかけてゆっくり認知を高め、職能として市民権を得てきたと思います。
歴史をざっくりひも解くと、広告業界ではまず、メディアの発達に合わせてCM、雑誌、ポスターのデザインや、ラジオ広告の原稿を書くような仕事が生まれました。
そこから、言葉による表現を専門とするコピーライターや、ビジュアルのアイデアを司るアートディレクターなどと、得意分野によって役割が細分化されるようになっていきます。
クリエイティブディレクターは、そうした専門家たちをチームとしてまとめる仕事として発展してきました。
なので、クリエイティブディレクターとは「大工の棟梁」もしくは「プロサッカークラブの監督」みたいな仕事だと考えています。
棟梁は大工を統率するのが役割ですが、若い頃は建築現場で大工をやっていた人がほとんどです。サッカーで言えば、プロサッカー選手だったということです。
自分で釘を打ったり、外壁を塗装してきた経験があるから、「いや、そのやり方だと釘を打ち損じてしまう」「壁をこの色にしたければ、これとあの塗料を混ぜるんだ」などとアドバイスができる。
こうして専門家たちを指導しながら、現場を取り持つのが共通点。クリエイティブディレクターも、最初はコピーライターやデザイナーからキャリアを始める人がほとんどです。