ユニークな働き方をする次世代の担い手たちに、15分間のインタビューをする動画番組『働くっていいかも!』。いまどんな仕事をしているのか、なぜそのキャリアに至ったのか、これから何をしたいのか......。友人の紹介もしてもらって、“ビジネスの輪”をつないでいきます。
今回注目したジョブ(職)は「UI/UXデザイナー」。Flatt Secrurity COOの豊田恵二郎さん(#012出演)のご友人である、hicardで働く上江田楓さんに話を聞きました。
──現在、上江田さんが働いているhicardはどんな会社なんでしょうか。
上江田:創業4年目のクリエイティブスタジオです。小磯雄大さんと北川レオさんという共同代表の2人をはじめ、フリーとしても活躍している若手クリエイターたちが集結し、グラフィックデザインの作成や音楽レーベルを立ち上げるなどしています。
また、さまざまな業界のクライアントのUI/UXデザインの設計も任されています。
過去に私が携わったのは、クラウド会計ソフトを展開するマネーフォワードさん。請求書の受領・送付に関わるあらゆる業務を効率化する「マネーフォワード クラウドインボイス 送付プラン」のデザインを担当しました。
他にも、万歩計アプリやSNSアプリなどのUI/UXデザイン設計に携わらせていただきました。
──元々、UI/UXデザイナーとして、hicardに入社されたんですか。
上江田:いえ、まず1年ほどアシスタントとして経験を積んで、2023年4月に正社員として入社しました。
もともと病院で勤務する心理カウンセラーに憧れていて、大学では臨床心理学や発達心理学を学んでいました。当時は、そもそも「UI/UXデザイナー」という職種を知らず、スマホアプリ上の画面設計を意識したことすらなかったんです。
そんなデザイン未経験者でしたが、hicardではスキルの高いクリエイターの先輩方やクライアント様と一緒に働くことができ、着実にスキルアップしている感覚があります。
──キャリアチェンジのきっかけを教えてください。
上江田:UI/UXデザイナーを目指す前に、一度「エンジニア」に興味を持ちました。
きっかけは、大学3年生で参加した病院実習でした。患者さんとそのご家族をつなぐデジタルツール、そして院内の業務フロー改善が必要だと感じたのです。
実習当時、院内での新型コロナウイルス感染症の蔓延を防ぐため、多くの病院が患者さんとご家族の面会を禁じていました。患者さんの様子が病院関係者からの聞き伝えでしか分からない状況が続き、どうすれば本人の声や雰囲気がきちんと伝わるのだろうかと疑問を抱きました。
そして、病院におけるデータ管理の難しさに気づきました。
研修先では、診察や病室の利用状況など管理しなければならない情報がたくさんあるものの、記録媒体はデジタルと紙が混在していました。実習生ながら、これらの情報をデジタルの力でうまく統合させれば、診断や治療に生かせるのではないかと思ったんです。
人と人とのつながりや複雑なデータ管理などの課題を解決するプロダクトに携わりたいと思い、エンジニアリングについて学び始めました。
──最終的に、UI/UXデザイナーを選んだ理由を教えてください。
上江田:学んでいる中で、「幼い頃からずっとコード書いていました」という人と比べると、私は出遅れているのではないかと不安になったんです。
そんな時に、UI/UXデザイナーという仕事を知りました。UI/UXデザイナーは、開発メンバーとの連携や実際にユーザーさんとの会話を通じ、サービスを改善していく仕事です。
これまでカウンセラーを目指す中で大事にしてきた「コミュニケーション」を生かし、チームでより良い体験を考えるUI/UXデザイナーが魅力的な仕事に映りました。
──どのようにデザインを学んでいったのですか。
上江田:最初は独学でスタートしました。当時は正直、カウンセラーの勉強も続けたく、時間的・金銭的な制約を考えるとスクールに通うのは難しかったんです。
その代わり、UIUXデザインについて学べるオンラインコミュニティに参加しました。同じように未経験からUI/UXデザイナーを目指している方とも出会えて、安心して学べる環境でした。
それから、だんだんと基礎を学んでいくうちに、実務を経験したいと思いました。
とはいえ、長期インターンだと美大生であるかなどデザイン経験を問わるケースがあります。そのため、未経験者歓迎のアシスタント職を募集する会社から見ていくことに決め、1社経験した後、hicardにアシスタントとして入社しました。
──hicardでは、どんな経験を積んだのですか。
上江田:最初の頃は、ユーザーインタビューの内容を文字に書き起こす「テープ起こし」の業務や議事録の作成といった、縁の下の仕事から始めました。
UI/Uデザインを作る上で、ユーザーさんの声が重要になってきます。日々の業務におけるボトルネックや、会社として達成したい目標など、デザインに反映できるヒントがたくさん見えるからです。
ただ、漫然とユーザーさんの話を書き起こすだけでなく、プラスアルファとして、重要だと思う箇所をピックアップするように意識しました。先輩たちのキャッチアップもスムーズになりましたし、私自身も、UI/UXデザインを考える上で大事なポイントが見えてきました。
そして、お世話になっているエンジニアさんに「こういったデザインだとどうでしょうか?」と自分なりに提案する習慣をつくりました。実際に、自分なりにデザイン案を考えた上で、エンジニアさん目線のフィードバックをいただけたことは大変勉強になりました。
最初は厚かましいと思われていたかもしれませんが、徐々に「アプリのUIデザイン全体を設計してみないか?」とチャンスをいただけるようになりました。
そういったことをコツコツと積み重ねて、晴れて2023年4月から正社員として登用いただけました。正直、未経験で分からないことばかりでしたが、自分なりにできることを一生懸命続けることができて良かったです。
この仕事に向いている人、向いていない人の資質とは何だと思いますか?
探究心と考え切ることができる人。
多角的に物事を考えることが好きかつ、探究心がある人だと思います。
UIデザインに限らず、時代を跨いで共通化されている原理・原則はあれど、デザインは常に新しいものやトレンドとなる表現が生まれる分野です。前提条件として、新しいツールや知識を習得するためにチャレンジする姿勢はどの分野のデザイナーにも必須です。
加えて、UIデザイン分野においては"知ってる"状態ではなく、どういった場面で使用されることを想定しているのか、なぜこの表現が生まれ...
たのかを正しく理解する必要があると考えます。
なぜなら、新しく生まれたデザイン・トレンド表現は、その起点となったプロダクトに最適化し作られたデザインだからです。
そのプロダクトにおいての最適解が、自分のプロダクトの最適解であるかは限りません。
"このデザインは採用しない"の判断基準を設けるためにも、"どういう時に有効で、何を目指してるデザインなのか"まで深ぼり、自分の中で腹落ちするまで考えることが重要です。
内なる探究心を持ち新しい事柄に触れることを恐れず、物事を一面的ではなく多角的な視点で考えられる人だと、UIデザインを学ぶのはとても好きだと思います。
逆に、自己表現がしたい!こういう雰囲気のデザインがしたい!が明確にある方は、UIデザインではない分野のデザイン領域がいいと思います。
──デザインをする上で大事にしていることはありますか?
上江田:常にユーザーさんの日常生活を想定して、UI/UXデザインを設計しています。
せわしなく働いている時に効率を上げたい、料理をしている最中に見たい、一日の終わりにその日にあった出来事をまとめたいなど、シーンによって求められるデザインや機能が決まります。
私自身、実際にユーザーさんの活動を追体験することを大事にしています。
万歩計アプリのプロジェクトが始まった時には、実際にアプリを入れて、どんな瞬間に画面を見るのか試したんですよね。その翌日に、アプリで歩数を振り返るなど、実際に動かないと見えないパターンがたくさんあることに気付かされます。
また、「マネーフォワード クラウドインボイス 送付プラン」に携わった時は、実際に請求書を発行し、管理することで、その煩わしさを感じました。
そういった日常体験を通して、デザインに反映できるポイントがないか、いつも考えています。
──やりがいを感じる時はいつですか。
上江田:クライアント様の期待を超えた時は嬉しいですね。
もちろん、ユーザーさんから「このアプリは使いやすい」「デザインが可愛い」という声が寄せられた時も嬉しいです。ただ、クライアント様からUI/UXデザインを任されているからこそ、その声にしっかり応えていきたいです。
課題をブレストしたり、デザイン案をお見せしたりした時に、「こういうの欲しかったんだよね」とお褒めのお言葉をいただけるように、今後もユーザーの生活に根ざしてデザインを作っていきます。
この職業について未経験の人に説明するとしたら、どんなキャッチコピーをつけますか?
次回は、上江田さんのご友人で、大手保険会社でUI/UXデザイナーを担当する林麗音さんへのインタビューを公開予定です。
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(文:中井舞乃、池田怜央、映像編集:長田千弘、デザイン:高木菜々子、編集:筒井智子、野上英文)